SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No2, June, 2011


 

南極の超伝導重力計で観測された東北地方太平洋沖地震  _筑波大、国立極地研究所_

 


 2011 年春季低温工学・超電導学会で筑波大と国立極地研究所から東北地方太平洋沖地震に関する南極昭和基地での観測について報告があった。 2011 年 3 月 11 日 14 時 46 分に発生したこの大地震 ( 震源位置;北緯 38 度 6.2 分、東経 142 度 51.6 分、深さ 32 km 、マグニチュード Mw : 9.0) による地震波が約 20 分後に日本から約 14000 km 離れた南極昭和基地の超伝導重力計によって明瞭に観測された。 2004 年 12 月 26 日のスマトラ島沖地震 ( マグニチュード Mw : 9.1) と 2010 年 2 月 27 日のチリ地震 ( マグニチュード Mw : 8.8) の観測記録と比較して地球自由振動の観測について報告している。
  重力の測定方法としては絶対値を測定する絶対重力測定と重力差や時間的変化を測定する相対重力測定の 2 つに大別される。図 1 に示すように南極昭和基地に設置してある超伝導重力計は液体ヘリウム容器、センサー、 4 K 冷凍機、圧縮機、コントローラ、気圧計、 GPS 等で構成されており、相対重力計で超伝導コイルのつくる極めて安定な磁場で浮上した 1 インチニオブ球の 位置変化を検出することで重力の変化を測定する 装置であり液体ヘリウム温度で使用しているため熱的ノイズはカットされ、絶対重力計に比べて 3 桁以上感度が高く、 1 ナノガル (1 nGal = 10 − 11 m/sec 2 ) までの測定が可能である (1 m Gal=10 mm の分解能 ) 。そのため、超伝導重力計は地球深部のダイナミックスを観測目的とするため国際観測プロジェクト GGP が組織され世界各国 ( 約 30 か所 ) で観測が続行されている。南極にある超伝導重力計は日本の昭和基地が唯一であるという。南極は遠心力が小さく赤道に比べて 0.5% 重力値が大きいのが特徴である。
  地球自由振動は、主に巨大地震が発生したときに起きる地球の振動で、その周期は数分から 1 時間の範囲である。例えば小さな鈴は高音の響きがあり、大きな釣鐘だと低音の響きがあるように物質の大きさや材質に関係した関数であり、断層活動による大きさに振幅が依存する。つまり地球も大きな釣鐘と考えると地球の振動による低周波の振動を超伝導重力計によって重力変化として連続的に観測することにより、地球内部構造 ( 地球内部を構成する物質の種類や密度の分布状態など ) を調べることができる。

  図 1.  南極昭和基地の超伝道重力計。

 

 これまで南極昭和基地の超伝導重力計による巨大地震の観測例としては 2004 年 12 月 26 日のスマトラ島沖地震 ( マグニチュード Mw : 9.1) と 2010 年 2 月 27 日のチリ沖地震 ( マグニチュード Mw : 8.8) を観測している。図 2 に示したのは東日本大地震の観測データと比較した超伝導重力計で観測した重力変化の波形である。それぞれの図の上段は潮汐信号を差し引いた重力残差である。この観測結果からも東日本大地震はスマトラ島沖地震と同程度あることがわかる。昨年のチリ沖地震では大地震で励起された地球自由振動モード 0 S 0 ( 地球半径方向に均一に伸縮するモード ) は地震発生から 98 日目の装置のノイズレベル (0.2 m Gal/rHz) に達するまで観測することが出来たそうで、今回の東北地方太平洋沖地震による 0 S 0 の信号は (5 月 31 日現在 ) も観測続行中である。本観測に携わる筑波大学の池田博准教授によれば、「地球は皆さんが思っているよりも柔らかく地球内部のマントルは熱対流によって今後も流動性は続きます。このような地球の動的変化を高精度に観測する機器として低温技術を駆使した超伝導重力計の有用性が今後も期待されることでしょう。」とのことで、地球という巨大な観測対象から超伝導重力計を通じてもたらされる情報にこれからも注目したい。( ブリザード )

      図 2.  スマトラ沖地震、 2010 年チリ沖地震、東北地方太平洋沖 地震の比較。