SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.20, No1, February, 2011


 

高い T c を持つ Bi,Pb2223 薄膜の開発     _ 物質・材料研究機構、鹿児島大学、九州大学_

 


  

 物質・材料研究機構 (NIMS) 、鹿児島大学、九州大学との共同研究において、鹿児島大学土井准教授らのグループが DC スパッタ装置を用いて Bi,Pb2223 薄膜の作製に成功した。この Bi,Pb2223 薄膜では 100 K を超える T c が得られ、液体窒素中、自己磁場中で 30 万 A/cm 2 を超える J c が得られていることがわかった。
  物質・材料研究機構、鹿児島大学、九州大学のグループでは Bi2223 線材のための基礎的知見を得るために薄膜からのアプローチを本年度から開始した ( 科研費 A 「ナノ積層薄膜法による Pb を含む高温超伝導相 Bi-2223 薄膜の作製」 ) 。その中で鹿児島大学では DC スパッタ装置を用いた Bi2223 薄膜の作製に取り組み、非常に良質な薄膜が再現性良く作製できるようになった。真空チャンバー内を 0.3 Torr 酸素雰囲気に保ち、約 700°C の基板加熱温度で STO(100) 基板上にスパッタ蒸着を行い、成膜を行ったところ、得られた薄膜からは弱いながらも Bi2223 相のピークを観察することができた。このときの薄膜の超伝導転移温度を測定すると 72 K であった。しかしながら、この膜中にはターゲットには多量に含まれていた Pb が含まれていないことがわかった。条件を振った中では、スパッタ蒸着だけで Pb が薄膜中に入ることはなかった。そこで、結晶性の向上および Pb の導入を行うために、 Pb を含まない薄膜を、 Bi,Pb2223 組成の焼結体中で熱処理 (Pb 雰囲気 焼鈍 ) することを試みた。その結果、焼鈍後の薄膜には Pb が含まれていることを確認した。さらに Pb 雰囲気焼鈍を行った薄膜の XRD をみると c 軸配向した Bi2223 単相が得られていることがわかった。また、 115 面のφスキャンを行うことにより、 4 回対称性も確認することができた。その薄膜の超伝導特性を測定したとこ ろ、 T czero が 105 K であることがわかった ( 図 1) 。さらに臨界電流測定を液体窒素温度で行ったところ、 J c が 30 万 A/cm 2 に達していることがわかった。これらの薄膜の典型的な表面 ( 図 2) では、溶融したような形態が観察され、所々に異物あるいは異相と見られる突起物も観察された。 EBSP 観察を行ったところ、溶融した領域においては ab 軸とも配向していることがわかった。しかしながら突起物周 辺では 110 面が観察されており、完全に配向しているわけではない。また、透過電子顕微鏡観察においても内部に積層欠陥や Bi2212 と思われる相が観察されている。

 

図 1. 後アニールを施した後の Bi,Pb2223 薄膜のr - T 特性

 

 NIMS の北口仁、松本明善両氏によると「このように表面形態が悪く、組織的にも十分で無い薄膜において、線材を凌駕する J c 値が得られていることから、線材においてもさらなる特性改善の余地がある」とのコメントがあった。このようなコメントにもあるように現在市販されている DI-BSCCO 線材で得られている J c は 7 万 A/cm 2 程度であり、今回の薄膜では 5 倍近い高値が得られている。結晶方位を制御し、異相を極力少なくするだけで、商業ベースの採算レベルに十分到達すると期待される。今回は薄膜での成果ではあるが、研究グループが目指すような線材へのフィードバックを行うことにより、 Bi2223 線材のさらなる特性改善が期待される。 ( ビスコ )

 

    図 2 Bi,Pb2223 薄膜の表面