SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No1 February, 2012


 

新しい超伝導材料、カリウムドープ−フラーレンナノウィスカー    _物質・材料研究機構_

 


 フラーレンナノウィスカーと呼ばれる新しい素材がの超伝導材料の仲間入りを果たした。フラーレンナノウィスカーは、ナノサイズのカーボン素材で、軽くて細長い形状をしている。従来の超伝導線の材料は、金属またはセラミックスのいずれかのため、重量が大きく硬い超伝導素材しか作れなかったが、今回、糸状や布状の『しなやかで軽い超伝導体』という新たな超伝導素材開発につながる研究成果が、物質・材料研究機構ナノフロンティア材料グループの高野義彦グループリーダー、竹屋浩幸主席研究員、フラーレン工学グループの宮澤薫一グループリーダーらによって報告された。
  まず、フラーレンナノウィスカー (C60NW) という耳慣れない素材について見てみよう。それは 2001 年に宮澤薫一によって開発された、フラーレン C60 が fcc や hcp などの構造を組んだウィスカー状結晶で、現在では髪の毛の 100 分の 1 程度の細さの繊維状のもの、空洞の空いたチューブ状のもの、シート状のものなどが次々に開発されている。これらの物質は総称してフラーレンナノファイバーと呼ばれ、カーボン素材の一つとして資源の問題もなく、生分解性があり環境にやさしい素材として、太陽電池などの機能材料への応用が期待されている物質である。今回は、そのうちの図 1 に示すような C60NW の 5 m m 程度の短いウィスカーにカリウムをドープすることで 17 K の超伝導体となることが初めて実証された。もともと C60 はカリウムをドープすることで 19 K で超伝導体になることは知られていた。ただ、 C60 は K ドープで格子定数が大きくなるため結晶粒内に歪みが生じたり、安定で超伝導にはならない K 6 C 60 が先にできてしまうため、超伝導相である K 3 C 60 を簡単につくることは難しかった。この点が C60 超伝導体のバルク応用おいての問題点の一つであった。 C60NW は、図 2 に示すような液相・液相界面析出法 (LLIP 法 ) で作り出されるため、できたときは物質内に溶媒が含まれており、溶媒から取り出されて徐々に溶媒乾燥が起こるときに構造変態が起こる。 80% 以上の超伝導化に成功したのは、数十ナノメーターの空孔がカリウムの浸透を助け、カリウムが入って格子定数が大きくなっても歪みが緩和するためと考えられている。同じ条件で作ったカリウムドープの C60 粉末の超伝導体積分率は 1% 以下であった。図 3 にカリウムドープの C60NW とカリウムドープの C60 粉末の磁化カーブが示してある。この磁化カーブから Bean モデルによって見積もられた電流臨界密度が図 4 であり、カリウムドープ C60NW は 5 K 、 5 T でも 10 5 A/cm 2 と高い電流密度を維持していることがわかる。新しい軽くてフレキシブルな超伝導素材として今後の進展に期待したい。 ( 北野丸 )