SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No4, Ocobert, 2011


 

暴れ馬に磁束フロー:高温超伝導誘導同期回転機における起磁力依存非線形抵抗を

利用した自律安定制御性の実証!

_京都大学、 ( 株 ) イムラ材料開発研究所、アイシン精機 ( 株 ) _

 


京都大学の中村武恒准教授をリーダーとする産学グループは、輸送機器応用を目指した高温超伝導誘導同期回転機システムの研究開発を実施している。本回転機は、かご形誘導機と同様の基本構造を有しているものの、高温超伝導線材の磁束フロー特性を利用することによって、次のような新機能が得られることが実証されてきた。
 (1) 同期ならびにすべり回転の両立性 [1]
 (2) 過負荷に対するロバスト性ならびに過負荷耐量の概念の成立性 [2]
  さらに、 NEDO の委託のもと、ビスマス系高温超伝導レーストラックダブルパンケーキコイルを毎極毎相巻線とする固定子を完成し、全超伝導機として初となる 1000 rpm を超える回転試験にも成功しており [3] 、研究開発は着実に進んでいる。
  一般に、従来のかご形誘導機では、 2 次巻線抵抗が小さくなると巻線インダクタンスとの関係で決まる時定数が長くなることに伴って不安定系となり、制御不可能になるという問題がある。従って、高温超伝導誘導同期回転機においても、もし 2 次巻線抵抗が Ohm の法則に従う一定抵抗ならば同様の問題が発生し、本質的にシステムが成立しないという危惧があった。それに対し、産学グループでは、当初より高温超伝導線材の磁束フロー特性を利用した起磁力依存非線形抵抗によって回転安定性が保証されること ( 自律安定性 ) を電圧方程式と力学方程式に基づいて示しており [4], [5] 、特許出願も完了している [6] 。そこで、今回 20 kW 級試作機を利用して上記理論予測の実証試験を実施した。図には、開発した試作機の外観写真を示す。本試験システムによって、通常の輸送機器の運転条件では想定されないが敢えて無負荷状態において、 120 Hz ( 同期回転数 1800 rpm ;直径 600 mm f のタイヤを考えた場合に時速 204 km/h に相当 ) まで 1 s の加速指令にて励磁したところ、約 3 s 後に同期回転に達し、つまり上記自律安定性の明確な実証に成功した。さらに、ゼロ速発進特性を想定し、要求負荷 50 Nm 程度における発進特性についても、加速時間 3 s 程度以下で 300 rpm ( 時速 34 km/h に相当 ) に到達することを確認することに成功し、 2011 年度秋季低温工学・超電導学会にて報告予定である [7] 。このことは、高温超伝導誘導同期回転機における 2 次巻線抵抗の起磁力依存非線形抵抗を巧みに利用することによって、同回転機の車載応用への適用可能性を改めて示唆する極めて重要な成果と位置付けられる。産学グループでは、現在上記非線形抵抗を導入した空間ベクトル法他による可変速制御法の開発を行っている。
  中村准教授によると、「本超伝導機は、高温超伝導線材のゼロ抵抗特性や高磁界発生特性だけでなく、熱力学的に超伝導状態でありながらも損失を発生する磁束フロー特性をも巧みに利用している点で独創的であると考えている。開発当初より、本回転機の可変速に対する回転安定性やゼロ速発進特性に関して疑問がもたれており、それに対して理論解析結果に基づいて回答してきたが、今回 20 kW 級機で我々の理論が実験的にも証明され安堵している。今後は、超伝導線材の上記ユニークな特性を積極的に利用し、新しい制御法の確立に邁進していきたい」と述べている。(京大 TN )

 

参考文献

[1] T. Nakamura et al .: Superconductor Science and Technology, vol. 20 (2007) pp. 911-918
[2] 中村武恒 他 : 2011 年度春季低温工学・超電導学会 , 2A-a06 (2011)
[3] D. Sekiguchi et al .: International Conference on Magnet Technology, 2EP6-2 (2011)
[4] 北野紘生 他 : 2011 年電気学会全国大会 , 5-115 (2011)
[5] 中村武恒 他 : 2011 年度春季低温工学・超電導学会 , 2A-a07 (2011)
[6] 中村武恒 , 伊藤佳孝 : 特願 2011-190510
[7] 北野紘生 他 : 2011 年度秋季低温工学・超電導学会 , 1C-p03 (2011) 予稿受理

 

 

 

図、 20 kW 級高温超伝導誘導同期回転機の外観写真