SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No4, Ocobert, 2011


 

Gd-Ba-Cu-O 内挿コイル超伝導マグネット世界記録を更新、 24 T 磁場発生に成功!

_ 物材機構、 JASTEC 、理研、千葉大、 JEOL RESONANCE _

 


 RE 系酸化物高温超伝導 (HTS) 線材で製作したコイルを組込んだ超伝導マグネットは、既に実用を目指した研究・開発の段階にある。物材機構、 JASTEC 、理研、千葉大、 JEOL RESONANCE の研究チームが、 Gd-Ba-Cu-O (GdBCO) コイル ( 図 1) を組み込んだ超伝導マグネットで、 24.0 T の磁場発生に 4.2 K の液体ヘリウム温度で成功し、超伝導マグネット単独による最高磁場を更新した。
  これまでの最高磁場は、 Bruker BioSpin 社の 1 GHz NMR マグネットが 2.2 K 以下の超流動ヘリウム温度で発生する 23.5 T であった。今回の成果は、 ( 独 ) 科学技術振興機構の研究成果展開事業「戦略的イノベーション創出推進プログラム」 (S- イノベ ) 研究課題名「高温超伝導材料を利用した次世代 NMR 技術の開発」において遂行中の、高温超伝導材料を超伝導マグネットおよび NMR プローブに応用した、次世代高温超伝導 NMR システム開発の過程で達成したものである。本研究は、 NMR マグネットを HTS 線材で製作してコンパクトにすることで、従来の低温超伝導 (LTS) 線材 NMR マグネットと同じ設置空間 ( 実験室等 ) に、より強磁場の NMR システムを導入することが目標である。マグネットをコンパクトにするためには、線材の臨界電流密度と耐電磁力特性の向上が求められる。このような要求に応えることのできる線材のひとつとして、 RE-Ba-Cu-O (REBCO) 線材が挙げられる。また、 HTS 材料による検出コイルを組み込んだ低温プローブの開発も行なわれており、 HTS 材料を用いて、マグネットをコンパクトにし、プローブ性能を向上させ、利便性と性能の両立を図ることが目標とされている。現在、 600 MHz (14 T) HTS NMR システムの開発が計画されている。 REBCO NMR マグネット開発のためには、 REBCO 線材によるレイヤー巻コイル製作技術の確立が必要であった。 REBCO 線材のようなテープ形状の線材の場合、パンケーキ巻でコイルが製作されるのが通常であるが、 NMR マグネットでは、製作精度とコイル断面当りの電流密度が高い、レイヤー巻によるコイル製作が不可欠である。これまで REBCO 線材でテストコイルを製作し、磁場中での耐電磁力特性を評価し、コイル製作技術研究が行われてきた。また、 REBCO 線材において問題となっている、含浸剤による線材の剥離については、含浸材にワックス ( パラフィン ) を用いるか含浸を行わない方が、冷却や電磁力により剥離が起こらないとの結論が研究チームより報告されている。レイヤー巻コイル製作技術研究結果をもとに、実機サイズの内外径を持つコイルが製作された。コイルは、株式会社フジクラ製 GdBCO 線材 ( 絶縁あり 5.10 mm × 0.25 mm 、 100 m m 厚 HASTELLOY R 基板 ) を用いた、内径 50.27 mm 、外径 112.80 mm 、コイル長 88.33 mm 、 124 層 ( 第 90 層で線材を接続 ) の形状のものである。この GdBCO コイルはワックスによる含浸が施された。 GdBCO コイルは、 Nb 3 Sn と Nb-Ti からなる 17.2 T 超伝導コイルに内挿され、耐電磁力特性が評価された ( 図 2) 。 4.2 K の液体ヘリウム温度で、 Nb 3 Sn と Nb-Ti からなる LTS 超伝導コイルを励磁した後、 GdBCO コイルが単独で励磁された ( 図 3) 。 GdBCO コイルは、 0.1 m V/cm の電圧基準以内で、 321 A までの通電に成功した。 321 A まで通電したとき、マグネット中心磁場が 24.07 T に到達したことがホール素子による測定で確認された。また、コイルパラメータより計算した中心磁場は 24.03 T となり、 GdBCO 、 Nb 3 Sn 、 Nb-Ti コイルからなる超伝導マグネットが、マグネット中心において 24.0 T の磁場を発生することに成功したと結論された。 REBCO 線材は、テープ形状で極めて配向性の高い超伝導層を持つため、臨界電流が線材に対する磁場の角度に大きく依存する。 GdBCO コイルの通電電流 321 A のときの負荷率は 0.74 と見積もられた ( 図 4) 。負荷率が決定されるコイル内の位置で、磁場の大きさは 19.23 T であり、その角度は磁場がテープ線材面内にある場合を 0° としたとき 8.95° であった。 321 A までの通電電流に対し見積もられた負荷率が、破線の負荷曲線で示されている。ただし負荷率が決定されるコイル内の位置は、常に同じとはならない。通電電流 321 A のときのコイル断面あたりの電流密度は 233.6 A/mm 2 であり、最大のフープ応力 ( 磁束密度×線材あたりの電流密度×コイル半径 ) は 408 MPa と見積もられた。研究チームの物材機構・松本真治主任研究員によると、「 GdBCO コイルが 400 MPa を超える耐電磁力特性を示した結果は、現在進められている 600 MHz HTS NMR マグネットの実現に向けて、重要な結果である。また、実機サイズのコイル内外径を持つGdBCO コイルを含む超伝導マグネットが、 4.2 K の液体ヘリウム温度で 24 T の磁場発生に成功したことは、これまで 20 T を超える超伝導マグネットが 2.2 K 以下の超流動ヘリウム中で運転されてきたことを考えると、今後の強磁場超伝導マグネット開発にとって、マグネット運用面での負荷軽減が期待できる重要な結果である。しかしながら、 RE 系線材を用いたコイルを実用化するためには、いくつかの課題があり、その中で最も重要なものは、クエンチによるコイルの劣化である。 RE 系コイルを実用化するには、クエンチ保護の方法、あるいはコイルをクエンチさせない方法を確立する必要がある。」とのことである。 ( 磁界系 Greeed)

 

 

図 1  試験後取り出された磁化した GdBCO 内挿コイル

 

 

図 2 GdBCO 内挿コイル +17.2 T 超伝導マグネット (Nb 3 Sn 、 Nb-Ti)

 

図 3 24 T の磁場発生. 17.2 T 超伝導マグネット (Nb 3 Sn 、 Nb-Ti) を励磁した後、

GdBCO 内挿コイルを単独で励磁し 24 T に到達

 

 

 

図 4  通電電流 321 A の場合の負荷率.通電電流によって負荷率が決まるコイル内の位置は異なる.

通電電流に対する負荷曲線を破線で示す