SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No5,December, 2011


 

Bi 系超電導線材の開発動向:引張応力 500 MPa も可能に       _住友電工_

 


 Bi2223 線材は現在、最も普及している高温超電導線材であり、これまでに送電ケーブルや各種超電導磁石、モータ、電流リードなど広い用途での採用が進められてきた。特に最終熱処理工程に加圧焼成法を採用した DI-BSCCO 線材を商品化してからからは、臨界電流特性の向上と同時に長尺における均一性、量産性、歩留りを著しく改善しており、日欧米・アジアにおける顧客からの信頼を得て、毎年出荷量を増やしており、年産 1,000 km/ 年も可能である。
  最近の DI-BSCCO 線材の 77 K における I c は短尺線材で 250 A 、長尺の量産線材でも 200 A に達しているが、酸化物フィラメント部分の J c としては 7 × 10 4 A/cm 2 程度でしかない。本誌 Vol. 20, No. 1 に掲載された物質・材料研究機構 (NIMS) 、鹿児島大学、九州大学との共同研究成果である Bi2223 薄膜の J c は T c が 105 K と低いにもかかわらず、 3 × 10 5 A/cm 2 に達しており、線材の約 5 倍のポテンシャルを持っている。
  また、九州大学・木須教授のグループでホール素子磁気顕微鏡システムによる電流分布評価からは、 Bi2223 のフィラメントにおいて電流輸送に寄与しているのは銀との界面近傍だけで、それ以外の大半の部分はほとんど寄与していないことが指摘されている。さらに東大・下山准教授の報告では、 Bi2223 の金属組成制御を進めると、 T c が 117.8 K まで上昇することが判っているが、 I c 向上と両立させる製造条件を見いだせておらず、化学的・冶金学的プロセスにおいて、まだまだ改善の余地が大きい素材といえる。
  最近の特性改善のトピックスでは、 Bi2223 のキャリアドープ状態の調整により、 77 K における I c は低下するが、低温磁場中での I c 特性は向上する ( 図 1) 低温磁界仕様の技術開発を進めており、商品化を計画している。 Bi 系超電導体は電気的磁気的異方性が大きいため、本質的に磁場下での臨界電流特性に優れない物質と言われるが、材料に合わせた製造条件の最適化は、 Bi2223 線材の超電導特性を改善する。特に Bi2223 線材における金属組成や酸素組成の調整は、 Bi2223 多結晶体の結晶粒間電流特性を改善し、超電導電流特性のさらなる向上を期待させる。
  一方、高磁場マグネットや大型ボアを要するマグネット応用では、線材の機械強度が重要になってくる。 DI-BSCCO 線材の場合、機械強度を補強する目的から、ステンレスなどの金属テープを半田付けする手法を使った、 TypeHT を商品化している。 77 K の引張強度のカタログ値は 270 MPa である。今回、補強材であるステンレステープのサプライ張力と厚みを増大させることにより、 77 K での引張強度 500 MPa 、引張歪み 0.5% を達成できる技術に目処を立てた ( 図 2) 。高強度仕様線材についても、近々商品化を計画している。
  以上高温超電導体が発見されて 25 年になるが、高温超電導線材として、工業製品と言えるレベルまで技術開発を進めることができた。超電導現象を利用した機器開発を進める多くの研究者に評価頂ければ幸いである。 ( マッキーとビスコ )

 

 

図 1  酸素組成調整した DI-BSCCO 線材 ( 幅 4 mm) の低温磁場下における臨界電流特性