SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No.5 October, 2012


 

BiS 2 層を有する新奇層状超伝導体登場             _首都大学東京_

 


 首都大学東京理工学研究科電気電子工学専攻の水口佳一助教らのグループ ( 産業総合技術研究所、物質・材料研究機構、電気通信大学、神戸大学との共同研究 ) は BiS 2 超伝導層を有する新しい層状超伝導体を発見した。 Bi 4 O 4 S 3 は超伝導転移温度 ( T c ) が 4.5 K の超伝導を示し、さらに LaO 1- x F x BiS 2 は 10.6 K と比較的高い T c を示した [1-3] 。現在、 BiS 2 層を基本とした超伝導物質の探索レースが日本、インド、中国、米国を中心に繰り広げられている。
  層状化合物では低次元的な電子状態に由来した様々な量子状態が発現する。特に、高温超伝導やエキゾチックな超伝導発現の舞台としてさかんに研究されている。 1986 年にベドノルツ・ミューラーにより発見された銅酸化物高温超伝導体は CuO 2 面を基本構造とし、伝導層とブロック層の積層による結晶構造を持つ。ブロック層の構造や CuO 2 面の枚数を変化させることで T c が 130 K 以上に達している。また、 2008 年に神原・細野らにより発見された鉄系超伝導体も Fe 2 As 2 超伝導層を基本とした層状構造を持ち、ブロック層の選択により局所構造を最適化することで、 50 K 以上の T c が観測される。既存の超伝導物質 ( 銅酸化物系や鉄系 ) より高い T c を実現するための一つの方針として、“新しい超伝導層構造”を発見することが挙げられる。新しい超伝導層が発見されれば、ブロック層の選択などにより高温超伝導やエキゾチックな超伝導機構が見出される可能性がある。
  今回発見された一連の物質は、図 1 に示すような 2 枚の BiS 2 層 ( 伝導層 ) とブロック層が交互に積層した結晶構造を持っている。 Bi 4 O 4 S 3 超伝導体の母相は Bi 6 O 8 S 5 (SO 4 サイトが 100% 占有した場合の組成比 ) であり、バンド計算の結果から絶縁体であることが予想されている。 Bi 4 O 4 S 3 は母相から 50% 程度の (SO 4 ) 2 - が欠損した組成比と一致し、 BiS 2 層に電子キャリアがドープされていると考えられる。また、 LaOBiS 2 においては O サイトの一部を F で置換することで電子キャリアがドープされ、 10 K 以上の T c を持つ超伝導が発現する ( 図 2) 。電子キャリアは Bi-6p 軌道にドープされ、さらにフェルミ準位近傍の状態密度は Bi-6p が主であることから、この BiS 2 系超伝導は Bi-6p 軌道で起こる新しい低次元超伝導であるといえる [4] 。これまでの詳細な物性測定や理論計算から、半導体的領域近傍での超伝導、強結合超伝導機構や電荷密度波 (CDW) 状態との関連、局所構造と超伝導性の強い相関など、様々な可能性が提案されている [5,6] 。
  首都大学東京の水口佳一助教は、「今回の BiS 2 系超伝導体は、鉄系超伝導体と類似のブロック層を有しているため、鉄系超伝導系を参考に多くの新超伝導体が発見されることが期待される。様々な種類の BiS 2 系超伝導体が発見され、その超伝導発現機構が解明されることで、今後の高温超伝導物質開発への指針の一つとなることを期待している。」とコメントしている。日本で発見された新しい超伝導系の研究において、国内のグループが活発に成果をあげ、世界を牽引していくことを期待したい。 ( 麦酒 )

          図 1 .典型的な BiS 2 系超伝導体の結晶構造。左図の Bi 4 O 4 S 3 は、実際には SO 4 サイトの一部 (50% 程度 ) が欠損している。

 

 図 2. LaO 0.5 F 0.5 BiS 2 ( 高圧アニール試料 ) の電気抵抗率の温度依存性 ( 磁場中: 0 - 5 T) 。

 

【参考文献】

[1] Y. Mizuguchi et al ., arXiv:1207.3145 (2012).

[2] Y. Mizuguchi et al ., J. Phys. Soc. Jpn ., in press.

[3] S. Demura et al ., arXiv:1207.5248 (2012).

[4] H. Usui, K. Suzuki and K. Kuroki, arXiv:1207.3888 (2012).

[5] H. Kotegagwa et al ., J. Phys. Soc. Jpn . 81 , 103702 (2012).

[6] K. Deguchi et al ., arXiv:1209.3846 (2012).