SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No5,December, 2011


<会議報告>

2011 European Conference on Applied Superconductivity (Sept. 18-23, 2011 @ World Forum Den Haag, The Hague, The Netherlands)
前号にて EUCAS2011 の会議報告を掲載しましたが、編集の不手際により以下 1 件の報告が載りませんでした。 読者の皆様、特にご執筆いただきました五十嵐様に深くお詫び申し上げます。 (SUPERCOM 事務局 )


 

Y 系線材作製】

 ここでは Coated Conductor 作製、特に線材メーカの開発状況と新たに提案されている作製手法について報告する
  Houston 大の Selvamanickam は基調講演にて Coated conductor の開発動向のまとめと主に Superpower の線材について紹介した。 Superpower では IBAD/MOCVD 法により線材を作製しており、 km 級の IBAD 中間層を定常的に製造している。 2011 年に出荷した線材の I c (4 mm 幅 ) は標準品では主に 100~110 A 、高特性品では 130~140 A であったという。また、 Zr 添加による磁場中特性の向上にも取り組んでおり、磁場中での性能という観点からのプライスダウンを狙いたい構えだ。
  同じく米国から American Superconductor(AMSC) の Thieme らは、 RABiTS/MOD 法における線材開発状況を報告した。 AMSC では 40 mm 幅で線材を作製してから 4.4 mm 幅あるいは 12 mm 幅などにスリットする手法をとっており、最近では 500 m 長の線材が作製できているという。 I c 特性においては、 MOD プロセスの single coat における成膜レートの改善に努め、 1.2 m m で 520 A/cm が得られたという。さらに Ni-W 基板の W 量を通常の 5 at% に対し 9 at% とした基板を開発しており、磁性の低下によるヒステリシス損失の低減に成功したと報告した。
  日本からはフジクラの Igarashi らが IBAD/PLD 法における線材開発状況について報告した。製造プロセスの最適化が進んで長尺線材の均一性が向上した結果、 300 m 長で I c が 400 A 以上の線材を定常的に作製できているという。さらに I c × L 値において 572 A × 816.4 m = 466,981 Am という世界最高性能の線材作製にも成功した。また、通常線材の磁場中特性の典型例が紹介され、 65 K, 3 T において I c は約 200 A/cm 、 50 K, 5 T において I c は約 300 A/cm であり、人工ピンなどの導入でさらに向上させる狙いであるという。その他にも、線材幅などのラインナップを増やす予定や 40 MPa 以上の剥離強度を有するといった信頼性に関する報告があり、線材販売を意識した開発状況が伺えた。
  住友電工の Shingai らは、 66 kV, 5 kA という大電流用ケーブルに向けた線材開発状況について報告した。 30 mm 幅のクラッド基板を用いた線材を作製しており、新規に導入した大出力レーザを用いた PLD 法の進展により、 I c が 120 A(4 mm) の長尺線材が得られるようになってきたという。これらの線材を用いて短尺のケーブルコアを作製したところ、目標値より小さな交流損失を達成できたことから、本格的モデルケーブルの作製に向けて 150 m 長の線材作製を開始するとした。
  欧州からは Bruker の Usoskin らが ABAD/HR-PLD 法による線材開発状況について報告した。この PLD 法ではレーザ光を分割して複数のプルームを発生させる手法をとっており、現状は 300 mJ を 4 分割しているが、将来的には 600 mJ を 8 分割にすることで 100 m/h 以上の製造速度が得られるとしている。特性については、 6 m 長で 500 A/cm が得られ、 300 A/cm は十分に再現できているという。また、 5% の NaCl を含んだ水蒸気中での環境試験を実施した結果、同社の線材は耐久性が高いと報告した。
  THEVA の Prusseit らは ISD 法で作製した中間層上に超電導層を成膜した場合のユニークな特性を報告した。一般的に超電導層の膜厚は、厚くなると a 軸配向粒や異相の割合が大きくなるため J c は低くなる。しかし、この ISD 法上の超電導層では基板の特徴的な表面形状を受けて、厚膜過程で発生してしまう異相などの成長が途中で止まるため、厚膜でも J c が低下しないという。その結果、 5.9 m m で 1018 A/cm という非常に高い特性が得られたとのこと。課題は ISD 中間層の薄膜化と超電導層が薄い段階での J c の向上と言える。
  Zenergy の Baecker らは、 ink-jet 法による超電導層成膜の開発状況について報告した。 Ink-jet 法の利点は、大掛かりな真空装置を必要としない点と様々な形状の超電導膜が得られる点であるとのこと。液滴の粘性などを最適化することで、例えばスクライビングして溝加工を施したような形態の超電導膜が得られていた。特性についても 0.5 m m で I c = 90 A/cm が得られたという。
  韓国からは KERI グループの Kim らが、 IBAD/EDDC 法で作製した線材の特性について報告した。 EDDC 法にて SmBCO を成膜する際に、 Sm-rich で Ba-poor の組成に制御することで高特性が得られ、約 5 m m の厚膜で I c が 1000 A/cm 以上 ( 磁化法測定 ) の特性が得られたという。
  その他にも SuperOx の Kaul らが、線材開発状況について報告した。 SuperOx 社はロシアの会社で 2006 年から線材開発を開始したとのこと。 2011 年には政府からの助成金として $6M を獲得しており、さらに開発を加速させる構えだ。作製手法は RABiTS/MOCVD 法であり、独自に Ni-Cr-W 系の非磁性基板を開発している。開発スタートからまだ 5 年であるが、すでに 1 m で 100 A/cm の特性が得られており今後の開発状況に注目される。
  2011 年は超電導発見 100 周年に加えて Coated Conductor 開発から 20 周年の年でもあり、線材性能は飛躍的に進歩した感がある。一刻も早くこれらの線材が実系統で活躍することを願って本稿を結ぶ。( フジクラ 五十嵐 光則 )