SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No2 April, 2012


 

<会議報告>

MRS 2012 Spring Meeting (2012 /4/9〜13 @ San Francisco)

 


 

 今春の MRS 学会では、応用物理学会との共催シンポジウムとして “Recent Advances in Superconductors, Novel Compounds & High- T c Materials” が開催された。このシンポジウムでは約 100 件の講演が行われ、およそ 1/4 が招待講演、 1/2 が一般口頭発表、 1/4 がポスター発表であった。シンポジウムは 17 のセッションに分けられ、幅広く最新の超伝導物質、材料の進展が報告された。以下には興味深かった発表について記した。

 

Coated Conductor 関係】

 Oak Ridge 国立研究所の Goyal らより PLD 法 Y123 薄膜における BaZrO 3 、 Ba 2 RETaO 6 の添加効果が紹介された。後者では 65 K での最大ピン力密度 F p が 101 GN/m 3 に達し、これは Y123 薄膜としては最高であるとのことであった。 BaZrO 3 添加では、 4 m m t の Y123 膜で I c が 995 A/cm- w (77 K) まで向上し、磁場中の特性が改善することが示された。興味深かったのは、 BaZrO 3 ナノロッドの周囲では格子歪だけでなく酸素量が少ない領域がナノロッドから 5 nm 程度の範囲で広がっており、実効的なピンのサイズはナノロッドよりも大きい可能性が指摘された。九工大の松本らからは BaSnO 3 ナノロッドを含む層 (30~90 nm t ) と添加物の無い Y123 層または Y 2 O 3 ナノ粒子含む層 (10~30 nm t ) を交互に積層した PLD 法 Y123 薄膜 (300~400 nm t ) において、 J c の磁場印加角度依存性がナノロッドを含まない層の厚さに依存すること、 Y 2 O 3 ナノ粒子含む層を挿入した場合のほうが磁場印加角度によらず J c が向上することを示した。九大の木須らからは PLD 法 Gd123 薄膜において BaHfO 3 ナノロッドの導入が J c の温度、磁場依存性を大幅に改善すること、また Nb-Ti 、 Nb 3 Sn 線材が 4.2 K で示す特性がいかに高温で達成されているかが紹介された。 Antwerp 大の Molina らは BaHfO 3 ナノ粒子を含む MOD 法 Y123 薄膜の 3D 組織観察結果を示し、 BaHfO 3 の粒径は 5-30 nm で 123 に対する方位が決まっていること、その周囲には刃状転位が発生し、また Y124 相の積層欠陥が多数生じることが示された。これに対し、 ICMAB-CSIC の Puig らはナノ酸化物粒子を添加した MOD 法 Y123 薄膜について、 BaZrO 3 、 Ba 2 YTaO 6 、 BaCeO 3 では粒子が無配向で等方的なピンとして効き、これらは 8.5~12.1% の格子ミスマッチによる歪を Y123 に与えており BaZrO 3 では Y123 の c 軸が界面で 10% 伸びていること、さらに 124 相だけでなく 125 層まで積層欠陥として存在することを示した。また、ナノ粒子周囲の歪んだ領域が重なりあわないようにすることがピン力の改善に重要であることが主張されていた。同機関の Obradors らからは Y123 相生成時の抵抗の同時測定から相生成の進行が評価できることのほか、 c 軸配向、 a 軸配向の条件の熱力学的な解釈が示された。さらに全ガス圧が高いほうが c 軸配向膜の作製に適しており、 Ag を 3~4 wt% 添加すると Y123 相の成長が速くなることが紹介された。 Ag は蒸発するため最終的に得られる Y123 薄膜には残らないとのことである。九大の金子らは BaZrO 3 や BaHfO 3 のナノロッドを含む PLD 法 Gd123 薄膜の 3D 電子線トモグラフィー解析の結果を示し、 BaZrO 3 ナノロッドは c 軸平行ではなく外に広がりながら成長していることが 3 次元的なピンの効果の起源であり、 BaHfO 3 ナノロッドでは高密度で長さが短いことから、より強く 3 次元的なピンとして効くことが説明された。また、 BaZrO 3 ナノ粒子を含む MOD 法 (Y,Gd)123 薄膜では BaZrO 3 粒子は無配向であるが形状は様々であることが報告された。 JFCC の加藤らからは同じく BaZrO 3 ナノ粒子を含む MOD 法 (Y,Gd)123 薄膜について、熱処理プロセスの各過程における微細組織の報告があり、 BaZrO 3 ナノ粒子の均一な分散に、結晶成長前に 575 °C 、 3 時間の過程を加えることが有効で、これにより I c - q - B 特性 が大きく改善することが示された。九大の東川らは走査型ホールプローブより得られる磁場マップから定量的に J c を評価する方法について検討しており、 4 端子法との J c の差がは約 5 桁も異なる電界基準に由来すること、ゼロ磁場近傍の J c の磁場依存性が大きいことが均質性の評価の障害になっていたことに対しては 23 mT のバックグランド磁場下での評価が有効であることを明らかにした。東北大の淡路らは、低温、高磁場における各種ナノロッドを含む Gd123 テープの J c - q - B 特性を調べ、 20 K 以下では H // c での J c のピークが消失し、また 17 T の強磁場においてもピークは非常に小さくなるが、 c 軸相関ピンの効果は残っており J c の改善に寄与することを報告した。名大の吉田らは Sm123 と BaSnO 3 ナノロッドを含む Sm123 層を交互に積層することにより、 T c の低下が抑制でき、不可逆磁場も 77 K で 12 T に達することが示された。
  線材作製に関して、京大の土井らより配向銅基板を用いた Y123 線材において Y123 層を 1 m m 厚としても 77 K で 2.1 MA/cm 2 の高い J c が実現できたことが報告された。 Seoul National 大の Yoo らからは、最近の SuNAM(Superconductor, Nano & Advanced Materials Co.) 製の Gd123 長尺線材の目覚ましい進展が紹介された。彼らは IBAD MgO 基板を用い、原料金属の共蒸着→還元気流中 ( P O 2 ~10 -5 torr) で 860°C まで昇温 (Gd 2 O 3 + 液相 ) →同じ温度で酸素導入 ( P O 2 ~10 -1 torr) による Gd123 結晶成長、という連続プロセスによって高臨界電流特性の長尺線材を作製する技術を確立したようである。部分溶融状態には 5 秒以内で至り、 Gd123 結晶の成長時間は 1 分以内で十分とのことで、 4 mm 幅テープ換算で 360 m/h の高速生産ができる、と強調されていた。この方法で作製された 1000 m 長の線材の 77 K での I c は 422 A/cm- w で、 I c × L 値 422,000 Am はフジクラのトップデータにかなり近づいている。さらにこの線材の 220~750 m の区間では I c はほぼ 700 A であったが、 Gd123 の膜厚は 1.8 m m であり、厚膜化による I c の向上は可能とのコメントであった。なお、この線材作製および微細組織の詳細を報告した Choi らによるポスター発表は、 MRS による Poster Award を受賞した。

 

 

MgB 2

 イタリア Edison 社の Giunchi らは、 MgB 2 バルクの大型シールド体やリング状磁石 (0.4 T) および Fe シース線材などの開発現況について報告した。彼らは高密度な MgB 2 の多結晶体が得られる Mg-RLI(Reactive Liquid Mg infiltration) 法を一貫して採用している。また、イタリア Columbus 社の Nardelli らは、同社の線材を用いた 6 台の医療用 MRI 装置が既に世界に出荷されていること、線材は全バッチ 1.7 km 以上の長さで量産されていること、およびこれらは誘導加熱ヒーターや LHC のブスバー、 ITER の点火装置にも利用できることを紹介した。同社の最近の線材の性能は 20 K, 1 T で J c = 2.4 x 10 5 A/cm 2 (0.96 mm f ) である。 Ohio 州立大の Susner らは MgB 2 の高温 (~1500 °C ) ・高圧 (10 MPa) 合成および PLD 法による Zr ドープ MgB 2 薄膜の作製を試みていることを報告した。 Xradia 社の Gelb らは、ノンドープおよびリンゴ酸を原料に C ドープした MgB 2 線材の 3 次元組織観察より、後者のほうが小さいボイドが分散しており、ボイドの数は約 2 倍に増えるもののその体積分率は低下することを示した。この組織改善によって C ドープ MgB 2 では珍しく低磁場まで J c が向上しているとのことである。東大の山本らは MgB 2 バルク磁石の開発を行っており、今回は 60 mm f のバルクにおいて 20 K で 2.1 T の捕捉磁場が実現したことを報告した。また、京大の土井らがポスターで報告した MgB 2 /Al 薄膜は、 J c が 10 K で ~ 10 MA/cm 2 と極めて高く磁場依存性にも優れることから注目を集めていた。

 

 

鉄系超伝導体

 鉄系超伝導体に関する発表は 口頭で約 30 件、 ポスターで 6 件あり本シンポジウムの 1/3 強を占めた 。
 東大の為ヶ井らは MO( 磁気光学像 ) を用いた特性評価について報告した。特に Ca-Pt-Fe-As 系など最近発見された超伝導体についても評価を行い、 Ca-Pt-Fe-As 系超伝導体は MO 像からもバルクの超伝導を確認でき、一方 (Ca,La)Fe 2 As 2 超伝導体は単結晶であるにもかかわらず Granular な超伝導が観測されたと のことであった。東大の下山らは鉄系超伝導体における Fe 面間隔と臨界電流特性との関係についての議論を行った。 University of Wisconsin-Madison の Lee らは STO 基板上に Co-doped Ba122 と non-dopedBa122 が交互に積層した薄膜をエピタキシャル成長させることに成功したことを報告した。農工大の内藤らは MBE 法による SmFeAs(O,F) と (Sr,K)Fe 2 As 2 と (Ba,K)Fe 2 As 2 薄膜作製ついて報告した。 K ドープ 122 の K source として大気中で不安定な K ではなく In と K の合金を用いることで安定した薄膜作製に成功し、 T c は (Sr,K)Fe 2 As 2 で 33.4 K 、 (Ba,K)Fe 2 As 2 で 38.3 K と高い値が得られたとのことであった。広島大の Mele らは PLD 法による Fe(Te,Se) 薄膜を MgO, SrTiO 3 , LaAlO 3 , CaF 2 基板を用いて作製した際の特性比較について報告した。 IFW の Huehne らは強誘電性をもつ Pb(Mg 1/3 Nb 2/3 ) 0.72 Ti 0.28 O 3 (PMN-PT) 基板を用いた Ba(Fe,Co) 2 As 2 , FeTeSe 薄膜を作製し、基板の制御により鉄系超伝導体薄膜の歪みと超伝導特性との関係を評価しその結果について報告した。 NIMS の高野らは電気化学的手法を用いた FeSe 薄膜作製について報告した。 FeSO 4 ・ 7H 2 O, SeO 2 溶液中で Anode に Fe 電極を用いることで FeSe 薄膜を得ることに成功したとのことであった。シドニー大の Yeoh らは atom probe tomography を用いた三次元的な解析により (Ba,K)Fe 2 As 2 中の K の分布について調べ、 K が Ba と同じ面内に存在することおよび K の分布に不均一性は見られないことを確認した。岡山大の野原らは As-As 結合に注目した新物質探索法を説明し、 Ca 10 (Pt 4 As 8 )(Fe 2- x Pt x As 2 ) 5 ( T c ~38 K) や SrPt 2 As 2 ( T c ~5.2 K) について報告した。
  Florida 州立大 の Hellstrom らはグローブボックス中での MSR( Mechanically-activated Self-sustaining Reaction ) により FeAs 濡れ相の少ない (Ba,K)Fe 2 As 2 を作製できることを報告した。またこの粉末から銀を内貼りした銅シース線材が作製されており、 HIP 処理を行った 7 芯線材は 4.2 K 、自己磁場下で 120 kAcm -2 、 15 T 下で 7 kAcm -2 という無配向多結晶線材としては極めて高い J c を示すことが紹介された。 IFW-Dresden の Holzapfel らは、 IBAD MgO 基板上に作製した Co ドープ Ba122 薄膜の J c が 1 M A/cm 2 に達したことを、 Brookhaven 国立研究所の Li らは CeO 2 /YSZ 基板上に成膜した Fe(SeTe) 薄膜も同様に 1 M A/cm 2 を超える J c を記録したことを発表した。このように鉄系超伝導体の高 J c 材料開発研究は急速に進んでいる印象を受けた。
  ポスター発表では Universidade Estadual de Campinas の Pagliuso らが Flux 法で作製した BaFe 2 As 2 単結晶の合成条件と超伝導特性の関係について報告した。東大の荻野らはペロブスカイト層をブロック層に持つ鉄系超伝導体のキャリア制御について、焼田らは (Ca,Pr)Fe 2 As 2 多結晶体の特性について報告した。名大の川口らは MBE 法で作製した BaFe 2 (As,P) 2 及び NdFeAs(O,F) の作製、及びバイクリスタル基板を用いた臨界電流特性評価について報告し、特に BaFe 2 (As,P) 2 薄膜で高い J c が得られたとのことであった。( 東京大学 焼田裕之、 SUPERCOM 事務局取材班 )