SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No.4 August, 2012


 

鉄系超伝導体と関連化合物に関する最近の話題 _ 中国科学院ほか _

 


 鉄系超伝導体は、正方格子状に配置された Fe 2+ イオンを基本構造としており、その上下に配置されるアニオンとブロック層の種類により様々な物質が報告されている。 AFe 2 Se 2 (A = K, Rb, Cs) 系 [1] や Ca-Pt-Fe-As 系超伝導体 [2] の発見以降新物質の報告は途絶えていたが、最近新たに Ba 2 Ti 2 Fe 2 As 4 O (著者らは 22241 と呼称)が発見された。
  後述のように、鉄系超伝導体関連物質として M 2 X 2 O(M = Ti 3+ , Mn 2+ , Fe 2+ , Co 2+ X = S, Se, As, Sb) 層を持つ化合物の研究が行われており、 BaTi 2 As 2 O[3] など様々な層状化合物が報告されている。
  今回発見された Ba 2 Ti 2 Fe 2 As 4 O は図 1 のように BaTi 2 As 2 O と BaFe 2 As 2 が積層した構造を取っており、鉄系超伝導体としては比較的複雑な構造を持つ。 a 軸長が 4.0276 A とやや長いことから、 As height(Fe 面からの As の高さ ) は 1.356 A 、 As-Fe-As 角は 112° と、理想値とされる 1.38 A 、 109° からややずれている。 T c はアニールした試料で 21 K と報告されており、 LiFeAs や Sr 2 VFeAsO 3 などと同様に意図的なキャリアドープなしに超伝導が発現している。これについては Ti 2 O 面からの Self-doping の可能性が指摘されており [5] 、また 125 K での CDW/SDW と見られる転移も Ti 2 O 面に由来する可能性が高いと報告されている。鉄系超伝導体としては久しぶりの新物質であり、今後電子状態の解明や類似したアプローチによる関連化合物の探索が期待される。
  また、鉄系超伝導体は Fe 2+ の正方格子を持つ化合物であるが、同様に二価の Fe サイトを持つ層状化合物として La 2 Fe 2 Se 2 O 3 など M 2 X 2 O 層を持つ化合物の探索がいくつかのグループにより精力的に行われている。 M 2 X 2 O 層は Fe, O, Se などが逆ペロブスカイトに近い配置に取っており、鉄系超伝導体の Fe 2 面に O 2 - が入り込んだ構造となっている。これまでに Na 2 Fe 2 Se 2 O, BaFe 2 Se 2 O, E 2 Fe 2 Ch 2 O 3 (RE = rare earth, Ch = S, Se), AE 2 Fe 2 Ch 2 OF 2 (AE = Sr, Ba) など様々な物質が存在することが報告されている [6-8] が、いずれも Fe 2 Ch 2 O 層の Fe 2+ は反強磁性的にオーダーしており、超伝導は報告されていない。一方同様の構造は Fe 2+ だけでなく Ti 3+ , Mn 2+ , Co 2+ などでも報告されている。 La 2 Fe 2 Se 2 O 3 が LaFeAsO と同じ La 2 O 2 層を持つことからも分かるように、これらの化合物の a 軸長は 3.9~4.1 A と格子サイズは鉄系超伝導体と同等である。そのためこれらの化合物自身の超伝導だけでなく、鉄系超伝導体のブロック層としても有用と考えられる。 ( 萩の月 )

図 1 Ba 2 Ti 2 Fe 2 As 4 O の結晶構造 [4]

 

参考文献

[1] Guo et al ., Phys. Rev. B 82 (2010) 180520

[2] S. Kakiya et al ., J. Phys. Soc. Jpn . 80 (2011) 093704

[3] X.F. Wang et al ., J. Phys.: Condens. Matter 22 (2010) 075702

[4] Y.L. Sun et al ., J. Am. Chem. Soc . 134 (2012) 12893

[5] H. Jiang et al ., arXiv:1207.6705

[6] L.F. Mayer et al ., Angew. Chem. Int. Ed. Engl . 31 (1992) 1645.

[7] N. Ni et al ., Phys. Rev. B 84 (2011) 205212

[8] D.O. Charkin et al ., J. Alloy. Comp . 509 (2011) 7344