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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No.4 August, 2012

＜解説＞　ヨーロッパの電力網の紹介　　　

　中部大学・超伝導センター　山口作太郎　　　 みずほ情報総研・サイエンスソリューソン部 石原範之

　この記事は、中部大学と科学技術振興機構 ( JST ) の 2011 年度に行われた共同研究「高圧直流超伝導送電の社会実装に関する調査研究」の報告書要約であり、 2 回に分けて発表することにした。第一部として「ヨーロッパの電力網の紹介」と題して、主にドイツ、スペインを中心にしてヨーロッパの電力網を紹介する。この中では再生可能エネルギーの導入を積極的に進めている両国がどのように電力網を構築しているかについて紹介を行う。また、「日本での直流幹線導入の可能性（仮）」と題した続編を本誌 10 月号に掲載予定であり、そこでは日本国内に直流送電網を導入するメリットや課題などについてまとめると同時に直流送電への超伝導技術の適用を検討する。

はじめに
　本調査研究は平成 23 年 3 月 11 日の東日本大震災 ( 以下 311 震災 ) 及びそれによる東京電力福島第一原子力発電所の事故がきっかけになった。議論は、 50 Hz-60 Hz の周波数変換所を安価に短い建設期間で作ることから始まり、日本のエネルギー供給をどのように行うかについて議論を行った。海外でも 311 震災を受けて、ドイツではメルケル首相が 2022 年までに原子力発電所を全廃し、再生可能エネルギー ( RE ) の大規模利用を国家目標として掲げた。そして、インターネットなどでの調査では、スペイン ( 全土で関西電力程度の規模 ) では現状で全電力の約 20% が風力発電から得ていることが分かった。そして、今後も増強する方針とあった。一方、日本では RE は出力が不安定であるため、全電力の 3% 程度が安定に利用できる限界であると言われ、 NEDO では 2 次電池による出力安定化研究開発が長く行われてきた。 RE は火力や原子力に比べて元々高価であり、 2 次電池を安定化に利用すれば、ますます電力料金は高くなる。このため、再生可能エネルギーは経済的理由で広く利用できないというのが「日本の常識」であった。しかし、ヨーロッパの状況は全く異なるようである。これは、経済合理性に反し、国の基本方針として間違っているように思われる。しかし、そのような非合理的な政治判断をドイツやスペインが何故行うかについては、調査が必要であろう。これがヨーロッパの電力網を調査し、その結果を報告する理由である。
　本調査研究には国内外の多くの関連機関の皆様から多大なご協力をいただいた。特にヨーロッパの調査は ABB 社に負うところが多い。以下に記して、深く感謝申し上げたい。 ( 以下、敬称略、五十音順 )

ABB 株式会社、 Enel 社、 J-Power ( 電源開発株式会社 ) 、 REE 社、 Tennet 社、一般社団法人日本卸電力取引所、学校法人中部大学、学校法人明治大学、株式会社クリハラント、株式会社シーテック、株式会社東芝、株式会社前川製作所、株式会社三菱総合研究所、関西電力株式会社、住友電気工業株式会社、独立行政法人科学技術振興機構 ( JST ) 、みずほ情報総研株式会社、三菱電機株式会社

ヨーロッパの電力広域連携

　ヨーロッパでは各国の電力網が密接につながっており、一国で電力の安定供給が出来なくなった場合でも、周辺国から電力を融通することで電力の安定供給を図っている。図 1 に周辺地域を含めたヨーロッパの電力連携網の現状を示す。電力網は、主に 4 つのグループ ( ドイツ・フランス・スペインなどからなる「大陸部」、スカンジナビア半島を中心とした「北欧部」、英国、アイルランド ) に分かれており、最も大きな「大陸部」の発電量は、日本の電力の約 2 倍にあたる 2400 TWh である。
　広域連携により、各国の電力を融通することで、火力、水力、原子力などの発電設備の構成のバランスを取り、電力安定化に努めている。また、ヨーロッパでは卸電力取引市場が発達しており、実時間での需給調整が可能な時間前取引が行われており、実時間系の接続による広域連携が電力の安定運用に貢献している。
　直流超電導送電の導入を検討するにあたり、出力が不安定な再生可能エネルギー (RE) との接続は大きな課題である。以下で RE 導入が進んでいるドイツとスペインの導入状況を述べ、直流超伝導送電導入の市場と成りうるヨーロッパの直流送電設備の導入状況および計画を述べる。

図 1 . ヨーロッパ周辺の電力広域連絡網

( 出典 ) Integration of large scale wind in the grid

－ The Spanish Experience, REE 社 ,2008

ドイツの再生可能エネルギー利用

ドイツでは 2014 年までに北海沖に原発 8 基分 (800 万 kW = 8 GW) に相当する洋上風力発電設備の導入が進められ、最終的には洋上風力は 21 GW を導入する予定である。陸上に設置する風力発電は 25 GW を建設する計画である。図 2 に導入計画の図を示す。日本に比べて 1 つの発電所で 1 桁から 2 桁以上大きな導入量である。

図 2 . 　ドイツにおける北海沖大規模洋上風力発電導入計画

( 出典 ) ドイツの送電会社 TenneT 社からの資料

　風力発電コストは太陽光発電コストより安価のため、再生可能エネルギーとしては風力発電が主であり、太陽光発電が電力網の中で占める割合はそれほど大きくはない。今後、技術開発によって、風力発電及び太陽光発電はより安価で高性能になると考えられ、研究開発が行われている。
　ドイツは RE の固定価格による買い取り制度により、電力需要の少ない時間帯でも風力発電の電力を買い取る必要がある。余剰電力は揚水式水力発電 ( 揚水発電 ) による電力貯蔵設備の建設が検討されている。北海沖で発電した風力による電力が長距離直流送電によりドイツ国内を南下してスイスまで送電・貯蔵され、ドイツ国内で電力を使うときは再び北上して消費されることになる。現状では、導入実績と経済性を考慮した場合、長距離直流送電と揚水発電による電力貯蔵の組み合わせが最善の策と考えられている。一方、太陽光発電はコストが高いため、全量買い取り制度について再検討が行われていて、複数の案が提案されている状況である。

スペインにおける再生可能エネルギー導入と電力系統制御

　スペインは世界第 4 位の風力発電の導入国であり、 2011 年 3 月には月平均で約 21% と風力が最大の動力源となった。さらに、瞬間的には電力の 6 割近くを風力発電でまかなっているような場合もある ( 2011 年 11 月 6 日 2:00 には需要に対する風力発電の供給量が 59.6% となっている ( 図 3 )) 。

図 3 . 2011 年 11 月 6 日の動力源別発電量推移

( 出典 ) REE 社ホームページより

　出力が不安定な再生可能エネルギーの導入割合が大きいスペインでは電力系統制御が重要となる。スペインでは単一の系統運用会社 (REE 社 ) が電力系統全体の制御システムを運営し、そのシステムの配下で「 CECRE ( 再生可能エネルギーコントロールセンター ) 」が再生エネルギーの制御を行っている。 CECRE はマドリッド郊外にあり、風力、太陽光などの再生可能エネルギーとコジェネレーションを対象として、電力需要に応じて発電電力を管理調整している。
　また、再生可能エネルギーは 2 次電池などを利用して安定化を行うとさらに電力料金が高価になるため、スペインでは 2 次電池を使用した電力安定化は行っていない。代わりに、電力の安定的な需給管理のため、「需要予想」に加えて、再生可能エネルギーの「発電予測」が重視されている。発電予想に関し、 2009 年の平均予測誤差は、 24 時間先で 20% 以内、二乗平均誤差で 5% 以内であり、現在も精度向上に努めている。電力需給バランスは、主として水力・火力発電により調整が行われているが、これに加え国際間での電力の売買や揚水発電 (~4 GW) による電力貯蔵で調整し、安定供給を行っている。スペインで大規模な風力発電が可能になった理由としては以下の 5 つの点が挙げられる。

①風力発電適地が多い

②二次電池ではなく、広域連携を利用して安定供給を行っている

③電力卸市場の整備が進んでいる

④再生可能エネルギーの発電予測技術が進んでいる

⑤制御指令系統が整備されている

ヨーロッパの直流送電設備の導入状況および計画

　今後、直流超伝導送電の市場と成りうるヨーロッパの直流送電設備の導入状況および計画を以下に述べる。 EU は 1990 年代からエネルギー市場を自由化し、市場を統合する指令を定めた。発電、送電、配電の分離、送電系統運用者 (TSO) などを設置するなど、電力市場の独立性を進めた。送電設備は公共性が高く、系統の域内の送電系統運用者が建設し維持している。しかし従来型送電設備の建設には用地買収、環境評価、地元への対応などが必要で長期間を要すため自由競争下では投資のインセンティブが働きにくい。一方、欧州では国際間の電力取引が増え、送電容量が不足してきており、送電線の新増設が問題になっている。
　 4 ヵ国 41 の送電系統運用者が加盟する ENTSO-E は 2 年毎に 10 年間の系統開発計画 “Ten-Year Network Development Plan(TYNDP)” を発行している。 2012 年 3 月に発表されたドラフト版によると、今後 10 年間で 100 を超える送電線の新設・改修案件が計画されており、送電距離長では 5 万 km にも達する ( 図 4) 。およそ 40% が国家間の相互接続である。また、交流系統が大半の 39,000 km を占めるが、 12,600 km は直流送電による連結である。直流送電案件の内訳の多くは海底接続への投資であり交流では代替できない。一方、内陸部の系統の相互接続は交流系統に平行する直流送電で計画されている。投資金額は約 1040 億ユーロ ( 約 11 兆円 ) にのぼる。うち約 301 億ユーロが原子力発電を 2022 年までに全廃すると決定したドイツからであり、 190 億ユーロが大規模洋上風力発電設備を進める英国の予定投資金額である。
　洋上風力発電所からの送電には自励式直流送電による接続例が多くある。接続距離が 100 km を超える場合はこの方式がただ一つの選択肢となる。利点としては事故があった際に交流側と直流側互いに波及しないこと、各国のグリッドコードを準拠できること、洋上風車の要求仕様を緩和できること、将来の直流グリッドに組み込めることなどである。また、欧州では直流送電によるグリッドの相互接続も多く、直流送電は環境負荷への配慮、長距離接続、非同期系統接続、異なるグリッド規定やグリッドコードへの解決策となるなどのメリットが直流送電にはある。

図 4. ENTSO-E の送電網計画

ヨーロッパの将来構想

　2009 年 7 月にドイツの企業が中心になり、 Desertec foundation が設立された。この構想は、 2050 年までにヨーロッパの電力需要の 15% をサハラ砂漠や北海からの再生可能エネルギーからの発電電力で賄おうとするアイデアである。構想全体図を図 5 に示す。
　発電には Solar Thermal Power Plant ( 太陽熱発電 ) とあるが、一般には CSP が使われる。これは、 Concentrated Solar Power の略である。太陽光発電 ( Photovoltaics, PV ) 、風力 ( Wind ) 、水力 ( Hydro ) 、バイオマス ( Biomass ) 、地熱 ( Geothermal ) が想定されている。当初の見積もりでは 550 Billion 米ドルであった。現在では 1000 Billion 米ドルとも言われている。これは当初建設費の 90% が発電設備に投入し、 10 % を送電設備に投入する予定であったが、ヨーロッパ内での送電投資が大きくなることが分かったため急遽予算を大きくなった。このため、全体として必ずしも予算が確保されているわけではないようである。部分的に 2020 年の送電開始を目指している。さて、送電は鉄塔架空線を利用した超高圧直流送電 ( super grid と呼ばれる ) となっている。本構想の理由は以下のようである。

• 気候変動への対処

• 増大する電力需要への対応

• 老朽化が進む電力網への対応

• 新しい技術の取込

• エネルギー安全保障

• マグレブ諸国及びアフリカの経済開発

　既に、ドイツでは企業、大学、政府のチームがあり、マグレブ諸国との交流が始まっている。特に、日本の 311 震災の後、 2022 年までにドイツは原子力発電所の全廃を行うことをメルケル首相が公表し、その実現のために、検討を加速させている。その中には、ドイツの IASS ( Institute of Advanced Sustainability Studies ) を中心に送電に直流超伝導送電を利用する検討も進んでいる。これは高温超伝導技術の進展が著しく、架空線を利用する HVDC を超長距離送電には以下の課題があるからである。

• エネルギー輸送の安全確保

• 地中海をどのように渡るか？

• 送電ロスの低減とコスト削減

　架空線はガイシを利用して電気絶縁を取っているので、比較的安価に建設できるが、ガイシを射撃すれば容易に送電を止めることができる。つまり、テロに弱い。さらに、中国などでは冬季の強風や雪などによって送電線鉄塔の倒壊があり、ケーブルを用いた地中化が必要と言われている。一方、超長距離を低損失で送電するための超高圧 ( UHV ) 送電にケーブルを用いると、電気絶縁に高度な技術が要請され、著しくケーブルが高価になる。そして、海中を通す UHV ケーブルはさらにコストが上昇するので、低電圧 ( ≦ 200 kV ) でも損失が少ない超伝導直流送電が期待される。電圧が低くなると、電力変換器への技術的要請も低減し、コスト低減につながる。
　一方、アルジェリア等の産油国でも再生可能エネルギー開発に強い期待を寄せている。その主な理由は下記のようである。

• 産油国は、原油の枯渇に備えた産業育成が最大の長期的国家戦略の柱になっている

• マグレブ諸国では失業率が高く、社会不安の要因となる一方、産油国は手持ち資金がある

• ヨーロッパに地理的に近い

　現在、ヨーロッパでは 2050 年での再生可能エネルギーの割合が 40% から 80% 程度で色々なシナリオが検討されていて、上記に述べたようにその中には「超伝導直流送電」も重要な技術としてドイツでは複数の国立研究所でプロジェクトが始まった。そして、北海やバルティック海での洋上風力開発を精力的に進めている。前節でも述べたように、この電力は直流送電で陸上まで送るだけでなく、スイスまで送電されて、これから建設される揚水発電所で安定化される予定である。つまり、再生可能エネルギーの大規模な利用は、広域連携を行うために必然的に長距離送電を必要とし、送電ロスを下げることが求められる。このため、超伝導送電技術の応用範囲は極めて広汎と言えよう。