SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No3, August, 2011


 

電子線ホログラフィーによるピン止め現象の可視化写真が属学会組織写真賞の最優秀賞に

_東北大、理研、 OIST 、新日鉄、日立_

 


 東北大学多元物質科学研究所、沖縄科学技術研究基盤整備機構 ( OIST ) 、理化学研究所、新日鉄先端技術研究所、日立基礎研究所のグループは、集束イオンビーム装置 ( FIB ) の走査イオン顕微鏡機能 ( SIM ) による組織観察と電子線ホログラフィー技術による磁束量子の追跡を組み合わせることで、一本の磁束量子が常伝導相の粒子に対応した形でピン止めされている様子を可視化することに初めて成功した。
  従来、超伝導材料の組織観察とローレンツ顕微鏡法や電子線ホログラフィーによる磁束量子の観察は独立に行われていたが、 材料組織と一対一に対応させて直接的に磁束量子のピン止め現象を観察した例はなかった。その画期的な成果と写真の美しさから、ピン止め現象可視化の写真は、第 61 回 ( 2011 年 ) 日本金属学会/金属組織写真賞の透過電子顕微鏡部門で最優秀賞を受賞した。 観察に用いられた試料は、溶融法で作製された YBa 2 Cu 3 O y 系バルク材料である。単結晶状のバルク材料は、内部に微細な Y 2 BaCuO 5 常伝導相を分散させることで、それらが磁束のピン止め点として働いて高い臨界電流密度を示すことが知られているが、今回の成果はそれを視覚的にも実証したものと言える。 試料作製法および観察手順は、以下のとおりである。溶融法(改良型 QMG 法)で作製された YBa 2 Cu 3 O y 系バルク材から 2 m m × 2 m m × 20 m m ほどの角状の試料片を FIB で切り出し、それを FIB-CVD ( FIB による化学気相成長)法によるタングステン膜で Cu 切欠メッシュに固定したものを TEM 試料とした。 TEM はヘリウム冷却ホルダと磁場印加装置を備えた HF3300X を使用した。 TEM 内の試料に対して T c 以上で 0.01 T の外部磁場を印加したままで 12 K まで冷却し、その後、 (a) 外部磁場下、および (b) 「残留磁場状態」の試料周りの磁場分布を昇温しながらホログラフィーで検出した。その後、同じ試料を FIB で SIM 観察し、磁束分布と材料組織の対応を調べた。
  最優秀賞を受賞した写真の 1 つを図 1 に示す。図 1(b) は、「残留磁場状態」で得られた位相再生像 ( 13 K 、 FIB ダメージ層の帯電による位相変化は除去済、位相増幅: 2 倍 ) に、位相再生像と同じアングルで撮影された SIM 像を合成したものである。位相再生像中の試料を貫いた黒い線状コントラストは、そのまま磁束量子に対応するものとみなすことができる。図 1(a) と (c) は、試料の側面を 52° の角度から撮影した SIM 像である。 SIM 像では、ピン止め点として導入された常伝導相の Y 2 BaCuO 5 粒子が暗いコントラストになり、明確に識別できる。 SIM 像と位相再生像を比較することで、一本の磁束量子が常伝導相の粒子に対応した形でピン止めされている様子が初めて可視化された。
  ピン止め現象の可視化に関する研究において中心的役割を果たした東北大多元研の赤瀬善太郎助教によると、「厚さ 5 m m 程度の試料でも電子線ホログラフィー像を撮影し、側壁面の SIM 観察像を比較することを試みたが、何らかの相関は見られるものの、試料が厚過ぎたため一対一の対応付けをすることはできなかった。そこで、試料を 2 m m 程度まで薄くして再度電子線ホログラフィー観察を行ったが、今度は 5 m m 厚の試料に比べ、ピン止めされる磁場が弱くなり、位相再生時にバックグラウンドの影響が強くなり、明瞭なホログラフィー像が得られないという問題が生じた。そこで、位相再生の際に、バックグランドを差し引いて評価したところ、ピン止め現象を示す不均一な磁場分布を観察するのに成功した。」とのことである。
  実用化の期待が大きい RE 系高温超伝導バルク材料におけるピン止めの様子を材料組織と対応させて観察し、材料組織と超伝導特性の関係をより明らかにすることができれば、材料特性の一層の向上に貢献するものと期待したい。  ( 森のクマさん? )

 

 

図 1.  電子線ホログラフィーによる高温超伝導材料の磁束ピン止めの可視化