SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No.4 August, 2012


 

SQUID-TEM による鉱物探査試験始まる! _超電導工学研究所、三井金属資源開発、 JOGMEC _

 


 ( 公財 ) 国際超電導産業技術研究センター超電導工学研究所は三井金属資源開発(株)と共同で、 JOGMEC ( ( 独 ) 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 ) からの委託研究「 次世代 SQUITEM 機器開発・ SQUID 磁力計開発 」により、地下資源探査への応用を目指した高温超電導磁力計を開発している。 その経過や成果が 2012 年春季応用物理学関係連合講演会、 HTSHFF( High Temperature Superconductors in High Frequency Fields )2012 ( 本号会議報告参照 ) で発表 された 。
  高温超電導 SQUID を用いた TEM(Transient Electromagnetic) 法による地下資源探査は、国内外で盛んに開発が進められており、実際の金属資源探査に活用されはじめている。 TEM 法は、 100-200 m 角に地表に張られたコイルにパルス電流を流し、遮断後の地下からの誘導磁場の時間変化を計測して地下の比抵抗構造を解析する方法である ( 図 1 )。 SQUID の感度の高さと周波数帯域の広さが、 TEM 法の要求に合致しているため、 TEM 用の高感度磁気センサーとして SQUID への期待は大きい。資源探査は、今や 1000 m 以上の深さの探査が要求され、同時に低コスト化が要求されるため、深部探査に必要な耐磁場性能や高感度性に加え、軽量化や携行性の改善も要求されている。

図 1 . TEM 法による資源探査の概念図

 

 探査深度を深くするには、まず印加磁場の強度を大きくして S/N 比を改善する必要がある。さらに大きなスルーレート、つまり急激な磁場の変化に対する追従性の改善が必要である。超電導工学研究所は、かねてから確立してきた高温超電導多層積層プロセス技術を応用し、ランプエッジ接合を用いた集積型高温超電導 SQUID を作製し、この要求をクリアしてきた ( 図 2 )。

図 2 .  集積型高温超電導 SQUID の断面図

 

 地磁気中で使用するこの装置には、地磁気中冷却で磁束トラップを防ぐ工夫や、 RF ノイズを遮断するシールドが施されている。特に、 TEM 法の原理から、急激な磁場変動に装置がさらされるため、安易なシールドを施すとシールドに電流が誘起残存し、その磁場が地下からの誘導磁場信号の正確な計測を阻害する。そこで彼らはシステムを構成する全ての部品に発生する誘導電流の残存時間を検討し、大きな印加磁場と急激な磁場変動の中でも、計測を阻害しない材料や構造を工夫してきた。
  こうして開発したシステムは、これまでのフィールド試験で、最大印加磁場 858 nTpp 、スルーレート 10.5 mT/s を達成している。この印加磁場は、 100 m ループコイルに 40 A を流すことに相当し、同一環境での比較で従来機のおよそ 40 倍に相当する。同様に、スルーレートも従来機のおよそ 10 倍を達成している。また、比抵抗の高いフィールドでの試験では従来機に見られた装置内に発生する誘導電流による影響を排除することにも成功した。フィールド試験の結果として、秋田で行われた地下 1200 m までの比抵抗分布の計測、解析結果が応用物理学会超伝導分科会研究会で報告された ( 図 3 )。比較的浅いところの探査に有効な誘導コイル方式の結果と、地下 700 m 程度までの結果がよく一致しており、システムが良好に動作していることがわかる。システム総重量 ( 磁力計、受信機、受信機接続 30 m ケーブル ) 25.6 kg 、磁力計の液体窒素容量 1 L 、冷却保持時間 17 時間で、真空断熱層のメンテナンスも不要とのことである ( 図 4 )。

図 3 .  地下の比抵抗構造の解析結果

 

図 4 .  次世代 SQUID-TEM システムの磁力計と受信機

 

 今後、最終調整を行った後、年内に実際の探査で性能評価が行われる予定である。

 開発担当者の波頭経裕主管研究員は、「センサー性能やエレクトロニクスだけでなく、実装技術の高度化が伴ってはじめてこの性能が発揮できた。ここで培った技術は、地磁気計など、フィールド使用の SQUID の発展の足がかりになるだろう。超電導の研究者だけではなく、ユーザーである物理探査の専門家たちと一丸となって開発した結果、真に実用性のあるシステムができた。これが高温超電導全体の応用発展のきっかけになれば幸いである」と述べている。 ( kirin )