SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No3, August, 2011


 

日本初の実系統高温超電導ケーブル試験、準備着々

 


 スーパーコム事務局は、本誌 2010 年 8 月号に NEDO 高温超電導ケーブル実証プロジェクト ( 東京電力−住友電工−前川製作所 ) の本舞台となる東京電力旭変電所の取材記事を掲載した。そしてこの 7 月 13 日に東京電力、住友電工のご協力によってふたたび現地を取材することができたので、以下に現況を紹介する。なお、実系統への接続は今秋の当初予定より遅れて来年になるとのことである。
  このプロジェクトでのケーブルは全長約 230 m の 3 心一括型で、表面に防食層を持つ断熱管内に 3 本のケーブルコアが収められている。超電導線材は住友電工社製の DI-BSCCOR (Bi2223 線材 ) で、その HT( 高 I c タイプ ) 線材が導体層の内側から 2 層とシールド層に、 ACT( 低交流損失タイプ ) 線材が導体層の 3, 4 層目に使われ、ケーブルコアの大容量化と低損失化を両立している。
  図 1 にこの実証試験用地内の配置図を再掲した。昨夏、此処を訪れたときには、実証試験予定地はほぼ更地で、一部建物の基礎工事が始まった状態であったが、今回は、既に予定された建屋は全てできており、オレンジ色の管路が敷地内を巡り、 2 台の終端接続容器が設置されているなど様子が一変し、実証試験設備の準備が順調に進んでいることがよくわかった。管路内への 2 本のケーブル布設は 6 月 7 日と 9 日に行われたとのことで、その時の写真を図 2 に示した。管路は半径 5 m の折り返し曲がりを有する等、やや複雑なレイアウトであるが、ウインチ引きに加えてボールローラーを用いる等、一般ケーブル布設と同様の工法でケーブル布設が行われた。

 

図 1.  実証試験用地内の配置予定図 ( 東京電力提供 , SUPERCOM2010 年 8 月号の再掲 )

 

 さて、訪問した日は梅雨明け直後の暑い日で、ケーブル関係では中間接続部における超電導−超電導接続作業や終端接続部における超電導−常電導接続作業が白いテントの中で行われていた。なお、布設されたケーブルは、中間接続部および終端接続部にて現地で切断され、長さ調整を行う工法が採用され、現場での断熱管封止および真空引きという、将来の長距離送電システムを意識した技術の確立が図られている。
  一方、冷却システムの設置は完了しており、 1 kW のスターリング型冷凍機 6 台が図 1 の冷却システム建屋に配置されていた。当日は、冷却システム単体試験として液体窒素循環、温度制御の試験が行われていた。なお、冷凍機の台数は、ケーブルシステムの最大予想負荷ならびに冷凍機を順次保守点検することを考慮して決定されており、冷却システムの長期運転を検証できる構成になっている。
  ところで、大地震が起きた 3 月 11 日には既に 2 台の終端接続容器が設置されていたが、コンクリートベースに固定されていたこともあり、全く損傷がなかった。また、システム全体として、今日に至るまでの余震による影響は特にないとのことである。

図 2.  管路へのケーブル敷設の様子 ( 住友電工提供 )

 

 以上のように旭変電所でのケーブル布設およびケーブルシステムの組み立て工事、冷却システムの設置および試運転は順調に進んでいる。実系統接続の時期は遅れるものの、それまでの間の多くの試験データの蓄積は、今後のケーブル設計における重要な知見となり、超電導ケーブルシステムの信頼性向上に寄与するであろう。また、超電導 101 年目に運転開始というのも、新しい 1 世紀の超伝導応用のスタートを象徴するイベント、と考えることができるのではないだろうか。 ( SUPERCOM 事務局)