SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No5,December, 2011


 

節電・携帯型の超小型高温超電導バルク磁石の開発

―手のひらサイズで消費電力 23 W の 3 T 級超電導磁石を実現!―

_ ( 株 ) 日立製作所 日立研究所_

 


 これまで高磁場を利用してナノサイズの磁性粒子や磁性細胞等を磁気誘導する磁石には、常電導、超電導ソレノイド磁石や超電導バルク磁石が用いられていた。しかし、ソレノイド磁石は大型で漏洩磁場が大きいため、広い設置スペースが必要であることや、消費電力が大きいため節電対策の観点から課題があった。また、従来の超電導バルク磁石は消費電力も 0.5 kW 程度で重量も 10 kg 程度に抑えられているが 、節電対策と操作性の向上の観点から、さらに消費電力が少なく、小型、軽量の超電導磁石の開発が望まれていた。
  このような背景から、 ( 株 ) 日立製作所日立研究所では、高磁場でありながら漏洩磁場空間が狭い超電導バルク磁石の磁場特性を利用した新着磁技術 ( 特許第 4512644 号 ) を開発した。
  図 1 に示す 新着磁技術は、 第一ステップとして、高磁場のソレノイド型超電導磁石 ( 磁石 A) で励磁用の冷凍機一体型高温超電導バルク磁石 ( 磁石 B) をフィールド・クール法にて着磁し、第二ステップとして、着磁された磁石 B の高磁場空間内にて、 別の 超小型冷凍機一体型超電導バルク磁石 ( 磁石 C) を着磁する技術である。
  さらに、日立研究所の持つ低温冷却・断熱技術を用いて、 低温磁石部への熱侵入量を大幅に低減することに成功した。これにより、低消費電力の超小型冷凍機が使用可能となり、手のひらサイズの 世界で最小、最軽量、最少消費電力の冷凍機一体型高温超電導バルク磁石が開発された。 

 

 

 

1.  冷凍機一体型の超小型高温超電導バルク磁石の小型化技術

 磁石 B をフィールド・クール法で着磁する際に、冷凍機の周囲磁場が約 100 mT より強いと冷凍機が運転できず、磁石 B を冷やすことができない。したがって、着磁の際に磁石 A の磁場中心に配置する磁石 B のバルク超電導体に対して、その冷凍機は漏洩磁場が十分下がる約 500 mm 以上離れた位置に設置する必要があり、これが磁石を小型化できない大きな要因であった。しかし、外部磁場空間が狭い磁石 B で磁石 C を着磁すれば、超電導バルク体と冷凍機をおよそ百数十 mm まで近づけられるため、磁石 C を大幅に短尺化することができる。この新技術により、高温超電導バルク体 (Gd-Ba-Cu-O 、直径 20 mm 、厚さ 20 mm) を内蔵した冷凍機一体型の磁石 C を、従来 ( 表 1 の従来型バルク磁石 ) サイズの約 10 分の 1 となる全長 235 mm 、幅 65 mm 、高さ 115 mm のサイズに小型化できた。また、重量も従来の約 5 分の 1 となる 1.8 kg の軽量化を達成し、磁石の移動操作性を大幅に向上させた。図 2 に試作された磁石 C の外観写真と概略構造を示す。磁石 B の磁界 4.9 T の常温ボア内で着磁した結果、磁石 C の室温部の真空容器表面での最大捕捉磁束密度は 3.15 T を実現した。また、同磁気特性時における磁石 C の磁気力による、千円札の吸引と、水道水の反磁性の特性で生じるモーゼ効果のデモ状況写真を図 3 に示す。

                        図 2   超小型超電導バルク磁石 ( 磁石 C ) の 外観写真 ( 左 ) および構造 ( 右 )              

 

 

 

                    

  図 3  磁石 C の真空容器表面における磁気力の可視化。 千円札の吸引 ( 左 ) とモーゼ効果 ( 右 )

 

2.  低消費電力化技術

 前項の小型・短尺化に加えて、超電導 MRI 等の極低温技術のノウハウにより 磁石部断熱支持構造の改善を図り、 温度 40 K 台 に冷却する極低温部への熱侵入量を 従来の約 10 分の 1 に低減した。その結果、 磁石 C のスターリング冷凍機の運転消費電力を従来の 20 分の 1 以下の 23 W に低減させて、大幅な低消費電力化が実現された。これにより、バッテリーを内蔵した機内持込み可能サイズの専用キャリーバッグを使用して、超電導保持状態での長距離輸送が可能になった。実際に小型乗用車により 180 km の輸送を行ったそうである。

 

3.  従来機との特性比較

 従来型の小型超電導バルク磁石 ( 従来機 ) と今回の開発機 ( 磁石 C) の特性比較が、表 1 に示されている。最大磁束密度では従来機に及ばないが、他の項目では開発機が優っている。定常消費電力 (W) と大気中で利用できる最大磁束密度 B air max (T) の比で評価すると、図 4 に示すように、開発機の 7.3 W/T に対し 74.6 W/T となり、開発機の省エネ性が優れている。開発者の ( 株 ) 日立製作所日立研究所の佐保典英主管研究員と松田和也企画員によると、「今回の開発機の実現で、 23 W のノート PC 並みの大幅に少ない消費電力で、いつでも、どこでも、誰でも、手軽に使用できる数テスラ級の高磁場超電導磁石を提供できる道を開くことができた。今回使用した高温超電導バルク体は、外径 20 mm の円盤状のものであるが、三角や半月状のバルク形状を適用することにより、任意の磁場形状を形成できる特徴は、他の電導コイル式磁石にはない特性であり、今後さまざまな分野での応用が期待できる。」とのことである。 ( エバーフラワー )

 

4  磁石の定常消費電力と大気中で利用できる最大磁束密度の比