SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No5,December, 2011


<会議報告>

85 回  2011 年度秋季低温工学・超電導学会報告 2011/11/9-11 ( @金沢歌舞伎座 )


Bi 線材】

 Bi 線材・バルクに関しては 3 件に留まった一方で、マグネットなどの応用開発分野では春季学会を上回る件数の報告が寄せられ、双方ともに活発な議論がなされた。材料と応用に分けて簡単に概要を書き留めたので、ご参照願いたい。
  住友電工の菊地らは Bi2223 線材開発の近況について報告した。キャリアドープ状態制御による磁場中 I c 向上のほか、電流リード向け Type G 試作品では 200 A を超える I c が確認され、高強度型 Type HT では補強材の肉厚化によって引っ張り強度が飛躍的に改善 (>400 MPa) したなど、最新の成果が公表された。東京大学からは、 Bi(Pb)2223 バルクに関して 2 件の発表があった。まず小畑らは、加圧焼成によって作製された緻密な c 軸磁場配向バルクの抵抗率測定の結果から、ポストアニールを施した場合の c 軸方向電流パスの増加が無配向バルクに対して顕著であることを示唆した。また下山らは、ポストアニールの及ぼす本質的な影響を考察するため、無配向バルクの残留磁化を測定した。これによって、還元ポストアニールは粒間の結合を劇的に改善させていることが明らかとなり、その効果はオーバードープとすることでさらに顕著に現れることを明らかにした。
  九大の蔵脇らは、 DI-BSCCO コイルの 4.2 K 、低周波数通電時の交流損失評価結果について報告した。コイル内の磁界分布に加えてテープ線の垂直磁界損失に対する積層枚数の効果を考慮に入れて見積もられたコイル通電損失の解析結果を紹介し、実測値とのずれについて同時挿引の影響等も考察に入れる必要がある、との見通しを示した。京大の李らは、コイル発生磁場の安定性に対する素線ツイストの影響を実験的に検証し、ツイスト線材を使うことで遮蔽電流の作る磁場の減衰が速く、磁場のドリフトが抑制されることを示した。神戸製鋼の寺尾らは、 3 T 級脳用 MRI 超電導マグネットの開発状況について報告した。コイル作製方法の検討ならびに鉄シムによる磁場補正の結果、中間目標である中心磁場 1.5 T 、磁場均一度 15 ppm を達成したとのことで、液体 He レス MRI の実現に向けて期待できる成果が順調に得られているようである。京大の北野らより、車載応用を目指した高温超伝導誘導同期回転機システム (HTS-ISM) の開発に関する最新の成果が報告された。 20 kW 級試作機を用いた無負荷状態の加速試験では 4 sec 程度で 1800 rpm の同期回転に成功したほか、負荷状態での発進特性にも成功しており、自律安定性が実証されたとのことであった。日立の中川らは、 HTS コイルの熱設計に必要となるコイル I - V 特性を任意の温度、磁場下で算出するコードの開発状況について報告した。 Bi2223 コイル I c の計算値は実測値に対して 8% 以下の精度で一致し、発熱設計に対する計算コードの有用性を示した。早大の琴寄らより、医療用重粒子線加速器応用を想定した中性子線照射の超伝導線材への影響が報告され、 2G と同様に DI-BSCCO 線材においても I c の低下は確認されない、とのことであった。最近機械特性も劇的に改善している DI-BSCCO も視野に入れた耐電磁応力の検討を切に期待する。 ( 住友電工 菊地 昌志 )

 

Y 系線材作製】

 Y 系線材作製に関しては、日本国内では超電導層成膜プロセスとして MOD を用いるグループと PLD を用いるグループが多数を占めており、今学会においてもそれぞれに対応する口頭発表 2 セッションと、様々なプロセスを扱ったポスターセッションとが行われた。本稿では、口頭発表のセッションから幾つかのトピックを紹介する。
  MOD 法 Y 系線材のセッションでは、成蹊大の三浦らにより、 TFA-MOD 法を用いて様々な BaMO 3 (M=Zr, Nb, Sn) ナノ粒子を超電導層中に導入した時の粒子サイズと磁場特性が報告され、 M の種類により粒子サイズが異なる結果、磁場特性が異なる事が報告された。東京大学の石渡らは、フッ素フリー MOD 法により 2 MA/cm 2 を超える高い J c を有する YBCO 薄膜が焼成時間 1 分という短い時間で得られたとの報告を行った。現在主流の TFA-MOD 法に取って替わるかどうかを左右するため、今後の研究開発の進展による膜厚・ I c の伸びに注目したい。
  PLD 法 Y 系線材のセッションでは、ターゲットへの元素添加による REBCO 超電導層中へのナノロッド導入技術に関する発表が 4 件あり、それぞれ異なる種類の元素、 RE を用いて特性向上を図っていた。それぞれに特徴があり、一概に優劣を論じる事は難しいが、金属基板を用いて 200 A を超える I c を 65 K 、 5 T で得たという BaHfO 3 添加の発表 (ISTEC 飛田ら ) は実用化をアピールする成果であった。一方、フジクラの鈴木らは、 Y 系線材の信頼性評価として剥離強度の測定結果を報告し、同社製の線材は線材垂直方向の剥離強度が 60 点の測定で全て 40 MPa 以上と十分な強度を保持しており、 I c 特性と共に高い信頼性を有していることを示した。
  韓国の国家プロジェクトにおける超電導電力機器技術開発を纏めて紹介した KERI の Seong 博士による特別招待講演の中でも、プロジェクト内で進められている Y 系線材開発に関する情報が紹介された。近年進展が著しい SuNAM 社による RCE 法を用いた線材作製において、線材作製能力の指標となる I c × L 値で、フジクラ、米 SuperPower 社に次いで世界 3 位となる 296 A/cm 幅− 920 m 線材の作製報告がなされた。これは前月 (10 月 ) の ISS2011 で発表した自らの成果を更に更新したものであり、急速に開発が進んでいることを伺わせる。製造速度も速いため、線材供給能力も高く、国内線材メーカにとっては強力なライバルになると思われる。  (ISTEC 吉積  正晃 )

 

【Y 系線材評価】

 Y 系線材の評価について、 (1) 新しいピンニング材料である BaHfO 3 の添加効果、 (2) 磁化曲線の異常な角度依存性、 (3) 機械的特性を中心に報告する。
  BaHfO 3 添加効果 :  PLD プロセスでのターゲット材に BaHfO 3 (BHO) を添加した BHO 導入 GdBCO 線材において、従来を超える磁場中 I c 特性の向上が得られるとの報告が行われた。
  ISTEC の飛田らは、 BMO(M=Metal) に注目したピンニング材料の開発において、 BHO 導入線材が従来の BaZrO 3 導入線材を上回る磁場中 I c 特性を有することを発見したと報告した。 BHO 導入線材の特徴のひとつは、磁場中 I c (77 K, 3 T) が膜厚の増大に対して飽和しないことである。 Y 系薄膜線材においては、超伝導層の厚膜化による I c の上昇が工学的臨界電流密度 J e の向上に有効であることから、上記の特徴は実用上重要である。 3.5 mol% の BHO を導入した GdBCO 線材では、膜厚 2.9 m m にて 84.8 A/cm-w(77 K, 3 T) という世界最高レベルの I c 値が得られたとのことである。
  九大の井上らは、 BHO 導入線材の磁場中臨界電流特性の温度、磁場、角度依存性を通電法により調べた結果について報告した。 BHO 導入に起因すると思われる磁場中 I c の向上は低温でも観察されており、 20 K 、 17 T では、同程度の膜厚を有する人工ピン未導入線材の 370 A/cm-w に対して、 700 A/cm-w の I c が得られたとのことである。角度依存性では、幅広い角度領域に亘る I c の向上が見られるとのことであったが、低温での特性はまだ得られていないとのことで、今後の報告が待たれる。
  九工大の永水、九大の今村らは、 BHO 導入線材の磁化緩和測定から得られる臨界電流特性について報告した。 BHO 導入線材は人工ピン未導入線材に比べて、高い緩和特性を有していること、また、磁化緩和測定で観測される低電界領域で高い臨界電流特性を有していることが確認されている。
  磁化曲線の異常な角度依存性 : 九大の川鍋らは、前回の学会に引き続き、斜め磁場中の磁化曲線の異常な振る舞いについて報告した。この現象は、斜め磁場中で磁化曲線を測定すると印加磁場の極性が変化するときに磁化がゼロになる、というものである。今回、バイアス磁場と磁化のマイナーループとの関係について調べたところ、バイアス磁場が大きいほど当該現象が顕著に現れたとのことであった。また、 2 種類の線材の比較ではあるものの、基板の D f が小さい、即ち J c の高い線材の方が磁化曲線の面積がより小さくなるとのことであった。 ISTEC の筑本らからは、 PLD-GdBCO 線材の磁化曲線を SQUID 磁束計 (MPMS) にて計測した結果についての報告が行われた。 77 K では磁化曲線の異常は観測されなかったものの、 65 K 、 60 K 、 55 K の斜め磁場中にて磁化曲線のヒステリシスが一部消失することが確認されたとのことである。当該現象は交流損失の大幅な減少を意味することから、実用の面からも大変興味深い。今後の発現機構の解明が強く期待される。
  機械的特性 :  Y 系線材では、コイル応用において線材膜厚方向の応力によるはく離が問題となっており、線材自体のはく離強度評価についていくつか報告があった。 ISTEC の坂井らは、引張法によるはく離強度評価およびその破断面観察結果との相関について報告した。同じ構造の線材でも強度にはばらつきがあるが、強度の低い場合には破断面に製造時に発生したと考えられる密着性の悪い欠陥が観察された。これらの欠陥は基板の洗浄により低減することが可能であり、プロセス改善により全体のはく離強度のばらつき低減にも繋がるとのことであった。一方、長尺線材においてはく離の原因となるような欠陥をいかに確実に発見するかが今後の課題であるとのことであった。
  フジクラの鈴木らは同社の GdBCO 線材について、バッファー層、超伝導層、 Ag の各層を成膜した段階で抽出した線材について、引張法によるはく離強度系統的評価を行った結果について報告した。 GdBCO 成膜前は中間層である Al 2 O 3 と Hastelloy 基板界面ではく離が発生するが、 GdBCO 成膜後はその層内または超伝導層自体が剥離し、 CeO 2 層より下の層でははく離は発生しないとのことであった。さらに、 PLD 成膜熱処理を経験することでバッファー層の密着性は向上することが確認された。同線材のはく離強度は 40 MPa 以上とのことであった。はく離強度評価に関しては、依然として評価法が確立されておらず定量性への疑問が残るものの、一時期のような 10 MPa 程度という低い値からはかなり向上している様である。
  また、引張、曲げ特性に関しては以下の報告があった。 ISTEC の山田らは、 CVD-(Y,Gd)BCO 線材について I c −曲げひずみ測定を行い、これまでに発表してきた ISTEC 、フジクラ、昭和電線、住友電工の各社の特性との比較について報告した。 CVD 線材の I c が不可逆に劣化する限界曲げ径は他の線材とほぼ同等であり、引張側では 15-20 mm で劣化が開始する。一方、上記線材間には可逆ひずみ範囲内で特に圧縮ひずみ側で I c のひずみ依存性に違いが見られるが、その理由については未解明とのことであった。また、基板の厚さを 100 m m 、 80 m m 、 70 m m と変化させた ISTEC の PLD 線材について曲げ特性を比較し、基板の厚さを薄くすると許容曲げ径が小さくなることが確認された。
RE 系線材における超伝導膜自体の変形挙動について放射光で格子ひずみを測定した結果について、 2 件の報告があった。応用科学研究所の長村らは、白色光を用いて 4 社の線材を系統的に測定した結果について報告した。 REBCO 膜には双晶が存在するが、双晶界面が結晶内部と異なる力学特性を有するという効果を導入したモデルを提示した。外部から負荷したマクロなひずみと格子ひずみの関係から、双晶界面が力学的に軟らかいことが推定されるとのことであった。 KEK の菅野らは、一部の GdBCO 線材について I c の可逆的ひずみ効果のひずみ感受性が極めて小さくなることを報告した。この線材では、中間層の組み合わせにより GdBCO 膜の [110] 方向が線材長手方向に配向しており、単色の放射光を用いた格子ひずみ測定の結果、一般的な a , b 軸が長手方向に配向している線材とは異なる 2 次元内部ひずみ状態にあることが確認された。さらに、配向方位の違いにより、線材に引張ひずみを負荷したときに結晶軸方向に発生するひずみが小さいことが、ひずみ感受性の違いの主要因であると報告した。
  その他 : 九大の東川らは、ホール素子を用いたリール式磁気顕微システムによる面内臨界電流分布評価について報告した。幅方向のセンサー走査と線材の送り機構を組み合わせることで、長尺線材の I c 分布の評価に成功している。特に、幅方向に高速でセンサーを走査する様子を動画で示された点が印象的であり、このような状態でも線材とセンサー間の距離を 100 m の精度で維持できる工夫が施されているとのことであった。 ( 九州大学 井上 昌睦, KEK  菅野 未知央 )

 

【ケーブル関係】

 超電導ケーブル関係では、「送電ケーブル (1) 」と「送電ケーブル (2) 」の 2 セッションがあった。以下、筆者が聴講した「送電ケーブル (1) 」の概要を数件報告する。「送電ケーブル (1) 」では、合計 4 件の NEDO プロジェクトに関する報告があり、うち 2 件が「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」で、残り 2 件が「イットリウム系超電導電力機器技術開発」に関する報告であった。「高温超電導ケーブル実証プロジェクト」では、ビスマス線材を用いた 66 kV/2 kA 三心一括型高温超電導ケーブルの開発を行われている。「イットリウム系超電導電力機器技術開発」では、イットリウム線材を用いた 66 kV/5 kA 三心一括型大電流ケーブルと 275 kV/3 k A 単心型高電圧ケーブルの 2 種類のケーブル開発が行われている。
  住友電工の大屋氏は、「長尺三心一括型超電導ケーブルの臨界電流測定」と題して、高温超電導ケーブル実証プロジェクトで製作した 30 m 長ケーブルの I c 測定結果と数値解析結果の比較、および長尺ケーブルの I c 評価方法について報告した。長尺ケーブルの導体 I c 測定は、 1 本のケーブルコアの両端に直流電源を接続することは困難であるため、 2 本のケーブルコアを直列接続し、往復通電して測定を行うことが必要であるとした。その際に、通電電流のランプレートに依存して、コア同士の磁気的な干渉が I c 測定に影響を及ぼすことを実験と解析の両面から確認された。さらに、開発された I c 解析モデルによりケーブルが長くなるにつれて磁気的干渉の影響が薄れ、 500 m 以上では全線材の総 I c と同程度になることを確認された。今後、 100 m 以上のケーブル長での検証が必要と思われる 。
  産総研の我妻氏は、「 HTS 電力ケーブルの銅フォーマ部に存在する液体窒素を考慮した短絡事故時の熱安定性解析」と題して、高温超電導ケーブル実証プロジェクトで製作した 30 m ケーブルの短絡電流模擬試験に対し、管路内の窒素冷媒温度を評価するために銅フォーマ内部のサブクール窒素も考慮した数値解析結果について報告した。銅フォーマ内部のサブクール窒素を考慮することで、過電流通電直後は実験結果と異なるが、その後の推移はよく一致しているとした。解析結果から、銅フォーマ内部の窒素温度は流れがなく外部の冷媒までに距離があるため、過電流通電後に初期温度まで復帰するには相当な時間がかかることも報告された。
  早大の王氏は、「過電流通電による YBCO 超電導線材の局所劣化に関する数値解析」と題して、線材長手方向に対し Y 層の I c と銅メッキ層の厚みのばらつきおよびばらつきの長さをパラメータとして、局所劣化の要因となるホットスポットについて通電・伝熱・応力・ひずみの解析結果を報告した。過電流通電においてホットスポットの発生は I c のばらつきでなく銅メッキ層の厚みのばらつきに起因することを示された。また、実際の銅メッキ施工過程で想定される厚さ方向のばらつきに対して、数値解析により定性的・定量的にホットスポットの温度分布と熱応力・ひずみの大きさを報告された。今後、ばらつきの分布頻度や範囲をさまざまな形で想定して解析が必要と議論された。 ( 早稲田大学 王 旭東 )

 

【超伝導応用】

 超伝導応用の中で HTS に関連した発表は 52 件で、送電ケーブル 9 件、バルク体応用が 10 件でコイル応用が 36 件であった。送電ケーブルの内訳は Bi 系ケーブルに関する実験と解析に関するものが 2 件、 Y 系適用および開発に関する基礎解析が 6 件であった。バルク体応用は回転体支持などの磁気浮上などへの応用が 5 件、携帯用バルク磁石 2 件、 SQUID 応用が 3 件であった。コイル応用の内訳は、 Bi 系線材に関するものが 4 件、 Y 系線材に関するものが 32 件であった。以下、様々なセッションで基礎から応用まで幅広い発表があったコイル応用について述べる。
  Bi 系線材は「 HTS コイル」「 Bi2223 コイル」の 2 セッションで、通電時の磁場分布計算手法の検証報告、 5 T 級コイルの交流通電損失、改良線材 ( ツイスト ) によるコイル交流損失の改善、 20 K 運転を目指す MRI 用 3 T マグネットの開発などの発表があった。
  Y 系線材は、「 HTS コイル」「 HTS コイル化技術」「計測」「 SMES/ クエンチ保護」「電気機器」「 NMR 」「 SMES/ クエンチ保護」「加速器」「 Y 系コイル開発」の 9 セッションで、巻線特性や含浸、冷却などのコイル化に必要な技術に関する基礎検討から、応用機器の設計、試作まで多岐にわたる 32 件の発表があった ( 基礎検討 13 件、機器応用 19 件 ) 。
  基礎検討では、巻線時の分流・巻乱れの影響評価、磁場分布などの通電特性評価、エポキシ含浸コイルの熱伝導評価、巻線後の特性劣化の評価、含浸 Y 系コイルの特性劣化の抑制に関する発表などがあった。熱伝導評価では、東工大らの研究グループが、エポキシ含浸コイルのカットモデルを使った極低温下の熱伝導実験を行い、巻線方向の熱伝導率が巻厚方向のそれより小さいことから、局所的な熱負荷がコイルの温度分布を不均一にすることを報告していた。また、三菱電機の横山は、コイル模擬試料 (SUS/Cu クラッド材 ) のエポキシ含浸有り無しでの巻線および径方向の温度分布を測定して、含浸による温度の平滑化効果を報告していた。含浸コイルの特性劣化に関しては、千葉大・上智大・三菱電線・理研の研究グループが、 Y 系線材にポリイミド電着技術を適用することで、エポキシ含浸による HTS 線と樹脂間のへき開による線材劣化が抑制できることを報告していた。
  応用に関しては、風力用大型発電機、モータ、変圧器などへの適用が 8 件、 24 T を発生させた NMR 内挿用強磁場コイルの開発に関する発表が 2 件あった。また、機械強度が必要な加速器コイルへの応用では、電磁力設計が 4 件あり、コイルの試作とその特性確認に関して、東芝の研究グループから強磁場通電試験結果や大型コイルのための試巻線の結果が 5 件報告された。コイル試作と特性確認においては、安定した超伝導特性が得られており、コイル化技術が着実に進んでいることがわかる。 HTS 線のバンドル巻を模擬した試作の報告もあり、 HTS 線と模擬 SUS 線の 4 本バンドル巻の大型コイルの試巻線に関する実験結果と解析結果が発表された。基礎検討で紹介した模擬試料による熱伝導予測とも共通しているが、解析も含めた模擬手法で、技術力の向上とコイル化技術の着実な前進を図っていることが伺えた。技術は一歩一歩、着実に進められ、蓄積されている。 ( 鉄道総研 清野 寛 )

 

RE123 バルク】

 RE123 バルクに関して、口頭 5 件、ポスター発表 10 件の報告があった。ポスター発表は、 HTS バルクのセッションのほか、産業応用、 NMR 分野で RE123 バルクの応用の報告があった。口頭発表は鉄系超伝導体と同一のセッションであり、近年は RE123 バルクの発表件数が縮小傾向にあり、新たな風が待ち遠しい。
  口頭発表で東大の杵村らは、 RE の Ba サイトへの置換を抑制したバルク体の作製を試みており、低圧純酸素雰囲気下で結晶育成を行った後、圧力制御による低酸素圧ポストアニールを追加した結果を報告した。ポストアニールの追加により T c 、 J c 特性が向上し RE 置換の抑制効果があったが、アンダードープ状態になっている可能性があるため、酸素アニールの最適化を今後検討する旨を述べていた。岩手大の荒屋敷らは、ファセットの配置の異なる四角形状バルク体に対し ZFC で静磁場、パルスでの着磁を行い、ファセットの位置が着磁に及ぼす効果を報告した。静磁場着磁では磁束がピン止め力の弱い領域から侵入するのに対し、パルス着磁ではバルク体の辺領域から等方的に侵入し、主にバルク体の形状に依存することを明らかにした。またパルス着磁に関して、円盤状バルク体では静磁場着磁の 30 %程度の捕捉磁場しか得られなかったのに対し、四角形状バルク体では FCM と近い捕捉磁場が得られたことを報じた。日立の佐保、松田らは、冷凍機一体型の超小型バルク磁石の開発について報告した。一体型バルク磁石の概要は、重量 1.8 kg 、消費電力 23 W 、バルク体外径 20 mm f 、先端表面の磁束密度 3.1 T 、であり、容易に一人で持ち運べる携帯性の実現見通しを得たことを発表した。
  ポスター発表で岩手大の小山らは、一部に低い J c 領域をもつ超電導バルク体について捕捉磁場の三次元シミュレーションを行い、不均一な磁場分布をもつバルク体のシミュレーション方法を確立したことで、実際の実験結果に近い捕捉磁場分布の解析を行うことができたことを報告した。芝浦工大の岩崎らは、 Y211 相の微細化を狙い、 Y123 バルク体への BaSnO 3 の添加効果を調べていた。 BaSnO 3 を加えることで Y211 と反応し Y 2 Ba 4 CuSnO x が生成される過程で、 Y211 が微細化された旨を報告した。同大学の池田と馬越らは、 Y123 バルク体へアクリル系バインダーや PVA などを添加し、前駆体の圧縮強度が向上したことを報告した。北海道工大の槌本は、磁場中冷却着磁されたバルク体の 1 次元応力分布とマクスウェル応力についての解析結果を発表し、円盤状バルク体の軸対称な 3 次元分布での解析において、マクスウェル応力分布からバルク内部の応力分布を推定できないか検討を進めていた。東大の蛭川らは、コンパクト NMR への応用の観点から、バルク体の発生する磁界分布の均一化を目指し、バルク材の形状や配置の最適化を行っていた。 2 つのリング状バルクを対向させて配置する際に、 13 mm のギャップでスペーサを入れることで磁場の均一性が最も高かったことを述べていた。 ( 鉄道総研 石原 篤、赤坂 友幸 )

 

【 MgB 2

 MgB 2 関連の発表 ( 全 22 件 ( 口頭: 18 件,ポスター: 4 件 )) について報告する。線材に関しては、高 J c 化を目的とした様々なプロセスが報告された。また、応用面では、比較的容易に均一組織が得られるという MgB 2 の利点を生かしたバルク磁石、低炭素社会構築のために注目されている液体水素応用と絡めたものに関して報告があった。
  線材 :電気的結合度や C 固溶均一性の改善を目的として、原料粉末・拡散法・加圧処理など多岐に渡る検討が報告された。西島 (NIMS) らは、内部 Mg 拡散法と in-situ 法の単芯線材について I c の応力・歪依存性を評価し、前者の方が機械的強度に優れることを示した。金田 ( 東海大 ) らは外部 Mg 拡散法において HIP 処理とその前後の熱処理を組み合わせる方法、中山 ( 日大 ) らは 2~2.5 GPa の加圧で線材を平角化する方法 (CHPD 法 ) について検討し、 J c の改善を報告した。田中 ( 東大 ) らは ex-situ 法における MgB 2 原料の微細化、伊藤 ( 東大 ) らは MgB 4 と Mg からの MgB 2 合成、児玉 ( 日立 ) らは Mg, B, MgB 2 からの MgB 2 合成 (premix 法 ) といった緻密化のための製法を検討し、現状で in-situ 法と遜色のない J c が得られることを示した。前田 ( 日大 ) らは、高周波プラズマ法により作製した C コーティング B 粉末を用いることで、現在では入手困難となった高純度アモルファス B 粉末から作製した線材と同等の J c が得られることを示した。藤井 (NIMS) らは、 ex-situ 法において有機酸中でのボールミル粉砕処理と Mg 添加により J c が改善することを報告した。田中 ( 日立 ) らは、 in-situ 法で B 4 C 添加する際、 Mg に対し B を過剰に配合することで J c が改善することを報告した。葉 ( 九大・ NIMS) らは、 Cu 安定化内部 Mg 拡散法の多芯線材において、バリア材を Fe から Ta に変えることで均一性の高い断面構造が得られて J c が改善することを報告した。山本 ( 東大、 JST さきがけ ) らは、 J c 特性に影響を与え得る新たな因子として粒界構造とマルチバンドを挙げ、チルト薄膜を用いた J c 異方性の評価結果からこれらの因子の J c への影響を示唆した。 PIT 線材と比較して 1 桁高い J c が得られることで線材応用が期待される薄膜では、常松 ( 京大 ) らが、従来よりも厚い 1 μm の MgB 2 薄膜を作製して I c 向上を確認した。北村 ( 鹿児島大 ) らは、丸線材を圧延することで作製したテープ線材 5 本を用いて転位導体を試作し、このプロセスによる I c の劣化がなく、この構造が大電流容量化に有効であることを示した。
  バルク磁石 :佐々木 ( 岩手大 ) らは、 MgB 2 バルクの均一性低下の要因が銅製ガスケットと原料 Mg の反応であることを報告した。富田 ( 鉄道総研 ) らは、直径 30 mm 、高さ 10 mm の 2 個の MgB 2 バルクを対向させることで、 17.5 K において 3 T の磁場捕捉が可能であることを実証した。
  液体水素応用 :渡辺 ( 九大 ) らは、 T c 低減と細線化によりヒーター入力不要とした MgB 2 液面計の動作試験を行い、液位に対応した出力と良好な再現性を得られることを実証した。前川 ( 神戸大 ) からは液体水素用 MgB 2 液面センサーの熱応答特性について、武田 ( 神戸大 ) からは MgB 2 液面センサーを用いた液体水素のスロッシング応答特性についての報告があった。後村 ( 東北大 ) 、天田 ( 東北大 ) 、新冨 ( 日大 ) 、槙田 ( 高エネ機構 ) らからは、 MgB 2 線材を用いた SMES 、燃料電池、電気分解装置、液体水素ステーション、自然エネルギー源で構成される先進超電導電力変換システムに関する報告があった。 SMES をコンパクトにするためには、更なる MgB 2 線材の高性能化が要求されるということであった。 ( 日立製作所  児玉 一宗 )

 

Fe 系超伝導体】

 Fe 系超伝導体関連の発表は全体で 3 件あり、線材、単結晶、薄膜から 1 件ずつの口頭発表であった。
  物材機構の松本らは、溶融反応法で作製した前駆体を用いて作製した短尺の Ag 添加 (Ba,K)Fe 2 As 2 線材の通電特性と組織観察を報告した。特に 20 K における低磁界領域での臨界電流密度は J c = 1000 A/cm 2 程度であるが、その磁界依存性は優れており、 18 T の磁界下でも J c = 100 A/cm 2 を超えており、この材料の高磁界下のポテンシャルの高さを示した。また、線材内には大きなボイドや不純物が確認でき、高 J c 化にはこれらの排除が有効であると指摘した。
  ISTEC の筑本らは、 Co 及び P 置換した Fe122 単結晶体の臨界電流特性及び磁化の緩和特性について報告した。特に Co 置換領域が高磁界領域で有効なピンとして作用し、臨界電流密度も高く、磁化の緩和率も緩やかになることを示した。またピン力密度の温度スケール則において P 置換では低磁界領域でピン力密度がピークを持つが、 Co 置換はそのピークが高磁界領域に移行し、このような振る舞いは溶融法で作製された RE 系超伝導体のピンニング特性に似ていると指摘した。
  電中研の一之瀬らは、 CaF 2 基板上に PLD 法で作製した Fe11 系薄膜の抵抗率測定から、 CaF 2 基板上の成膜は LaAlO 3 基板よりも再現性が良く、高 T c が得られることを明らかにした。更に TEM による断面構造観察から、両基板とも基本的にはエピタキシャル成長しているが、 CaF 2 基板では基板側に反応層が確認でき、これが高 T c に寄与している可能性を指摘した。 ( 九州工業大 木内 勝 )

 

SQUID

 今回の低温工学・超電導学会では、 SQUID 応用に関して 3 件の報告があった。

 計測 (1) のセッションで、岡山大学の堺らは HTS-SQUID を用いた試料回転式の小型磁化率計の開発について報告した。センサとして ISTEC/SRL が開発したフリップチップ構造のインプットコイルを有する HTS-dc-SQUID グラジオメータを用いている。このインプットコイルに常伝導の 1 次微分型ピックアップコイルを接続している。このピックアップコイルをはさむように設置した電磁石から約 100 mT の励磁磁場を発生させ、この磁場を通過するようにサンプルを回転機構で移動させ、磁化したサンプルからの磁気信号をピックアップコイルで検出する。読み出し用 SQUID は励磁磁場から離れた磁気シールドルームの中に設置できるため、低ノイズ特性を活かした磁化率測定が可能となっている。測定サンプルとして、酸化鉄粒子をポリスチレン樹脂中に分散したものと数 10 ml の純水を使用しており、前者からは磁性体である酸化鉄からの磁気信号が、後者からは反磁性体のため前者と極性の異なる信号が得られた。コンパクトな磁化率測定装置として実用化を目指している。同セッションで、豊橋技科大の廿日出らは、超低磁場 NMR/MRI 装置を HTS-SQUID を用いて開発しており、従来の電磁石に替えて約 300 mT の永久磁石を前分極に用いた装置を開発した。従来の電磁石を用いて S/N の大きな NMR 信号を得るには 10 A 以上の電流が必要となるため、前分極磁場を素早く立ち下げるのが困難で、シールドルームなどへの影響も無視できない。そこでシールドルーム外に円筒状永久磁石を設置して、そこでサンプル ( 水 ) を磁化し、それをガス庄で SQUID 直下に素早く移動させ NMR 信号を超低磁場 ( 約 45 m T) 中で計測するシステムを構築、従来の電磁石より約 10 倍大きな 1 H-NMR 信号の計測に成功した。また、同グループでは、 Bi 系高温超伝導線材を用いた磁束トランスを作製し、 HTS-SQUID と結合することにより測定範囲および感度の改善を目指した測定システムを開発している。住友電工の DI-BSCCO Type-HT 線材を用いて、差分型レイヤー巻きピックアップコイルを作製し、これを前述と同様の ISTEC/SRL が開発した HTS-dc-SQUID グラジオメータ上の積層形インプットコイルと結合させ、 SQUID でノイズ計測を行なった。この結果、環境電磁ノイズの干渉によるものと考えられるノイズ増加が見られたため、電磁シールドをピックアップコイルに施したところ、約 30 m Φ 0 /Hz 1/2 のノイズレベルが得られた。今後は有効捕獲面積の計測などを行なっていく予定である。 ( 豊橋技科大 廿日出 好 )