SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No3, August, 2011


 

高温超伝導バルク磁石を駆使して世界初の MRI 画像を撮影 _理研、筑波大、 MRTe 社_

 


   病院の診断などに使われるMRIでは、強磁場均一空間を発生させる磁石が必要となる。また、タンパク質の構造解析などで威力を発揮する核磁気共鳴装置(NMR)では、さらに百倍以上に均一な強磁場空間が必要となる。このため、従来のMRI/NMRの磁石には、低温超伝導体でできた細線をコイルに巻き、液体ヘリウムで4.2 Kまで冷却した超伝導電磁石を用いる必要があった。そのため、どうしても装置が大型化してしまい、有用なMRIやNMR技術の適用範囲を限定的なものにしていた。
 これまで理化学研究所ケミカルバイオロジー研究基盤施設 物質構造解析チームの仲村高志専任技師は、従来の NMR 開発とは一線を画し、高温超伝導バルク体の「コンパクトな強磁場源」という応用的特長を活かし、無冷媒・小型・軽量・モバイルといった他に例のない特徴を持ち、医療現場や工場ラインでのその場測定を可能とするハイスループット小型 NMR の実現を目指して研究開発を行ってきた (SUPERCOM 、 2006 年 2 月号 ) 。 RE 系高温超伝導バルク体で最も開発の進んでいる Gd-Ba-Cu-O の場合、磁化させるときに与える均一な静磁場を乱してしまうという課題があるため、 NMR や MRI の実用化に必要な非常に均一な磁場の実現が困難だったが、仲村専任技師は、低透磁率かつ高捕捉磁場特性が両立する Eu-Ba-Cu-O (EuBCO) に着目し、シムコイルによる補正のない状態のバルク磁石のみで 0.5 ppm (ppm は百万分の 1) という非常にシャープな NMR 信号を観測することに成功していた [ 低温工学  Vol. 46, No. 3 (2011) pp.139-148] 。

 

図1 バルク磁石概略図

 

図2 高温超伝導バルク磁石内部の可視化した磁場分布

 

 今回、この EuBCO を利用してさらに均一な磁場を得るために、 MRI 技術を用いて磁石内部の磁場分布を可視化し、実際に高温超伝導バルク磁石を用いた MRI システムの構築に挑んだ。バルク MRI の開発に当たっては、理研だけでなく、高い MRI 技術力を有する筑波大学数理物質科学研究科 電子・物理工学専攻の MRI 研究グループの巨瀬勝美教授および株式会社エム・アール・テクノロジー (MRTe 社:つくば市 ) の拝師智之代表取締役との 3 者共同で行った。研究グループは、まずドーナツ型の EuBCO ( 外径 60 mm 、内径 28 mm 、厚さ 20 mm) ( 図 1 上 ) を 6 層に積層した。これを、均一な NMR 用の超伝導磁石 ( 静磁場強度 4.7 T) の磁場空間内に静置し、冷凍機を用いて 50 K まで冷却して磁化させる静磁場着磁法 により、高温超伝導バルク磁石を作製した。また、筑波大学の MRI 研究グループと MRTe 社の協力のもと、直径 10 mm の NMR 試料管用の勾配磁場プローブ を開発し、磁場空間内の磁場分布を可視化する磁場均一評価システムを開発した。作製した高温超伝導バルク磁石をこの磁場均一評価システムで可視化したところ、磁石内部の直径 6.2 mm 、長さ 9.1 mm の空間で、ばらつきが± 10 ppm の範囲内に収まる均一な静磁場空間ができていことを確認した ( 図 2) 。これは、 MRI への適用に十分な均一磁場であり、 EuBCO が世界で初めての MRI 用高温超伝導バルク磁石となることを証明した。
  実際にこの磁石を MRI 測定へ組み込んで、ファントムと呼ばれる磁場評価用の直径 1 mm のガラス管を撮影した結果、おおよそ均一な磁場が形成されていることを確認した。さらに、植物のセロリ、マウス胎児の MRI 画像を撮影した結果、通常の MRI の空間分解能が mm 程度であるところ、セロリで空間分解能 100 m m 、マウスの胎児で空間分解能 50 m m ( 図 3) という高分解能を高感度で達成した。
理研仲村高志専任技師によると、「高温超伝導バルク磁石を利用した MRI による数十 m m という空間分解能は、核磁気共鳴を利用した顕微鏡である MR マイクロスコピーへの応用が可能となる。さらに、この技術を高めると、最終的には、ばらつきが 100 億分の 1 以下という、より高い磁場均一度が必要な高分解能 NMR の実現が可能となる。この EuBCO を利用した高温超伝導バルク磁石は、従来の線材を活用した超伝導磁石と異なり、机上サイズと非常にコンパクトで、液体ヘリウムはもちろんのこと、液体窒素といった冷媒も不要な冷凍機で駆動可能なため、省資源・省エネルギーな装置を構築することが可能になる。また、磁石の構造が単純で、従来の超伝導磁石で課題だった超伝導状態の消失 ( クエンチ ) が無いために、特別な安全回路の必要がなく低コストであることから、より簡便な小型動物用の MRI 装置、食品や材料評価用の MRI など、非常に広範囲な分野へ展開できると期待され、早期の実現を目指している。」とのことである。最後に、本研究成果のポイントを箇条書きで示す。 ( マウス小僧 )

  ○高温超伝導バルク磁石を 6 層積み上げ、強磁場 4.7 T の均一磁場空間を形成

  ○空間分解能 50 m m の画像撮影を実現し、本格的な MR マイクロスコピーを実現

  ○液体ヘリウムや液体窒素が不要な冷凍機の動作で、モバイル化が視野に

図3 マウス胎児のMRI画像