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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.21, No1 February, 2012

性能・技術の向上が進む RE 系高温超電導バルク材の最近の開発状況　　　　　＿新日鉄＿

　RE 系 (RE ： Y または希土類元素 ) 高温超電導バルク材は、①磁場中での大電流通電、②制御フリーでの安定浮上、③コンパクトな強磁場という優れた応用的特長を有しているため、様々な分野で実用化が期待されている。新日鉄では、バルク応用開発を加速するために、高性能な RE 系バルク材 ( 商標 QMG R ) を研究所から有償サンプルとして社外の研究機関に提供しており、昨年の EUCAS2011 では RE 系バルク材料の最近の開発状況について発表しているが、図 1 のように RE 系バルク材の性能・材料技術は着実に進展している。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　図 1 RE 系高温超電導バルク材の高特性化の変遷

　 RE-Ba-Cu-O 系超電導材料は、脆性材料のセラミックであり、高性能化のためには単結晶化が必要であるため、バルク ( 塊状 ) は RE 系超電導材料に最も適した材料形態と言える。 RE 系バルク材の特長を活かした応用として、電流リード、限流素子、船舶用モータ、風力・潮流用発電機、卓上型 NMR/MRI 、磁気的薬剤搬送システム、磁気分離、マグネトロンスパッタ、アンジュレータ、フライホイール、免振装置、半導体スピン処理、バイオ・医薬撹拌など様々な分野で期待されているが、バルク材は線材のような金属基材を必要としないため、コンパクト化、小型・軽量化が求められる分野では特にその特長が生きる。これらの応用開発の進展と共に、バルク材の性能・材料技術も日々向上している。
　 RE-Ba-Cu-O 系超電導材料の RE サイトには、 Y または希土類元素が入るが、材料技術の進展に伴い、 RE 元素による超電導特性や諸物性の差異が明らかになってきている。応用開発を視野に入れたバルク材料開発では、単なる高 J c 化では不十分で、試料全体のマクロ的な J c と結晶成長性 ( 単結晶領域サイズ ) の両方を反映した捕捉磁場特性が重要な指標になるが、現在 RE=Gd 系バルク材が高特性と生産性の点で有望視されている。当初、軽希土類元素 (RE=Nd 、 Sm 、 Eu 、 Gd) 系は、捕捉磁場特性の潜在的能力は高いものの、 T c を低下させる RE/Ba 置換を抑制するため低酸素中で製造することが必須であると考えられていたが、軽希土類系の中で最もイオン半径の小さい Gd 系バルク材において、結晶成長時の熱処理条件等を最適化することで、生産性の点で優れる大気中結晶成長でも直径 60 mm 級の大型バルク材で 77 K で 2 T 以上の高捕捉磁束密度化に成功している。現在のバルク材のマクロ的 J c は 10,000~20,000 A/cm 2 (77 K 、 1 T) 程度であるが、 SQUID によるミクロ的評価では局所的にその 10 倍以上の高い J c の報告例もあり、 RE 系バルク材には特性改善の余地はまだまだ大きく、ミクロ的 J c と結晶成長性の両立など一層の高性能化のための研究開発課題も多い。
　 RE 系バルク材は、 77 K でも永久磁石を凌駕する強磁場発生源になるが、冷凍機と組み合わせて 20~50 K に冷却すると 10 T 級あるいは 10 T 超の高捕捉磁場化も可能になる。これまで比較的小型の試料では 10 T 級の強磁場捕捉の報告はあったが、直径 30 mm 以上の大型試料では報告例が少なかった。大型試料では捕捉磁場による電磁力の増大に加えて、機械的特性を低下させる欠陥の少ない均質性の高い大型試料を製造することが難しかったためであるが、最近では均質性の高い試料が得られるようになり、岩手大学の協力によって、図 2 にように、直径 46 mm の Gd 系バルク材で 10 T 級の強磁場捕捉が可能であることが実証されている。このような強磁場では、水の反磁性から生じるモーゼ効果を容易に観察できる。
　モータや発電機等のバルク磁石応用における総磁束量や超電導軸受応用における浮上力は、第一近似的には単結晶領域の試料サイズと J c の積に比例するため、バルク材大型化によって応用性能の更なる向上が期待できる。しかしながら、 Gd 系バルク材では、直径 60 mm 級大型材までは比較的安定に製造できるものの、 80 mm 以上の超大型バルク材では外周部の過冷度が大きくなりすぎるため、種結晶以外からの余分な核生成が起こり易く、試料が多結晶化するという問題があった。この問題を解決するため、 RE 元素組成勾配法が開発された。 RE 元素組成勾配法では、 RE 元素による包晶温度 ( 溶融温度 ) の差を利用し、同心円状に RE 元素の組成に勾配を設けた前駆体を作製し、結晶成長させる。図 3 は、中心部の RE 元素組成を Gd100% とし、同心円外周側に Dy を数 % 添加し、外側ほど Dy 添加量を多くした直径 150 mm 級超大型バルク材の外観写真と捕捉磁場分布 (87 K) である。捕捉磁場分布が単一ピークを有することから、試料全体が単結晶状に結晶成長していることが分かる。
　 Gd 系バルク材はほとんど全ての応用に適したバルク材であるが、用途によっては必ずしも最適ではなく、用途による RE 元素の最適化も進んでいる。例えば、バルク材を利用した NMR/MRI は、卓上型のコンパクト NMR/MRI として新しい市場を創出するものと期待されているが、 NMR/MRI 分野では磁場の均一性への要求が格段に厳しく、 1 ppm 以下の磁場均一性を達成するためには、 Gd 元素自身が有する磁化が阻害要因となる可能性がある (SUPERCOM2011 年 8 月号 ) 。この問題を解決するために、低磁化性の Eu 系バルク材が開発された。 Eu 3+ は Gd 3+ よりもイオン半径が大きく、 RE/Ba 置換が起こり易いため、大気中製造が一層難しくなるが、より精密に製造時の熱処理パターンを制御することによって、 Eu 系バルク材でも Gd 系と同レベルの高い捕捉磁場特性を得ることに成功している。また、別の応用例として電流リードがある。電流リードは超電導コイル利用機器の冷却効率を左右するキー部品であり、 Bi 系に比べて J c - B 特性の優れた RE 系バルク材は電流リードに理想的な材料である。電流リード用途では、侵入熱を抑制するため低熱伝導性が要求されるが、岩手大学の藤代教授は、 Dy 系バルク材は Y 系と同等の J c を有するが熱伝導率は半分以下であることを見出した。本現象は学術的にも興味深いが、応用的にも Dy 系バルク材が電流リードに最適な材料であることを示すものであり、現在では電流リードには Dy 系バルク材が使用され、その実績を蓄積している。
　 RE 系バルク材は溶融成長プロセスを利用して製造されるため、結晶成長後の形状のままで応用開発に用いられることはなく、所定の形状に加工される。 RE 系バルク材の加工においては、特性劣化防止のため乾式での加工が推奨されているが、乾式であっても比較的加工しやすい材料であり、図 4 のように、円板形状、リング形状、六角形状、四角形状、扇形状など様々な形状への加工実績がある。最近では加工技術も進展しており、マルチブレードソーによるスライス切断でシリコンウェハーのように 1 mm 程度の薄い円板形状や、サンドブラスト加工によって渦巻き形状のような複雑形状の加工も可能になってきている。
　上述したように、 RE 系高温超電導バルク材の材料技術・性能は着実に進展している。バルク材料技術の進展と共に、応用開発が相乗効果的に進展し、バルク応用が早期実用化し、発展・普及することが期待される。 ( バルクのおきてバルバルモリモリ )