SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No2 April, 2012


 

新たなピンニング材料 BaHfO 3 を導入した GdBCO 線材の磁場中臨界電流特性     _超電導工学研究所、九州大学_

 


 国際超電導産業技術研究センター (ISTEC) と九州大学は、 BaHfO 3 (BHO) を添加したターゲットを用いたパルスレーザ蒸着 (PLD) 法によって作製した GdBa 2 Cu 3 O y (GdBCO) 線材が、広範な温度領域に亘って優れた磁場中臨界電流特性を示すことを実験により明らかとした。
  図 1 は、 3.5 mol% の BHO を混入した GdBCO ターゲットを用いて作製した GdBCO+BHO 線材の臨界電流 I c の温度、磁場依存性である。同線材の 77 K 、自己磁場での I c 値は 685 A/cm- w 、超伝導層の膜厚は 3.2 m m である。同図のとおり、 77 K 、 3 T において 90 A/cm- w を超える I c 値が得られている。この値は、人工的なピンニングセンターを導入していない 600 A 級 GdBCO 線材 ( 図 1 中白抜きシンボル ) の 3 倍程度に相当しており、 BHO の導入に伴い磁場中 I c 特性が大幅に向上していることが分かる。この傾向は、低温・強磁場領域でも観察されており、 20 K 、 17 T で人工ピン未導入線材の 2 倍程度である 700 A/cm- w I c 値が得られている。人工ピンとして BaZrO 3 (BZO) を導入した GdBCO 線材においては、これまで低温・強磁場領域で大きな磁場中 I c 値の向上が得られていなかったことから、 BHO の導入は広範な温度、磁場領域に亘る磁場中 I c 値を向上させる手法として有効であることが明らかとなった。

 

図 1 BHO を導入した GdBCO 線材の I c - B - T 特性。 ● GdBCO+BHO , ○ pure GdBCO

 

 

図 2 BHO を導入した GdBCO 線材の I c - q - B 特性。 ● GdBCO+BHO, ○ pure GdBCO

 

I c の角度依存性について調べたところ、図 2 のように、膜面に垂直な磁場方向 ( B // c 、 90°) のみならず、幅広い磁場領域に亘って I c 値が向上していることが明らかとなった。このことは、 I c の異方性 ( I c _max / I c _min ) の低減や、平行磁場近傍 (10~15° 程度 ) での I c 値の向上を意味しており、各種機器応用において重要な特性である。
  ISTEC の飛田氏によると、 BHO を導入した GdBCO 線材の特徴のひとつは、磁場中 I c 値が膜厚の増大に対してほぼ線形性を保ったまま向上することである。希土類系高温超伝導線材のようなコート線材においては、 線材全体の断面積に占める超伝導領域の割合が少なく (1/100~1/50 程度 ) 、 GdBCO 層を厚くすることによる高 I c 化、高 J e 化 ( J e は工学的臨界電流密度で I c を線材全体の断面積で除したもの ) が実用性能の向上に有効である。しかしながら、 PLD 法により作製された希土類系高温超伝導膜では、膜厚の増大とともに磁場中 I c 値が飽和傾向を示すことが知られており、これは BZO を導入した GdBCO 線材でも同様であった。ところが、 BHO を導入した GdBCO 線材では、膜厚に対する磁場中 I c 値の線形性が 3 m m 程度の膜厚まで保持されている。この理由は今のところ明らかとなっていないが、実用上重要な特徴であることに間違いはなく、今後の原因解明が待たれる。
  図 3 は、 J e - T 平面上に等磁場曲線を描いたものである。図中には、 Nb 3 Sn 線材及び NbTi 線材の液体ヘリウム温度での J e - B 特性を離散的に示しており、これらと等磁場曲線との交点は、同一の J e と磁場が得られる温度を意味している。例えば、 NbTi 線材 ( 液体ヘリウム温度 ) が 7 T で示す J e 値は、 BHO を導入した GdBCO 線材の場合、同じ 7 T であっても 50 K の温度で得られている。この図から、 BHO の導入と厚膜化によって、 Nb 3 Sn 線材や NbTi 線材を凌駕する実用性能を有する GdBCO 線材が得られるに至っていることが明らかとなった。
  九州大学の井上昌睦准教授は、「線材の高 I c 化は、 強磁場発生マグネットを中心とした各種コイル応用における高特性化のみならず、小型化や動作温度の向上に伴う低コスト化といった超伝導応用機器の普及にも資することから、今後の更なる 高 I c 化 が期待される」とコメントしている。 (M:I)

 

 

図 3 J e - T 面上の等磁場曲線。金属系超伝導線材 NbTi 、 Nb 3 Sn と同程度の磁場が、 BHO を導入した GdBCO 線材ではより高い温度で実現できることがわかる。