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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No2 April, 2012

Y 系高温超電導テープ線材を利用した大型磁場偏差計を開発　　　　＿超電導工学研究所、九州大学、 JOGMEC ＿

　超電導工学研究所は九州大学圓福教授と共同で、 JOGMEC ( ( 独 ) 石油天然ガス・金属鉱物資源機構 ) からの委託研究「金属資源探査のための SQUID 磁場偏差計開発」により、地下資源探査への応用を目指したベースライン長が 350 mm の高温超電導大型磁場偏差計を開発している。このたび Y 系高温超電導テープ線材で作製した検出コイルと酸化物単結晶基板上に作製した高温超電導 SQUID 素子を低抵抗接続することで大型の偏差計を構成することに成功したことが 2012 年春季応用物理学関係連合講演会 (3/15~18, 早稲田大学 ) で報告された。
　高温超電導 SQUID を用いた TEM(Transient Electromagnetic) 法による地下資源探査は、国内外で盛んに開発が進められており、実際の金属資源探査に活用されはじめている。高感度な SQUID を使用することで、従来の誘導コイルをセンサとして用いた TEM 法よりも深部の探査が可能であるが、環境磁気雑音の影響を受けやすいという問題がある。 2 点間の磁場偏差を計測する偏差計 ( グラジオメータ ) を用いることで環境雑音をキャンセルできるが、数十から数百 m 離れた地下からの磁気信号を計測するためには長いベースライン ( 測定する 2 点間の距離 ) が必要であった。また、磁場偏差を計測することで、境界部分の検出精度が向上することも期待されていた。しかしながら、高温超電導線材では超電導状態で接続する技術がまだ開発されていないため、大型の磁場偏差計の作製が困難であった。そこで、超電導工学研究所では低接触抵抗で Y 系テープ線材と高温超電導 SQUID 素子を接続する方式で大型磁場偏差計を開発した ( 図 1) 。

図 1 　開発した大型磁場偏差計の構造

　検出コイルの作製には、幅 10 mm の Gd123 系高温超電導テープ線材 ( ㈱フジクラ製 ) が用いられており、両端がつながった状態で幅 5 mm に 2 分割した後に、直径 100 mm ボビンに立体的に巻き付けることでつなぎ目のない平面型一次微分検出コイル構造を実現した ( 図 1) 。長い線材を使用することで任意の巻き数のコイルを作製することができる。使用した SQUID 素子自体も、一次微分薄膜検出コイルが SQUID インダクタに直接結合した直結型グラジオメータになっている。検出コイルが接続される入力コイルは SQUID 素子とは別の基板に形成されており、フリップチップ方式で入力コイルの上に直結型グラジオメータがエポキシ系接着剤で固定された構造になっている。試作した磁場偏差計では入力巻き数は 26 、検出コイルの巻き数は 6 となっており、インダクタンス整合が取られている。入力コイルと検出コイルとの接続には低融点合金 ( 融点 79°C) が用いられた。また、偏差計では検出感度に加えて 2 つの検出コイルのバランスが重要である。高いバランスを得るため、 3 本の Y 系線材を偏心した回転板に固定したバランス調整機構も開発された。回転板の角度に依存して検出コイルに対する Y 系線材位置が内側から外側に連続的に変化するため、鎖交する磁束量を調整できる。
　測定した周波数特性 ( 図 2) によると、カットオフ周波数 9 Hz 以上でフラットな感度特性を得ることができている。低周波側の感度低下は接触抵抗の影響である。フラットな感度領域では、有効面積として 1.89 mm 2 、有効面積 × ベースラインで定義される有効体積として 662 mm 3 が得られている。磁束雑音は 25 mF 0 /Hz 1/2 (white) であり、傾斜磁場雑音に換算すると約 1 fT/cm ・ Hz 1/2 (white) の低い雑音 ( 図 3) が得られている。グラジオメータバランスは 1/142 ( バランス調整前は 1/69 ) であった。地下資源探査では約 1/1000 のバランス性能が求められており、より高精度なバランス調整が必要と考えられる。
　開発担当者の塚本晃主管研究員は、「高温超電導線材を利用することで、大型の検出コイルだけでなく LTS-SQUID では一般的な同軸型検出コイルや 2 次微分検出コイルの作製も可能になる。接触抵抗も予備実験では 0.01 m W まで下げることに成功しており、カットオフ周波数 0.1 Hz 以下が期待できる。こうなると生体磁気計測や非破壊検査にも威力を発揮する。」と述べている。( akayoroshi )

　図 2 　磁場偏差計の周波数特性 ( 実測値と計算値の比較 )

図 3 　磁場偏差計の雑音スペクトル