SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No5,December, 2011


 

IBAD/PLD 法による 2G 線材開発進捗状況              _フジクラ_

 


 REBa 2 Cu 3 O y 超電導体を用いた薄膜線材 ( いわゆる 2G 線材 ) は、 R&D 段階のものを含めると世界中で 10 社を超える企業が事業化を目指して開発に取り組んでいるが、米国 2 社に加え一昨年より販売を開始したフジクラ社の 3 社については、それぞれある程度まとまった量の出荷も可能となっており、量産効果によるコストダウンも徐々に進み始めている。フジクラで製造する 2G 線材は、その核となる製造プロセスとして配向中間層を形成する IBAD 法、及び超電導層を形成する PLD 法を採用している。どちらも高価な真空設備を必要とするため初期投資のコストは高いが、すでに報告されているように大面積成膜による IBAD 工程の高速化、ホットウォール加熱方式による PLD 工程の均一性・再現性の向上、更にはエキシマレーザー発振器の性能向上によるランニングコストの低減等により、コストを見積もれる状態で高性能な線材を製造出来るようになってきた。
  図 1 に 2009~2011 年度にかけてのフジクラ社の線材開発進捗を示す。 I c に関しては、世界的に 10 mm 幅あたり 500 A 以上の線材作製例が限られる中で、 100 m 長で 800 A 以上の線材作製に成功している。これはホットウォール加熱を施した PLD 法において、厚膜でも比較的容易に高結晶性を実現できることが大きく寄与している。長さについては、 816 m 長において 572A の全長 I c が確認され、 I c × L の値は 466,981 Am となり、昨年度に続いて世界記録を塗り替えている。これを受け、今日では図 2 に示すように 600 m 以上で I c > 600 A の均一な線材を定常的に製造するに至った。図 3 に典型的な市販線材 ( 自己磁界 I c ~ 460 A @ 77 K, 0 T ) の磁界中特性を示すが、基板に垂直に c 軸に平行な磁界がかかった場合において、 40 K, 4 T 及び 50 K, 2 T で 500 A/cm 、また 65 K, 2 T においても 200 A/cm に到達しており、近年の人工ピン技術の進展もあいまって、遠からずサブクール窒素冷却下でのマグネット応用の検討も可能になるものと思われる。このように長尺化、高 I c 化において PLD 法は非常に有効なプロセスであることが示されつつあり、米国で究極目標として掲げられている 1000 A×1000 m の達成も視野に入っている。 2015 年度の市販線材仕様として、 1 km 単長で 1 cm 幅 I c >700A 相当の線材を各種線幅にて 5 円 /Am 以下で販売することを目標としている。

 

 

図 1 フジクラで作製する 2G 線材の特性

 2G 線材を使ったコイル化については既に内外で多くの報告があるが、独特の構造に起因してコイル化にあたって従来と同じ工法が使いにくいことが明らかになりつつある。フジクラにおいても、線材の構造を最もよく把握出来る立場としてこの問題の解決に積極的に取り組む必要があると考え、自社でコイル巻線を実施するチームを立上げて開発に取り組んでいる、最近では図 4 に示すような含浸固定コイルの試作を行った。ここでは 200 m 長の 5 mm 幅線材を用いた 6 層パンケーキを試作しており、含浸工程で劣化なく健全性が保たれていることを確認するとともに、 50 K で 1 T を超える磁界を伝導冷却により発生することに成功している。この温度領域で熱暴走を始める電界は線材単位長あたり 10 -7 V/cm であり、これより低い電界基準以下であれば安定した動作が確認された。 2G 線材は引き剥がし方向の応力に弱いとする指摘があるが、各機関で報告されているように、工夫を施すことによって含浸自体は可能とされている。いずれにせよ線材の剥離応力が強いことは重要であり、フジクラにおいてはスタッドプル法による剥離試験を抜き取りで実施し剥離応力の統計的把握を行っている。図 5 に最近の市販線材の典型的なデータを示すが、従来に比べ改善が進んでおり安定して 40 MPa 以上が確認されている。今後も、更に線材の信頼性向上に努め、実用線材として受け入れられるべく努力を傾注していく予定である。 (FW190)

図 2  600 m 級 (10 mm 幅 ) 線材における長手方向の I c 分布

 

 

 

 

図 4   200 m 長の線材を用いて作製した 6 層パンケーキコイル


図 5  スタッドプル法によって測定された Y 系線材の垂直剥離応力