SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No1, February, 2011


 

<コラム> 2011 年新春巻頭言    京都大学物質−細胞統合システム拠点 高野幹夫


  

 超伝導発見 100 周年、銅酸化物高温超伝導発見 25 周年にあたる記念すべき年が明けました。おめでとうございます。読者の皆様のますますのご活躍を祈念いたします。このような年の初めに本誌に寄稿する機会を与えられましたことを、大変名誉なことと思っております。 筆者は現在 66 歳、 3d 遷移金属酸化物に関心を抱いてきた基礎固体化学分野のものです。お許しをえてこれまでを振り返ると、研究面では銅酸化物高温超伝導の発見とその後の展開を垣間見ることができたこと、実生活については、危ういところで第三次世界大戦の避けられたことを大変有難く思います。
  発見後 100 年を経るうちに、多種多様な物質が超伝導を示し、そのクーパー対の内部構造も様々であることが明らかになりました。ただし銅酸化物については、結晶構造と電子状態の特異さゆえに、 Fermion でもなく Boson でもない、 2 次元系にだけ存在しうる Anyon を想定した理論モデルが提示されたことがありました。これが本当であれば、銅酸化物高温超伝導体発見の意義は、学問としてさらに大きいものになったと思います。しかし、今、筆者が実現を切に願うのは、ファンシ―だけど扱いにくそうな Anyon 超伝導体の発見よりは、銅酸化物超伝導ケーブルによる実送電です。
  国立大学は、平成 16 年 4 月から法人化されましたが、筆者はその前後の 3 年間、準備と後始末に大部分の時間を割かなければならない破目に陥りました。法人化の目指すところと進め方には首をひねるところが多々ありましたが、お題目の一つであった「大学は一般社会から強く支持される存在であらねばならない」ことについては、当然のことだと思いました。そして、教えるのも学ぶのも難しい学理といわれる超伝導の面白さを、抵抗なしに電力を送るという分かりやすく受け入れやすいかたちで社会に呈示できれば、大学と社会を結ぶ非常に良い材料になると期待しました。残念ながらそのときには間に合いませんでしたが、実送電網の一部に Bi-2223 系ケーブルを組み込む実験が、いよいよわが国でも始まろうとしています。人類の願いの込められた究極の目標である G lobal E nergy N etwork E quipped with S olar Cells and I nternational S uperconducting Grids ( GENESIS : 元三洋電機社長 桑野幸徳博士提唱 ) 実現への確かな前進です。数多い元素からなる組成の複雑さ、生成過程の複雑さ、超伝導特性の強い異方性とコヒーレンス長の短さなどなどが引き起こす数々の問題を、 20 年余に及ぶ努力により克服してここまで到達された関係者に敬意を表します。
  基礎固体化学の立場にある筆者が銅酸化物高温超伝導発見から受けた最大の刺激は、まだまだ思いがけない優れた物性をもつ物質があるに違いない、色々な合成法をそろえてモノ探しに励まなければ、というものでした。現在の職場ではバイオ分野の方々と接触する機会が多いために、意識すべき物質が柔らかくて対称性の低い側に広がりました。漠とした印象を与えてしまって恐縮ですが、小文の最後に、物質と物性の多様さを楽しみ、運根鈍を旨としてその多様性の中に自らの道を見出す若い方々のますます増えることを願います。