SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No6, December, 2010


 

< 会議報告 >

平成 22 年度 秋季低温工学・超電導学会

(平成 22 年 12 月 1~3 日@かごしま県民交流センター )

 


Bi 系線材】

 Bi 系線材は昨年の秋季低温工学に引き続き 2 つのセッションが設けられ、活発な議論がなされた。発表件数は合計 12 件 ( うち口頭 7 件 ) と昨年から 3 件増えている上、 Bi 系線材を用いた応用機器や機器への使用を想定した線材特性の評価に関する件数も着実に増えている印象を受けた。以下には Bi 系線材について概要を記載する。
  住友電工、東大、 NIMS のグループより、 DI-BSCCO 線材の I c 改善状況について成果報告があった。 Type H 型試料では短尺 I c = 250 A (600 A/cm 幅相当 ) と、それまでの最高 I c (236A) を更新した。 ( J c = 63 kA/cm 2 → 76 kA/cm 2 ) 。この試料は従来よりも高い T c を示すとともに、 Pb を含む不純物の析出も抑制されており、これらが性能向上の主要因であるとの見解を示した。東大、住友電工のグループから Bi(Pb)2223 高 T c 化に関する発表があった。 0.5% 酸素雰囲気において、 Pb を最大限固溶させる 775 °C の第一ポストアニールと 725 °C の第 2 ポストアニールの 2 段階熱処理を施すことで、 Pb を含む不純物の析出を最小限に止めた上で T c を上げることに成功し、同熱処理を定比組成多芯線に適用した結果 I c が 10% 向上するとしている。筑波大からは、 T c に対する元素置換効果の検証結果に関する報告があり、 Sr サイトの一部を Ca や Ba などで置換する場合、 T c が最高値をとる最適置換量が存在することを示唆した。格子定数のずれやキャリアドープ状態との関連が今後調査される。
  鹿児島大と NIMS のグループから、 DC マグネトロン (Bi,Pb)2223 薄膜の作製に関して 2 件の発表があった。ターゲット組成や成膜条件の検討によって膜厚 300 nm の配向組織が得られるとしているが低い超伝導性を示したことを受け、予め Bi2223 薄膜を作製した後に Bi+Pb+O 2 雰囲気で熱処理する方法を適用することで、 T c =105 K の良質な薄膜試料作製に成功している。試料の通電 J c は、 PIT 法での最高 J c の 4 倍以上の 0.33 MA/cm 2 を示し、高いポテンシャルを持つことが示唆されている。 Bi2223 配向組織を得る手法はその他も提案されており、東大、住友電工のグループからは磁場中スリップキャスト法を用いた高度 c 軸配向焼結体の研究に関して報告があった。本手法は、 Bi2223 の磁化容易軸が c 軸であることを利用しており、実際に無磁場下スリップキャストと比較しても配向性が改善されている。この効果として、粒内 J c が大きく向上したことや、 RE 希薄ドープの有効性も検証されている。 Bi2223 線材実用化に向けた性能向上開発に向けて、今後一層の研究成果がもたらされることを期待する。
  交流損失の低減について 3 件の発表があった。九大、住友電工のグループから、中央絶縁層を導入した新構造の提案があった。垂直磁界損失の測定結果より、新構造線材は従来構造のものに対して結合時定数が極端に小さくなっていることから、フィラメント間の電気磁気的結合が中央絶縁層の導入によって大幅に低減されていることが示された。豊橋技科大、西北夕食金属研究院のグループからは、 Bi2223 バリア線材の研究結果について 2 件の報告がなされた。同グループは、バリア材に Bi2212 を少量混合し加工性を改善した SrZrO 3 を適用してツイストを施した多芯線を作製している。商用周波数域におけるヒステリシス損失ならびに結合損失の垂直磁界振幅依存性から、大磁界振幅での損失成分が主に結合損失であることが示され、さらなる構造の改善が必要であることと、今後の課題として J c が高い場合のヒステリシス損失の寄与度について議論も今後必要であるとの見通しを示した。一方バリア導入多芯線の局所 I c 低下部位の非破壊分析についても発表があり、走査ホール素子磁気顕微鏡 (SHM) を用いた長手方向のシート電流密度分布から欠陥部位を特定する手法について報告があった。
  最後に、 Bi2223 線材の機械特性評価について 2 件報告された。応科研、京大、イムラ材研のグループは、試料を曲げた状態で引っ張り応力を印加した際の I c のふるまいについて詳細に調査した結果について報告した。本測定システムは冷凍機冷却下で行われるため試料温度も可変であり、様々な実負荷環境を模擬した線材の機械特性が評価可能である。銅合金をラミネートした Type AC 線材試料の I c は、 80 K において D = 40 mm まで劣化がなく、その状態で 180 MPa 以上の引張り応力を印加すると劣化し始めることが一例として示された。試料温度の精度など、今後改良の余地ありとのこと。富山大、岩手大、住友電工のグループは、銅合金補強有り、なしの Type AC 線材の応力 / 歪み依存性の評価結果について報告した。この試料に対して 77 K 、 4.2 K における曲げ試験、引張り試験、横圧縮試験を実施し、銅合金補強における応力特性の向上が確認された。 ( 住友電工 菊地昌志 )

 

Y 系線材】

 鹿児島大の土井らは、 Ni めっき Cu/SUS316 貼り合わせテープ上への YBCO 厚膜成膜の結果を報告した。本基板は、圧延により形成される{ 001 }< 100 >集合組織 Cu テープと SUS316 を貼り合せ機械強度を高め、 Cu の酸化防止として Ni めっきを施した基板であり、その上に CeO 2 /YSZ/CeO 2 のバッファ層を介して成膜した 1 m m 厚 PLD/YBCO 膜において 1.5 MA/cm 2 の特性を得た。さらに MOD プロセスにおける超電導層成膜を見越し、 YSZ に変わり酸素透過能の低い Y 2 O 3 を採用し、 1 m m 厚 PLD/YBCO 膜を成膜したところ、 2.1 MA/cm 2 の特性を得た。この結果から、同基板を用いた RE123 膜は高 J c を有する事が確認でき基板の実用性を実証したとの見解を示した。今後は長尺化のプロセス研究を進めるとのことであった。
  住友電工の本田らは 30 mm- w クラッド配向金属基板上に成膜した PLD/GdBCO 膜の高 I c 化について報告した。 RF スパッタ法により成膜した中間層にはクラックが発生し、それによって I c 特性が低下している事から、中間層のクラックフリー化を検討していた。バッファ層を EB 法で成膜するとクラックが減少し短尺で I c = 約 500 A/cm に向上した。また改善した中間層を用いた 20 m 長の長尺において全長に亘り I c > 400 A/cm の特性を得たと報告した。改善の理由は成膜方法における結晶成長の違いと考えていると言及。また同じく住友電工の小西らは、本田らの報告した基板の幅方向の I c 分布について報告した。 30 mm- w で成膜した基板は、端方向の I c 分布が大きく端部にいくほど I c が低い。これを改善するために PLD 成膜におけるターゲット / 基板間距離を大きくして成膜したところ分布は改善したが I c (max) は低下してしまった。高 I c と幅方向の分布改善,さらに長尺化に課題が残るとした。
  昭和電線の青木らは、 RF-Sputter 法による RE123 系線材用 CeO 2 中間層の開発状況を報告した。 LMO/IBAD-MgO 基板上に Ar-O 2 ガスの O 2 流量比を変化させて成膜したところ、面内のほぼ 100% の領域で CeO 2 (200) 配向した膜を得る条件を見出した。 100 m 長の長尺に亘り平滑な表面を持つ中間層作製に成功した。今後は IBAD/MgO 上への成膜ならびに高速化を検討するとのことである。
  名大の小野らは、 IBAD/MgO 基板上へのインプルーム Nd:YAG-PLD 法による YBCO 膜生成について報告。高収率を狙ってターゲット / 基板間距離、酸素分圧 P O 2 を変化させた結果、最大で約 19% の収率を得たとした。しかし、得られた膜は幅方向で超電導特性、膜厚が不均一であり、これを解決するためにターゲット法線を鉛直方向に対して傾けプルームを歳差運動させた。結果、現段階で 86.8 K 、 1.62 MA/cm 2 、膜厚分布も端部が中央の 2/3 程度と改善したものの、更なる J c の向上が必要であり、ターゲット組成の最適化などを検討するとのことである。
  ISTEC の町らは、 Y 系線材のレーザースクライビング加工について報告した。歩留まり向上を目的としマスキング工程前、レーザ照射後、エッチング後、及びマスクテープ除去後に超音波洗浄工程を追加したところ歩留まりが 50% から 70% まで向上した。今後は、剥離防止の樹脂被覆を検討するとのこと。
  ISTEC の中岡らは、 TFA-MOD 法において原料溶液の組成を Y:Ba:Cu = 1.0:2.0:3.0 の化学量論組成と同 1.0:1.5:3.0 の Ba 欠乏組成にした場合の超電導特性を変化させるメカニズムについて報告した。 I c (max) の焼成時間において前者では BaF 2 が残存していることを確認し、固相反応過程においてそれが BaCuO 2 や BaCeO 3 となることで特性が低下している可能性があると言及した。 ( フジクラ 菊竹亮 )

 

Y 系線材評価】

 Y 系線材の評価としては、 I c の温度・電界・磁場依存性などは従来から多くの検討がなされてきた。近年、 RE 系線材の応用開発が進み、実際の利用に際して、これら基本特性以外に、交流損失、不均一性、機械的特性、信頼性など、実際の応用に即した視点での様々な特性評価の必要性が議論されるようになってきた。そこで、本報告では、基本特性評価以外の特性評価を中心に著者が興味を持ったトピックスをいくつか報告する。
  Y 系線材をマルチフィラメント化することにより、交流電力応用した際の交流損失を低減できることが報告されている。ここで、それらフィラメント毎の電流分布の評価に関する報告がいくつかなされた。鹿児島大の永田氏からは、極小ピックアップコイル郡を用いる方式が提案され、九州大の東川氏からは走査型ホール素子顕微鏡を用いる方式が報告されていた。電流分布の高精度評価という観点では、ホール素子顕微鏡法の方が適しているといえる。両手法とも、今後、長尺線材を非破壊で高速、簡便かつ正確に測定する技術に発展することが望まれる。
  Cu および Ag の安定化層で被覆された Y 系線材の曲げ vs 歪み特性は、これら安定化層の降伏限界値が基板材に対して低く、先に塑性変形を起こすため、通常行われる曲げ径から実際の Y123 材料の歪みを計算することが難しかった。そのため、線材の被覆種類が変わると曲げに対する I c の低下率が変わるなど、データベースの活用を難しくしていた。ここで、京都大の菅野氏は、放射光を用いて、曲げおよび引張り時の線材内部の歪みを実測するとともに、安定化層の塑性変形を考慮して応力中立軸が変化するのを計算し、正確な歪みを算出する方式を提案し、実測値と一致することを示した。これを用いれば、異なる安定化層が付いた線材でも、引張歪み - I c 曲線から I c 曲げ歪み低下を正確に推定することが出来そうである。また、超電研の山田氏より報告された各種線材の不可逆曲げ歪みなどのデータから、引張り限界や I c 低下率を推定することも可能となると考えられ、応用機器設計時に役立つと思われる。
  東芝のグループおよび理研前田氏のグループ ( 理研、千葉大、上智大 ) から、エポキシ含浸したパンケーキコイルの I c 低下が、線材の剥離劣化が原因であったという報告がいくつかなされた。エポキシ含浸したコイルを冷却した際には剥離方向に引張り応力が発生し、その最大応力は 12 MPa 前後と計算された。線材メーカで測定した剥離強度値は 40 MPa 以上 ( 古い線で 10~20 MPa) と報告されており両者間での乖離が見られた、ここでは、線材に剥離強度の弱い箇所が存在し、この箇所が応力に耐え切れなかったことが原因と報告された。また、切断加工時に欠陥が導入され剥離強度低下を引き起こした可能性が千葉大の柳沢澤氏から報告された。東芝の戸坂氏は、引張法による剥離強度データをワイブル分布で統計処理することで、 24 m 長の線材の最低強度を求め、その値が低いために剥離劣化を生じたと報告した。同氏はさらに、線材メーカがその販売を行う際に、 I c 分布や磁場依存性などの基本情報のみならず、剥離確率など信頼性に関するデータも併せて提示するようにすべきだと提案していた。また、超電研の坂井氏より、線材の各種環境 ( 温度 , 湿度、電流、機械歪み ) に対する劣化および耐久性評価方法の提案がなされていた。これらの、信頼性に関わる事項は、今後 Y 系線材が実用化に近づくとともに、その重要性を増していくと考えられる、そのため、剥離など線材の信頼性に関わる測定・解析の手法と提示データの標準化を行う必要があると考えられる。 ( 国際超電導産業技術研究センター 坂井直道 )

 

A15 線材】

 今回の鹿児島での低温工学・超電導学会では、 A15 線材に関してポスター 2 件を含め全部で 13 件の発表あった。そのうち Nb 3 Sn 線材に関して 7 件、 Nb 3 Al 線材に関して 5 件、 V 3 Ga 線材に関して 1 件の発表があった。
  Nb 3 Sn 線材の特性改善に関しては、現在も多くの機関で研究されており、 Nb と Sn 合金との拡散反応において Sn 合金中の Sn 濃度が大きく影響を及ぼすということが明らかとなっている。 Cu-Sn 合金を利用したいわゆるブロンズ法では、 Sn 濃度が伸線加工性を確保するために固溶限である 15.8 wt% に制限されるため、十分な Sn 供給量を確保できない。そこでこれまでに、内部スズ拡散法や Sn リッチ化合物粉末を利用したパウダー・イン・チューブ法、 Sn-Ta シートを利用したジェリーロール法などが開発されてきた。
  本会議では、ジェリーロール法に関する発表が東海大学から 1 件、内部スズ拡散法に関する発表が日立電線から 2 件あった。以下個別に報告する。
  東海大学の安藤らは、 Sn-Ta 、 Sn-B あるいは Sn-Nb をベースとした Sn 基合金シートを用いたジェリーロール法線材の作製条件と組織について報告した。今回新しく Sn-Ti ロッドを巻き芯にした方法も報告された。本ジェリーロール法では、 Sn 基合金シートの添加元素の種類によって特徴が変わり、例えば Ti の場合には合金の凝集性を高めよりタイトな合金組織になり、 Cu の添加は熱処理温度を下げる効果がある。また Nb 3 Sn 層で化学量論性の優れた相が形成されることも特徴である。
  内部拡散法に関しては、日立電線の大圃、和田山らから発表があった。従来の複雑な Nb フィラメント、 Sn コアの構造とは異なる製法で、 Cu 被覆 Nb フィラメントと、同じく Cu 被覆 Sn フィラメントの単純な複合構造をとることで、製造工程の簡素化を図った。良好な伸線加工性と J c 特性を確認した。
  Nb 3 Sn 線材のほかの発表は、ひずみ特性に関する発表であった。東北大学の小黒らは Spring-8 の放射光を利用した残留ひずみの測定を行った。中性子回折と同様に、残留ひずみを高精度で観測できることがわかった。同じく東北大学の高橋らからは、低温での中性子回折によるひずみ特性に関して報告があった。
  原子力機構の小泉らは、曲げによる I c の劣化解析モデルについて提案した。今回の新しい解析モデルでは、銅、ブロンズの剛性、また熱処理後の熱歪みも考慮した。それによって I c の曲げひずみ特性において、当初の思惑通り HTRM( 高抵抗マトリクス ) モデルが妥当であることを示した。
  原子力機構の名原らは、 ITER 機構が定めた方法による ITER TF コイル用素線のベンチマークテストにおけてばらつきがあることを報告した。熱処理ボビンから測定用ボビンに線材を移し替えるときに、テープで抑え込みながら溝に固定すると、線材と溝の間にわずかな空隙ができ、それが 0.065% 程度の歪み誤差を生じていることが報告された。
  Nb 3 Al 関係では、まず NIMS の井上らから、 Nb 3 Ge や Nb 3 (Al,Ge) などの化合物粉末をコアに充填した線材の急熱急冷処理を試みた結果が報告され、急熱急冷処理によりコアが化合物相から BCC 相へ変化したかもしれないという、変態法 Nb 3 (Al,Ge) 線材の実現へつながる興味深い結果が報告された。
  Nb 3 Al の新しい線材構成に関しての発表は 2 件あった。一つは NIMS の竹内らの発表で、バリアに Cu をそのまま残存させた構造をもつ線材の開発について報告された。製造コストの抑制とフィラメント結合の抑制をねらっている。もう一つは日立電線の中川らの発表で、過飽和固溶体線材を再スタックする方法での線材長尺化に関して報告があった。こちらも安定化銅を引抜き加工のみで付与できるため、製造コストの低減が期待されている。現状で実用レベルの 100 m 長まで実証し、今後 km 級を目指して進める予定である。
  また KEK の金らから、中性子回折による Nb 3 Al 線材の残留ひずみの測定について報告があった。 Nb 3 Al のひずみ特性についてのより詳細な解明が期待される。
  また NIMS の伴野らは、相変態 Nb 3 Al 線材の微細組織観察結果を元に、 Nb 3 Al のピンニング機構を論じた。 J c の粒径依存性がないことを考えると、 Nb 3 Al のピンニングは相変態時に生じた A15 相内の板状欠陥による可能性が高い。
  この他に富山大学の村上らから、高 Ga 濃度 Cu-Ga 化合物粉末を経由して作製した V 3 Ga 線材の組織観察に関して報告があった。( 物質・材料研究機構 伴野信哉 )

 

【システム応用】

 システム応用関係のセッションとしては、「回転機」、「電気機器」、「磁気応用」、「送電ケーブル」、「加速器」、「 ITER 」、「 HTS コイル /LTS コイル関連」、「核融合」、「電力変換貯蔵」、「 JT-60SA 」、「電力系統応用」があった。全体的にシステム応用関係のセッションが多く、実用化に向けた研究開発が進展していることがうかがえる。以下、筆者が聴講した範囲で概要を報告する。
  「電気機器 (2) 」では、九州電力の岡元らが、イットリウム系超電導変圧器の巻線技術開発について、 12 重ね 2 並列転位巻線を用いた転位巻線の最適化による電流分流率の低減、また、 400 kVA 級超電導変圧器を用いた線材の保護金属層の最適化による耐短絡特性を報告した。九大の堤らが REBCO 超電導変圧器の過大電流に対する応答特性について、製作した 400 kVA 級超電導変圧器による突発短絡試験結果、またその数値解析コードによる算出結果を報告した。九大の友田らが 500 kW REBCO 超電導同期電動機について、ギャップに最大磁束密度 2 T を発生でき、最も使用線材量が少なくなる空芯モータの構造、有限要素法を用いた 2 次元磁場解析による界磁コイルの交流損失およびトルク変動算出結果を報告した。
  「加速器」では、全報告が KEK のグループによるものであり、 ILC 用クライオモジュールの開発に関しては、クライオモジュールの冷却試験、計測システム、熱負荷測定、ガス回収配管の変位計測について、また、 J-PARC ニュートリノビームライン用超伝導電磁石システムに関しては、磁石システムの運転状況、超臨界圧ヘリウム輸送システムの建設、マグネットクエンチ時の超臨界ヘリウムの圧力上昇試験と計算について報告があり、全体を通じて幅広い報告内容であった。
  「電力変換貯蔵」では、九工大のムハマドスムハンらが、フライホイール電力貯蔵装置について、永久磁石軸受と超電導軸受を用いた低位重心型の試作機の振動特性と瞬低に対する放電特性を報告した。中部電力の式町らが、 SMES 用 Y 系コイルについて、製作したコイルのフープ応力試験および大電流通電試験を行った結果を報告した。東北大の中村らが、自然エネルギーに用いる SMES について、カルマンフィルタによる風力発電の出力変動予測方法とそれに基づいた SMES 容量の最適化について報告した。明治大の野村が、 SMES 用電流型電力変換器システムについて、可変直列コンデンサの機能を持つ電流スイッチを用い、進み位相で直流電力を制御できる直列補償型サイリスタ変換器の試作機による実証試験結果を報告した。応用科学研の長村らが、超電導インバータについて、インバータ動作の検証結果と、 DC-AC 変換効率向上に関する数値計算による検討結果を報告した。東北大の津田らが、交流系統間を直流連系させる際に使用する平滑リアクトルについて、アナログ型電力シミュレータを用い、 YBCO テープ線で構成されたトロイダルコイルの高調波電流通電時の通電特性と交流損失特性を報告した。
  「 HTS コイル (1) 」では、九大の宇都らが、多層コイルに巻いた酸化物超伝導並列導体の電流分流特性について、巻き乱れや形状変化を考慮した転位方法を報告した。九大の森脇らが、超伝導二本転位並列導体の巻き乱れによる付加的交流損失について、その磁界振幅依存性と巻き乱れの修正方法を報告した。東大の呂らが、磁気浮上鉄道用として Y 系超電導コイルを用いた場合の基本設計について、コイル断面形状に対するコイル表面積および体積の関係性を報告した。岡山大の門田らが、高温超電導コイルの常電導伝播特性について、線間を無絶縁にすることで常電導転移時に意図的に線間方向へ電流を分流させたときの過渡安定性を報告した。早大の鈴木らが、 SMES 用伝導冷却 Y 系コイルの通電・伝熱特性評価について、銅テープ巻線のダミーコイルを用いた実験および解析結果を報告した。東北大の侯らが、銅安定化 YBCO テープ線材について、伝導冷却下における臨界電流と熱暴走電流の関係を実験結果に基づいて報告した。早大の室町らが、 SMES 用伝導冷却 Y 系コイルのクエンチ検出 / 保護について、素線間の電流転流検出によるクエンチ検出方法の有効性を数値シミュレーションにより検討した結果および必要な銅安定化層の厚さの算出結果を報告した。新潟大の前野らが、高温超伝導コイルの交流損失測定方法について、パワーメータを用いた測定方法を提案し、従来のロックインアンプを用いた 4 端子法と比較・検討した結果を報告した。
  他にも聴講はできなかったが、多数興味深い講演があったことを付記する。   ( 岡山大学 七戸希 )

 

RE123 系バルク】

 RE123 系バルクのセッションでは口頭で 7 件、ポスターで 7 件の発表があった。バルク作製プロセス、特性評価、バルク応用の順に概要を報告する。
  東京海洋大の都築らは Gd 系バルクへ急冷合金の一種である Fe-B-Si-Nb-Cr-Cu 磁性粒子および Fe 2 O 3 を添加し特性評価を行った。磁性粒子を添加した試料では総磁束が 40% 向上し、また 77 K における捕捉磁場も 30% 向上したことを報告した。
  東大の杵村らは Co または Ga を希薄ドープした Y 系バルクを作製し捕捉磁場を測定した。 21 mm f のバルクにおいて希薄ドープにより 77 K での捕捉磁場が向上し、また 77 K 以下の低温でも J c が上昇したことから低温においても捕捉磁場特性の改善が期待できることを報告した。
  鉄道総研の富田らは Gd 系バルクを外径 80 mm, 内径 45 mm のリング状に加工し、樹脂含浸を施したバルク材を作製した。バルク材の積層数を変えて超伝導マグネットにより着磁を行って中心部の磁場を測定したところ 10 個積層させることで 2.59 T まで中心磁場が向上した。また、リング状バルク材を 4 個積層させたバルクマグネットを用いて 30 mm f の Gd 系バルクの着磁試験を行ったところ、バルクマグネットでも超伝導マグネットと同程度の着磁ができたことを報告した。
  岩手大の藤代らは、パルス着磁において solenoid-coil に対する vortex-coil の優位性のメカニズムを明らかにするため、 vortex-coil を用いた着磁現象をシミュレーションで解析し、 solenoid-coil との違いを議論した。印加磁場とバルク中心表面の捕捉磁場のシミュレーション結果から、 vortex-coil ではバルクを側面から伝導冷却するためバルク体の温度上昇が小さく、 solenoid-coil よりも最大捕捉磁場が大きくなりうることを報告した。
  新日鉄の手嶋らは金属リングで補強した 46 mm f の Gd 系バルクを作製し、 10 T の超伝導マグネットを用いて様々な温度における捕捉磁場を測定した。 10 T の磁場を印加しても補強した試料では破損がなかったこと、 42 K では着磁が不十分であったが十分に着磁を行えば有効なピン止め力の増加により 13 T 級の強磁場が捕捉可能であることを報告した。
  秋田県大の二村らは新しい超伝導デモンストレーションのモデルとして、円形磁石を内蔵した車輪を用いて、超伝導バルクを搭載した車体を浮上走行させる「超伝導サスペンションカー」を考案した。磁石の極方向がバルク表面に対して平行でも十分な磁気力が得られるようにヨークを介して磁石を 3 個対向に組み合わせた磁石モジュールを 2 組作製し、 Dy 系バルクを 2 個搭載した車体を浮上走行させることに成功した。( 東京大学 杵村陽平、赤坂友幸 )

 

MgB 2

 MgB 2 関連の発表について報告する。 MgB 2 に関する発表は 3 セッションで、口頭発表が 17 件、ポスター発表が 6 件あった。
  まず、口頭発表について紹介する。九大の柁川らは、新しい動作原理に基づいた超伝導式液体水素液面計について提案した。超伝導線と平行に、常伝導状態の電気抵抗が同一の非超伝導線を並べ、電気抵抗の差から液位を決定できることを検証した。東大の山本らは、 HPCVD 法により作製したチルト MgB 2 薄膜の輸送臨界電流特性について報告した。チルト方向に垂直に発達したステップに対して垂直および平行に通電して臨界電流を測定し、電流がステップに対し平行に流れるときのほうが、臨界電流が高いことを報告した。日立の一木らは、 in-situ MgB 2 バルクを介した MgB 2 線材の超伝導接続について報告した。従来法では線材とバルクの接合部にあたる線材端部の I c が低かったが、加圧しながら熱処理を施すことで I c が大幅に改善することを報告した。鹿児島大の文らは、 2 本の絶縁されたテープ線材で構成された並列導体で巻き線したコイルを開発し、その交流損失を測定した。ヒステリシス損失が支配的であり、低電流領域では Cu の渦電流損失も観察された。東大の田中らは、 ex-situ 法 MgB 2 バルクにおける焼結条件と臨界電流特性の関係を報告した。高温での熱処理により MgB 2 の自発的な焼結が進み、密度、 connectivity 、 J c の改善が可能であることを示した。鉄道総研の富田らは、 MgB 2 バルク超伝導体の開発について報告した。直径 20 mm のバルク体において、約 1.5 T ( ステージ温度 13 K) の捕捉磁場が得られ、磁場分布は超伝導バルク体としては均一であることを示した。筑波大の山本らは、 MgB 2 バルク体におけるホットプレス条件と臨界電流密度の関係について報告した。 HP 圧力の高圧化に伴い、異方性の変化は少ないものの、結晶性は系統的に向上し、密度も向上した。東海大の金澤らは、 Mg 金属管を用いた外部拡散法により作製した MgB 2 線材の組織と超伝導特性との関係について報告した。溝ロールを行わず円形ダイスによる引き抜き加工を行うことで、加工時の Mg 金属管の偏りを低減し、化学量論比に近い試料を得られ、高い J c を達成した。 NIMS の熊倉らは、 Mg 拡散法により作製した MgB 2 線材の組織と超伝導特性について報告した。多芯化により B 層が薄くなり、未反応領域を減らすことができた。また、結晶粒の粗大化を防ぐため、 640°C で短時間の熱処理が有効であることを報告した。九大の嶋田らは、内部 Mg 拡散 MgB 2 線材のマクロ組織に及ぼす熱処理条件の影響を報告した。熱処理温度が Mg の融点以下のときは Mg と接する部分から MgB 2 が生成するが、融点以上のときは MgB 2 の生成領域に不均一が見られた。また、熱処理前に発生したと思われるクラックが存在し、熱処理によって Mg 2 Si などの不純物が生成することを報告した。 NIMS の松本らは、 MgB 2 テープ線材における J c の磁場温度依存性について報告した。テープ線材を厚さ方向に研磨しながら XRD 測定を行い、全体がわずかに c 軸配向していることを示した。また、通常は磁場をテープ面に対して平行に印加した方が J c は高いが、高温・低磁場下においては垂直に印加した際の J c の方が高くなることを報告した。
  続いて、ポスター発表について紹介する。 NIMS の藤井らより、 Mg(BH 4 ) 2 の熱分解による MgB 2 の作製についての報告があった。 MgCl 2 と NaBH 4 の反応により Mg(BH 4 ) 2 を得、 Ar 気流中で熱分解することで不純物の少ない MgB 2 の作製に成功した。 T c は 35 K 程度と低いが、これは炭素置換によるものと考察していた。日大からは中山らが Hemoglobin を、鈴木らが Vitamin B 12 を、それぞれ添加した MgB 2 バルクの超伝導特性について報告した。比較的低濃度の添加で磁場中の J c が改善した。芝浦工大の谷口らは、エアロゾルデポジション法で作製した MgB 2 薄膜の特性について報告した。膜の組成は原料粉末から変化しなかったが、結晶粒が c 軸配向されていることが示された。 ( 東京大学 田中裕也 )