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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No3 June, 2012

低温・超電導技術は、除染に貢献できるか？　　　　　　　　　　　　　＿大阪大学＿

　昨年の震災後の原発事故による放射能汚染が福島で深刻な問題となっているのは周知の事である。福島復興の鍵となるのが除染事業であり、その成否が当該地域の行く末を決定すると言っても過言ではない。このような事業に、低温・超電導技術は貢献できるのであろうか？低温・超電導分野の知見が福島復興に関わることができるのであろうか？むしろ積極的に関われる領域を見つけていく姿勢も重要な気がしている。
　除染に関してみてみると、現在もっとも重要となっているのが、セシウム 137 である。半減期が 30 年であり、放射能がなくなるのは、半減期の 10 倍 ( 初期の値の 0.097 ％となる期間 ) と考えると、 300 年である。チェルノブイリ事故 (1986 年 ) 以来、まだ半減期も経過していないのである。
　積極的な除染作業の重要性がここにある。セシウムは一価金属であり、ナトリウム、カリウムと同様の性質を持ち、体内に取り込まれた場合、全身に分布する。生物的半減期は約 70 日程度と言われている (90~100 日とも言われる ) 。物理的半減期 (30 年 ) は外部被ばくに、後者の生物的半減期は ( 実際には実効半減期となるが生物的半減期とほぼ等しい ) 内部被ばくに関連するため、異なる観点での整理が必要である。一般に、セシウムが g 線を放出すると考えられているが、実は b 崩壊し、その娘核種の Ba137m( 準安定核種 ) が g 線を出す。
　セシウムは、土壌中では粘土質に吸着され、外れにくい性質がある。したがって土壌の除染は、①土壌を分級し粘土のみを抽出する。②その粘土からセシウムを分離する、③分離したセシウムを捕集する、④管理貯蔵する。このようなプロセスをとる必要があると思われる。①の結果、粘土以外の土壌は、除染されたことになるので埋め戻すことになる。この段階で、汚染土壌は 30% 程度の体積となる ( 土壌中の粘土の割合が 30% 程度ということ。ただし、この値は土壌によって大きく異なることが考えられる。 ) 。この 30% の汚染粘土の考え方であるが、十分に減容化されたと考えると、除染作業はここで終了となる。この後は、汚染粘土の管理・保管をすることになる。この 30% でも膨大な量の汚染土壌となると考えられる場合、さらなる減容化が必要で、②以降のプロセスを遂行することになる。つまり除染事業は放射性セシウムを濃縮・分離し、管理できるまで減容化し、保管することに他ならない。この後は、時期を見計らって中間貯蔵施設に移設し、後に最終処分となるであろう。上述のプロセスは、土壌のみならず、瓦礫、 ( 下水道からの ) 汚泥、焼却灰など、あらゆる汚染物質に共通の考え方となると思われる ( 土壌以外は①は不要である ) 。ただし、管理貯蔵できるまでの減容化なので、焼却で十分減容化されるのであれば、焼却処分－焼却灰の管理貯蔵となる。実際は、焼却では貯蔵までの十分な減容化は難しく、改めて、洗浄あるいは非放射性焼却灰での希釈が必要かもしれない。 ( 放射性物質として扱わない基準であるクリアランスレベルが 100 Bq/kg であるため、希釈してこのレベル以下にすれば放射性物質として扱う必要がないことになる。 ) 現在行われている、表土の削り取り、天地返し、あるいは高圧洗浄では、本質的な除染にはならず、逆に環境放射能の強い空間を作り出す恐れがあると思われる。
　さて、このようなプロセスで、低温・超電導技術はどこに応用が可能であろうか？現在、想定しているプロセスは、③のセシウムの捕集に超電導磁気分離技術を適用することである。また、それを可能とするためには②のセシウムの汚染物からの脱離が必要である。土壌の除染を念頭に超電導技術が応用可能なプロセスとそれを可能とする周辺技術について述べる。
　土壌を対象とし、分級後のさらなる減容化を考える。このプロセスでは、粘土からセシウムを脱離させ、セシウムのみを強磁性体を付与した吸着材 ( ゼオライト等、以下、磁性吸着材 ) に吸着させる。超電導磁気分離法でセシウムを吸着した磁性ゼオライトを分離するのが基本的な考え方である。この分離した磁性ゼオライトを、管理保管するのである。粘土からのセシウムの脱離は、酸で洗浄することにより実現する ( 場合によっては、高温にする必要がある ) 。脱離後はゼオライトに吸着させるが、ある種のゼオライトは酸の環境でもセシウムを吸着することが確認されている。このゼオライトは強磁性材料を付着させているので磁気分離が可能である。吸着材の体積が粘土体積より少なくて済むため大幅な減容化が可能となる。図 1 に磁性ゼオライトのセシウム回収の様子を示す。効率よくセシウムが回収していることがわかる。

図 1 磁性ゼオライトによるセシウムの回収

　このプロセスでは、固液分離技術が必要となるが、粘土懸濁液から特定の粒子 ( セシウムを吸着した磁性ゼオライト ) の分離技術となり、通常のフィルターでは、媒質が粘土懸濁液なので、目詰まりをおこし問題がある。そこで、磁気分離の技術が必要となる。超電導磁石が必要な理由は、高速・大量の水処理となるため、大空間に高磁場 ( 0.6 ~1 T ) を発生する必要があるからである。また、超電導磁気分離を利用すると、放射性物質を遠隔操作することができることもメリットとなる。このプロセスで新たに開発が必要となるのは、磁性吸着材である。また、上記のプロセスでの除染効率を実証する必要がある。
　具体的な超電導磁気分離を用いた除染の活動を行っているグループもある。今年の 5 月 19 日 ( 土 )~ 21 日 ( 月 ) に福島で第 1 回環境放射能除染研究発表会が執り行われたが、その発表に “ P-111 磁性吸着材を用いた焼却灰の浄化・減容化の検討 ” の発表があり、三菱製紙、大和ハウス、大和小田急、 MS エンジニアリング、福井大学の共同研究で超電導磁石を利用した、焼却灰の除染の発表があり、成果を上げている。この研究は、紹介した土壌の磁気分離除染ではなく、焼却灰の除染であるが、考え方は同じである。以下、本手法で問題となるであろう点を述べておく。除染の実施であるため、現場で管理する人の、放射線あるいは放射性同位元素に関する基本的な知識の習得が必須である。また、上記のように、除染は見方を変えると、 RI の濃縮に他ならない。管理区域あるいは RI の貯蔵施設の設置が必要となろう。また、周辺住民の了承を取ることも重要なステップである。
　今年度より電気学会の中に、「超電導磁気分離システムを利用した除染技術」調査専門委員会が立ち上がることになった。さらに、大阪で「 ( 仮称 ) 除染技術研究会」が設立され活発な議論がなされている。超電導磁石が福島に導入され、除染を実施するのは遠くない将来のように思われる。 ( 福島復興 / 日本再生 )