SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No4, Ocobert, 2011


 

<会議報告>

2011European Conference on Applied Superconductivity

(Sept. 18-23, 2011 @ World Forum Den Haag ,The Hague,The Netherlands)

 


超伝導 100 周年を記念した EUCAS2011 は日本から 200 名を超える多数の参加があるなど大変盛況でした。以下には各分野の報告を掲載しますが、漏れている分野もありますことをお詫びいたします。 (SUPERCOM 事務局 )

 

SQUID 関連】

本学会での SQUID 関連の発表は 55 件 ( 口頭発表 26 件、ポスター発表 62 件 ) であった。オーラルセッションでは、立ち見のでる盛況ぶりであり、活発な議論が行われた。
  まず、口頭発表について紹介する。 IPHT の Shmeltz らは、接合部をサブマイクロメートルとしたクロスタイプジョセフソン接合について報告した。接合容量を低く抑えることが可能であり、 sub-fT/Hz 1/2 オーダーの低雑音を実現している。また、作製した SQUID は、動作中に 76 mT のパルス磁場印可した場合でも、安定して動作することが報告された。
  Chalmers Univ. Tech. の Chukharkin らは、多層構造のフラックストランスフォーマーについて報告した。化学機械研磨 (CMP) により、 YBCO 表面を平滑化し、上部電極の結晶性を改善することで、臨界電流密度を向上し 2 MA/cm 2 を実現した。 ISTEC の Tsukamoto らは、外部ピックアップコイルに接続可能な HTS インプットコイルをフリップチップ構成で SQUID グラジオメーターにマウントしたデバイスの報告を行った。さらに、デバイスは、プリント基板上に設置されており、はんだ付けによる外部ピックアップコイル接続が容易に可能である。ピックアップコイルを分離することにより、システム全体の対磁場性能を向上させることができる超低磁場 NMR/MRI や非破壊検査システムへの応用が期待される。 Weizmann Inst. Sci. の Finkler らは石英管を延伸させることで作製した微小断面に超電導材料を蒸着させ、作製した nanoSQUID について報告を行った。石英管の断面上に弱結合が自然に形成されるため、パターニングプロセスが不要である。 SQUID のサイズは 75-400 nm であり、 10 -7 T/Hz 1/2 を達成した。超低磁場 MRI では、 Los Alamos National Lab. の Matlashov ら、 Magnelind ら、および VTT Tech. Res. Ctr. Finland の Luomahaara らが MRI システムと脳磁計の同時計測についての報告を行った。また、 HITACHI Ltd. の Seki らは、光トポグラフィーのプローブを薄型化することで、脳磁計測と光トポグラフィー計測の同時計測を可能とした。
  ポスター発表では、 Toyohashi Univ. Tech. の Hatsukade らが、バイクリスタル基板上に作製した SQUID 素子の上に、 YBCO 薄膜 /STO 基板をフリップチップ構成でマウントしたデバイスについて報告した。これにより、接合への磁束の侵入し遮蔽することが可能となり、 1/f ノイズの低減に成功している。非破壊検査関連では、 Hitach Ltd. の Kandori らが、 2 次微分グラジオメーターを有する LTS-SQUID を用いた微小金属片検出について報告をした。大面積の検査に適応するために検出エリアの大きなピックアップコイルを用い、 100 m m の SUS304 の検出に成功した。また、 Toyohashi Univ. Tech. の Shinyama らおよび Kitamura らは、それぞれ HTS-SQUID グラジオメーターを用いたカーボンファイバー破断およびリチウムイオン電池内異物検査システムの提案を行った。 MRI/NMR 関連では、 Forschungszentrum Julich の Liu らは、永久磁石により磁場分極を用いた HTS-SQUID 低磁場 MRI 計測について報告した。液体窒素冷却した LC 共振型ピックアップコイルを用いることで 7-8 fT/Hz 1/2 の磁場感度を実現している。磁場分極をシール外で永久磁石により行い、その後、測定資料を素早く磁気シールド内のピックアップコイル部へ移動させる。これにより、通常のコイルによる磁場分極より信号雑音比を向上させている。 National Taiwan Normal Univ. の Horng らおよび Chieh らは、 HTS-SQUID と走査用コイルを組み合わせたシステムを用いた生体組織内の磁気ナノ粒子検出について報告を行った。
  本学会では、通常講演の他に、イブニングセッション ”Medical Application of Superconductivity” が行われ SQUID の医療応用に関する口頭発表、 5min ショートプレゼンテーション、およびパネルディスカッションが行われた。口頭発表では、超低磁場 MRI に関する講演が多く、今後の医療展開が期待されるものとなった。パネルディスカッションでは、特にこれまでに成功してきた脳磁計、心磁計を振り返るとともに医療分野への参入の難しさについて活発な議論が行われた。 ( 岡山大学 紀和利彦 )

 

 

【ケーブル技術】

 
高温超電導ケーブル関係の発表を、以下の通り、簡単に報告する。
  AMSC からは、米国で実施あるいは計画されている LIPA プロジェクト、 Hydra プロジェクト、ニューメキシコプロジェクト等の概要紹介があった。 Hydra プロジェクトは DHS ファンドで実施されており、 Southwire がパートナー。 2G ケーブルに FCL 機能を持たせているのが特徴であり、ケーブルの仕様は、 13.8 kV 、 96 MVA 、三相同軸の中空フォーマ型。 HV/MV の 2 つの変電所の MV 側を連係して信頼性を上げることが本プロジェクトの目的。ニューメキシコプロジェクトは Nexans がパートナーであり、 3 つの電力系統を DC 連係することが目的であるが、今回も詳細内容の発表はなかった。
  米国の LIPA-I プロジェクト (AMSC 、 Nexans) は 2008 年 4 月のスイッチオンから順調に運転を続けている ( 線材は 1G) 。次フェーズである LIPA-II プロジェクト向けの 2G 線材を用いた FCL 機能付きケーブルの設計・要素試験は終了、 10 m のプロトタイプケーブルのテストも終了した。なお、断熱管真空層はセグメント化し、局所的な穴が空いても修理可能な構造を指向している。
  ドイツで実施される Nexans の Essen プロジェクト (12 kV 、 2.3 kA 、 40 MVA 、 1 km 、三相同軸 ) が正式にスタート。 SFCL を併設することによって事故電流保護層が不要となるため、ケーブルフォーマは中空タイプとして液体窒素流路として使用する。 2013 年の運転開始を目指している。
  また、 Nexans からは、基礎検討として、 2G 線材を数 mm 径のフォーマに沿って曲げて丸線を作製し、ケーブル化するコンセプトについて発表があった。ケーブルのコンパクト化と高電流密度化が狙いである。垂直磁場を考慮した I c 計算や交流損失計算も実施しているが、実際にケーブルを作製するには、さらに基板を薄肉化した線材が必要と思われる。
  Ultera がオランダアムステルダムで計画しているプロジェクトは、実線路に総長 6 km の三心同軸型超電導ケーブルを導入するもの。現状は 150 kV 、 100 MVA の Gas Pressure Cable × 3 回線で構築されている線路において、 1 回線を 50 kV の超電導ケーブルで置き換える。 6 km ケーブルの冷却が課題であり、 FCL 機能付加による中空フォーマ採用で液体窒素圧力損失を低減したり、交流損失低減と断熱管侵入熱低減によって温度上昇を抑制したりといった検討が TUD(Delft University of Technology) と共同で実施されている。まだまだ基礎検討段階という印象であり、実際にリプレースするには超電導線のコストダウンが必須となるようである。
  ロシアでは単心 200 m × 3 本の 1G 超電導ケーブル (20 kV 、 1.5~2 kA) の実系統運転を予定している。このプロジェクトでは Stirling 社の冷凍機を採用しているが、並行して国産の冷凍機開発も実施している模様である。 65 K で 8 kW 、メンテナンス時間 3 万時間が目標。超電導モータを用いた循環ポンプも開発している。これらの冷却システムは、次期プロジェクトとなるペテルスブルグの DC 系統連係プロジェクトに採用される模様である。本プロジェクトは、 2 つの変電所を DC で連係するもので、仕様は 20 kV 、 50 MW 、 2.5 km 。 2014 年頃の竣工を目標としている。
  韓国は、 DAPAS プロジェクトの終了を受けてか、参加者は少ない印象を受けた。ケーブル関係の Oral 発表はなく、 Poster 発表 2 件のみであった。竣工が遅れていた GENII プロジェクト ( イチョン変電所、 500 m 、 22.9 kV 、 1.26 kA 、 SFCL 併設 ) は 8 月に運転を開始した。次期プロジェクトとしては、 2012~2015 年にかけてチェジュ島の「 DC80 kV 、 500 m 」と「 AC154 kV 、 1 km 」の 2 件が予定されている。
  日本からは、 Y 系国プロにおけるケーブル開発状況について、住友電工 (66 kV 、 5 kA 、三心一括 ) と古河電工 (275 kV 、 3 kA 、単心 ) が報告された。ケーブルの基礎技術開発は昨年度で終了し、後半 2 年は 15~30 m 長のケーブルシステムを構築して、長期信頼性を検証する予定とのことであった。中部大学が実施している 1G 直流ケーブルシステム (2 kA 、 200 m) は順調に運転されており、次期計画として、 2 km の直流ケーブルの建設が 2013~2014 年に予定されている。( 住友電工 大屋正義 )

 

 

Bi 系線材】

 まず、 Bi2223 超伝導材料の開発に関する研究発表は 8 件あった。中国・精華大の Xie らは Bi2223 多芯丸線材に対して二次焼成の前に中間圧延ではなく、中間延伸を導入することで丸線材の形状を保ったまま、臨界電流特性の向上を狙った。中間延伸を導入した線材では一つ一つのフィラメントの角が鋭くなり、そのような箇所では組織が緻密になっている様子が観察された。さらにシース材料の検討や焼成時間の最適化を行ったところ 77 K 、自己磁場中における J c ~8,000 A/cm 2 という今までの丸線材よりも高い値に達した。しかし、まだまだテープ線材と比較するとその値は低く、今後の Bi2223 丸線材の高特性化に期待が集まる。東大の小畑らは Bi2223 バルクに対して加圧焼成法を適用し、 93% という高密度化を達成した。また、磁場配向法により作製した c 軸配向バルクを無配向バルクと比較した結果、 c 軸配向バルクの方がポストアニールにより顕著に有効電流パスが増えることを報告した。
  日本国内と異なり超伝導マグネット用のコイルとしての応用を見据えた Bi2212 線材の研究発表も多数あった。米国立強磁場研究所の Jiang らは Bi2212 多芯丸線材において J c 低下の原因となる空隙を減少させるために溶融凝固の前に 2 GPa という高圧での CIP を導入した。 CIP の導入により粗大な空隙の形成が抑制され、 4.2 K 、 5 T における I c は約 2 倍の 400 A に達することを報告した。中国の非鉄金属研究所の Zhang らはディップコート法により得た Bi2212 厚膜の部分溶融条件による構成相や組織、臨界電流特性の変化について調べた結果を報告した。 Bi2212 の結晶粒を大きく成長させ、単一相にするためには適切な溶融温度があり、また Ag シースに沿って良好な配向組織を得るためには 5°C/h という徐冷速度が最適であることを示し、その結果 77 K 、自己磁場中において 5,000 A/cm 2 という J c を達成したことを報告した。但し、これは 1990 年代の Bi2212 厚膜の特性よりもかなり劣っている。
  また、 Bi 系超伝導材料の作製技術に関する発表ばかりでなく、製品化された線材の特性評価に関する研究報告も多数あった。 NIST の Cheggour らは OST 社製の Bi2212 多芯丸線材に圧縮、伸長を加えたときの I c の変化について評価した。 0.3% までの伸長に対しては I c の可逆性が見られ、超伝導マグネット用コイルとして十分期待できる値であることを示した。しかし、圧縮に関しては可逆性が見られず、圧縮により空隙の多い部分が座屈し、電流パスがなくなることが原因として報告していた。その他にもダラム大学の Sunwung らは住友電工社製の DI-BSCCO テープ線材において低磁場と強磁場下で J c - B 特性の挙動が異なることに注目して、それぞれの磁場下での磁場強度だけでなく磁場角度、温度および機械的な負荷に対する J c の変化を数式化した。 ( 東京大学 小畑圭亮 )

 

 

RE123 バルク】

 ブルネル大の Hari. Babu らは、従来の TSMG(Top Seeded Melt Growth) ではなく SIG(Seeded Infiltration Growth) による結晶育成により RE211 の平均粒径が小さく、内部にボイドが少ない、高特性のバルクを作製可能であると発表した。また、 RE2411 を添加することで、 RE211 と比べてより微細なピンニングセンターを導入可能で J c 改善に有効であるとのことであった。
  新日鐵の手嶋らは、近年の同社におけるバルク開発の進展状況を報告した。空気中で結晶育成した Gd123 バルクにおいて 46 mm f の試料で 10 T の強磁場を捕捉可能で、さらにバルクが破壊されることはなかったと報告し、 RE の濃度に勾配をつけることで 150 mm f という大型のバルクを作製可能であるとも述べた。また、小型 NMR への応用のために Eu123 バルクの作製を行っているとのことであった。
  チェコ科学アカデミーの Jirsa らは、 NEG(Nd, Eu, Gd)123 バルクに微量の Nb 2 O 5 や MoO 3 を添加することで主に中磁場付近までの J c 改善が可能であると述べた。この効果は特に 65 K 程度の温度までで有効であり改善効果は Nb 2 O 5 の方が大きいと報告した。
  東大の杵村らは低圧純酸素雰囲気で Y123 バルクを作製することで超伝導特性と機械的強度の両方の改善を試みた。その結果、バルク内部のボイドの生成抑制に成功し RE の Ba サイトへの置換抑制により J c 改善も達成されたと報告した。
  マドリッド工科大の Konstantopoulou らは TSMG および Bridgman method により作製したバルクの機械的強度を三点曲げ試験や Vickers 硬さ試験により評価した。 TSMG により作製したバルクは種結晶から動径方向に成長した領域と直下方向に成長した領域では、結晶構造の異方性に起因した微細組織の違いから機械的強度の温度依存性などが違うこと、 Bridgman method により作製したバルクではそのような傾向が見られないことを発表した。
  岩手大の藤代らはパルス着磁を行ったときのバルクに捕捉される磁場分布のシミュレーションをこれまでの 2 次元から 3 次元へと拡張させた。そして、 3 次元におけるシミュレーションでも実験結果を忠実に再現できることを示した。 ( 東京大学 杵村陽平 )

 

 

MgB 2

本学会での MgB 2 関連の発表は 62 件 ( 口頭発表 18 件、ポスター発表 44 件 ) あり、その多くは線材開発に向けた基礎的な研究報告であった。
  IFW-Dresden の M. Herrmann らは、原料粉末に施す前処理が、 in-situ 法 MgB 2 多結晶体の臨界電流特性におよぼす効果について報告した。 Mechanical alloying は熱処理時間の短縮と緻密化に、 C 添加は磁場中の J c 改善に、不純物の除去はコネクティビティの改善に、それぞれ効果的であることを示した。グラファイト微粉末を 3.5 wt% 添加した試料は、 4.2 K 、 9 T の J c が 1.7 × 10 4 A/cm 2 となることを報告した。ポーランド科学アカデミー高圧研究所の T. Cetner らは、 HIP によって最大 1 GPa の圧力を印加して in-situ PIT 法 MgB 2 線材を作製した。高圧下では Mg の融点が上昇するため、常圧下の融点である 650°C よりも高温で熱処理する際にも固相反応によって MgB 2 が生成し、粒径の小さい MgB 2 が得られることから、臨界電流特性が改善すること報告した。また、大型コイル開発に向け、 2.5 t の静水圧を印加しながら熱処理できる装置を開発中であることを報告した。ジュネーヴ大の R. Flukiger 、 C. Senatore らは、 4 方から高圧プレスすることで緻密化を図った in-situ 法 MgB 2 角線について報告した。 1.5 GPa 印加して作製した 18 芯線材は、充填率が 69% に改善し、 J c (4.2 K, 5 T) が 10 5 A/cm 2 を上回ることを示した。核融合科学研究所の Y. Hishinuma らは、 Cu 添加 MgB 2 多芯線材の超伝導特性と微細組織について報告した。原料として使用した B 粉末の粒径が J c に大きく影響しており、 B 粉末の微細化が必要であることを示した。 Columbus の G. Grasso らは、同社における MgB 2 線材の開発状況について報告した。高臨界電流特性線材の作製を目指すだけでなく、作製コストの低減や歩留まりの改善に関しても注力していることを紹介した。また、同社の線材の応用先が実験用マグネットや医療用 MRI 、限流器、工業炉などに拡大していることも報告した。東大の A. Yamamoto 、鉄道総研の M. Tomita らは、 MgB 2 超伝導バルク磁石の開発について報告した。直径 30 mm 、厚さ 20 mm の円柱形バルクを作製し、 17.5 K において 3 T の捕捉磁場を記録したことを報告した。 CNR SPIN の G. Romano らは、微細 B 粉末の作製方法について報告した。 B 2 O 3 と炭素源を熱水に溶解した後に冷却し、フリーズドライによって水を除去し、 Mg と反応することで MgO と B 微粉末を得た。 MgO を塩酸に溶解後、濾過、洗浄、乾燥を経て、アモルファス B 微粉末を分離した。( 東京大学 田中裕也 )

 

Fe 系線材】

 鉄系超伝導体の線材開発をめぐっては、中国と日本が鎬を削っており、本会議では 1111 系、 122 系、 11 系という 3 種類の鉄系超伝導線材の報告がなされていた。鉄系超伝導線材の開発は発展途上であり、今後も更なる進展が期待される。
  中国では Chinese Academy of Sciences の Y. Ma グループが Powder-in-tube(PIT) 法を用いて SmFeAsO 0.7 F 0.3 - d 線材を作製し、 J c ~1300 A/cm 2 を観測したことをはじめ、 Pb 添加 Sr 0.6 K 0.4 Fe 2 As 2 線材において、 J c ~3750 A/cm 2 ( I c ~37.5 A) に達したことを報告した。また、シースの材料としては Ag が最もよく、高い J c を得るためには Ag や Pb の添加物が有効であるとした。さらに、現在の問題点として、結晶粒界に加え、結晶粒界に存在する不純物を挙げた。最後に、詳細に関しては明かさなかったが、最近 122 系において、 I c > 100 A の鉄系超伝導線材の作製に成功したと報告した。日本では、 NIMS の尾崎らが拡散法を用いることで FeSe 線材を作製し、 7 芯線において J c ‘ >1000 A/cm 2 に達したと報告した。この方法 (Fe 拡散 PIT 法 ) は Fe シースに Se 粉末を詰め、熱処理することで Fe シースから Fe を拡散させ、 Se と反応させることで FeSe 線材を作製する方法である。また、この方法で作製した FeSe 線材は T c zero ~10.5 K を示し、 FeSe バルク ( T c zero ~8 K) よりも約 2 K 高い値を示した。首都大の水口らは FeSe の相変態を用いたユニークな方法で FeSe 線材を作製した。 FeSe はヘキサゴナルからテトラゴナルに相変態する際、体積が約 1.2 倍になる。このことを利用して、まずヘキサゴナルの FeSe バルクを作製し、その粉末を鉄シースに詰め、熱処理によりテトラゴナルに相変態させることで充填率を上げ、 3 芯線において、 J c ~600 A/cm 2 を示したと報告した。 (NIMS 尾崎壽紀 )

 

 

Fe 系超伝導体】 ( 線材以外 )

 鉄系超伝導体関連の発表のうち、薄膜及び基礎物性関連のものについて報告する。試料作製技術には着実な進歩が見られ、高品質な薄膜の作製手法およびそれを用いた角度依存性の検討、多結晶体における粒間電流の制限機構といった応用を念頭においた基礎的な特性の評価がかなり進んでいる印象を受けた。特に薄膜に関しての発表件数が多く、口頭発表も 2 件の招待講演を含め計 10 件の報告があった。以下それらについて報告する。
  名大の川口らは MBE 法による NdFeAs(O,F) 及び BaFe 2 (As,P) 2 薄膜の作製について同グループでこれまで得られた知見をまとめた。 Ga によるフッ素量の制御、 NdOF 膜を超伝導相の上に形成することによる F ドープといったこれまでの結果に加え、超伝導膜作製後に FeF 3 による F アニールを行うことで NdOF を形成せずに F ドープが可能なことを報告した。 IFW の Haindl らは PLD 法により LaFeAs(O,F) を作製しその異方性について評価し、その温度依存性にマルチバンドに由来する挙動がみられたとのことであった。ジェノバ大の Ferdeghini らは PLD 法による Fe(Se,Te) について T c がバルクよりも高い 21 K の薄膜が得られたことを報告した。基板による面内圧縮が高い T c を示す原因であるとのことである。 Oxford 大の Speller らは RF スパッタリングによる Fe(Se,Te) 薄膜の作製の現状について触れ、現在のところ良好な膜が得られてないと報告した。広島大の Mele らは FeSe 1- x および Fe(Se,Te) 薄膜について報告した。米国立強磁場研の Tarantini らは Ba(Fe,Co) 2 As 2 について強い c 軸相関ピンの特性および Ba-Fe-O の人工ピンの可能性について触れた。続く IFW の Hanisch らからも Ba(Fe,Co) 2 As 2 のピン特性に関する報告があった。用いる基板に依存して生成相の組織および J c の角度依存性に違いが見られたとの事である。翌日の招待講演にて IFW の飯田氏らは同グループにおける PLD 法薄膜作製に関して報告した。基板からの酸素の混入による特性劣化を防ぐための Fe 中間層の形成が、良好な薄膜を得るうえで有効とのことであった。今後は Fe 中間層技術を用いて様々な鉄系超伝導体薄膜の作製を行うとのことである。東工大の平松らはチルト基板上に作製した Ba(Fe,Co) 2 As 2 による鉄系超伝導体の粒界特性評価および希土類ドープ BaFe 2 As 2 の最新の結果について報告した。熱力学的に非平衡の PLD 法を用いることで、 122 相への RE ドープに成功したとのことであった。続いてケンブリッジ大の Durrell らからも粒界特性についての報告があり、銅酸化物と同様の弱結合の振る舞いが見られたとのことであった。ウィーン大の Eisterer らは鉄系超伝導体に対する中性子線照射効果について報告した。招待講演でジェノバ大の Putti らは現在までにわかっている鉄系超伝導体の特性について従来の超伝導体と比較しつつまとめた上で、多結晶体 SmFeAs(O,F) が粉砕再焼結や HIP の導入により、 Fe(Se,Te) では溶融およびアニールにより粒間 J c が大きく改善することを報告した。その他鉄系の物性についての報告も数件あり、 Neel Institute の Toulemonde らは等原子価置換の効果について報告した。続いて東工大の半那らは RE FeAsO ( RE = Ce,Sm) に対する H - 置換による電子相図の研究成果について、 F 置換と比べて広い固溶域を持つこと、およびそれにより電子オーバードープの領域が見られたことを報告した。
  鉄系超伝導体に関連したポスター発表は 30 件ほどあり、 IFW の Thersleff 氏らは同グループで用いている Fe 中間層を用いた場合、及び Fe 中間膜が存在しない場合における酸化物基板上に作成した Ba(Fe,Co) 2 As 2 の比較を行い、 Fe 中間膜により基板酸素に由来する積層欠陥が抑制されるために Fe 中間膜が高品質薄膜の作製に有効であるということを明らかにした。 (Ba,K)Fe 2 As 2 の相中 K の分布を Atom Probe Tomography により調査した。ドープされた K が不均一に存在していることのことである。東大の清水らは高圧合成法を用いた FeP 系の新物質に関して報告した。東工大の松石らは、 CaFeAsF 系への H ドープに関して報告し、合成後に H を除去することにより電子ドープが可能で、 29 K の T c を達成したとのことであった。全体的としては、こちらも薄膜の作製および薄膜を用いた鉄系の物性、ピン特性に関する報告が多く見られた。( 東京大学 町田健次 )