SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No6, December, 2010


 

鉄系超伝導体のホモロガス相を続々と発見              _ 東京大学 _

 


  東工大の細野グループによって発見された鉄系超伝導体はいずれも Fe の正方格子を構造ユニットとして持ち、ブロック層の構造により REFeAsO(RE :希土類 ) 系、 AEFe 2 As 2 (AE :アルカリ土類 ) 系、 AFeAs(A :アルカリ金属 ) 系、 FeCh(Ch :カルコゲン ) 系などに分類される。よく知られているこれらの構造以外に、 FeAs 層間がペロブスカイト類縁構造となっている物質 ( 以下、ペロブスカイト系鉄ニクタイド ) が報告されている。最近東大グループはこのペロブスカイト系鉄ニクタイドでペロブスカイト層の厚みが異なる一連の化合物群を発見した。これらの新物質の T c は最高で 40 K 以上と、 REFeAsO 系以外の鉄系超伝導体に次ぐとのことである。
  東工大の細野グループによって発見された鉄系超伝導体はいずれも Fe の正方格子を構造ユニットとして持ち、ブロック層の構造により REFeAsO(RE :希土類 ) 系、 AEFe 2 As 2 (AE :アルカリ土類 ) 系、 AFeAs(A :アルカリ金属 ) 系、 FeCh(Ch :カルコゲン ) 系などに分類される。よく知られているこれらの構造以外に、 FeAs 層間がペロブスカイト類縁構造となっている物質 ( 以下、ペロブスカイト系鉄ニクタイド ) が報告されている。最近東大グループはこのペロブスカイト系鉄ニクタイドでペロブスカイト層の厚みが異なる一連の化合物群を発見した。これらの新物質の T c は最高で 40 K 以上と、 REFeAsO 系以外の鉄系超伝導体に次ぐとのことである。
  今回東大グループが発見したのは、図 1 にあるように FeAs 層の構造が共通でブロック層の構造と厚みが異なる一連の化合物である。岩塩ブロックの有無によって構造が二系統に分けられ、それぞれペロブスカイト層の積層枚数が異なる構造がいくつか存在する。表 1 にあるように、 Fe-As-Ca-(Sc,Ti)-O, Fe-As-Ca-(Mg,Ti)-O, Fe-As-Ca-(Al,Ti)-O と少なくとも三系統の組成系が存在し、いずれも 6 元系で Ti が入っていることが特徴である。

 

 

 

 

 

図1 図1新物質の結晶構造

 

 

 最初に発見されたのは (Fe 2 As 2 )(Ca n +1 (Sc,Ti) n O 3 n -1 )[1] で、これまでに n = 3~5 に相当する、 22438, 2254 11 , 2265 14 の三種の構造が見つかっている。 22438 は FeAs 層間に三層のペロブスカイト酸化物層が挟まれた形になっており、更に n = 4,5 の物質はこの物質から Ca(Sc,Ti)O 3 のペロブスカイトブロックが一層ずつ増えた構造となっている。このような関係は銅酸化物高温超伝導体における Bi2201-2212-2223 などと類似している。ただし銅酸化物ではペロブスカイト層が超伝導層であるが、この物質では絶縁層であるという違いに注意が必要で、この場合はペロブスカイト層が厚くなると相対的に超伝導層が薄くなり、超伝導層間距離が長くなることになる。また一般的なホモロガス相と異なるのは、(Sc,Ti) カチオンの形式上の価数が整数ではなく、またペロブスカイト層部分の厚みが変わると同時に価数も変化する点である。例えば n = 3 の (Fe 2 As 2 )(Ca 4 (Sc,Ti) 3 O 8 ) では (Sc,Ti) の形式価数が +3.3 で理論上の Sc:Ti 比が 2:1 なのに対し、 (Fe 2 As 2 )(Ca 4 (Sc,Ti) 3 O 8 ) では形式価数が +3.5 で Sc:Ti 比が 1:1 となる。今回発見された物質が Ca-(Sc,Ti)-O 、 Ca-(Mg,Ti)-O 、 Ca-(Al,Ti)-O などのように、ペロブスカイトブロックの B サイトが複数のカチオンからなっているのはこのような理由によると考えられる。厚いペロブスカイトブロックを反映して超伝導層間距離は n = 4 で約 20 A 、 n = 5 で約 24 A となっており、これは Bi 系、 Hg 系などいずれの銅酸化物高温超伝導体よりも大きい値で、無機の超伝導体中では最も長い値とのことである。また Fe-As-Ca-(Mg,Ti)-O の組み合わせでも 22438, 2254 11 と (Sc,Ti) 系と同一構造の化合物が二種類報告されている一方で、 Fe-As-Ca-(Al,Ti)-O の組み合わせでは 22426, 22539, 2264 12 と、ペロブスカイト層間に岩塩ブロックが挿入された三種類の構造が報告されている。この違いはペロブスカイト層の A サイト・ B サイトカチオンのイオン半径比に由来すると考えられるが、層の厚みや積層形態を制御できれば更なる新物質も合成可能と考えられる。また実験的にはいずれの物質も仕込組成を式量より酸素不足とする必要があり、式量通りの仕込組成から合成を行うと目的相はほとんど得られないとのことで、研究グループによれば、石英管内の実効的な酸素分圧が相生成に影響を与えているのではないかとのことである。またペロブスカイトブロックの積層枚数が多いほど合成温度が高温になっているが、これは熱力学的な効果で説明可能とのことであった。
  これらの新物質の T c は 30~40 K 前後、うち最も T c の高い (Fe 2 As 2 )(Ca 4 (Mg,Ti) 3 O 8 ) は磁化で 42 K 、抵抗率で 47 K と報告されており、 REFeAsO 系に次ぐ高い T c となっている。また いずれの物質も意図的なキャリア量制御なしに超伝導となっており、現在までのところ非超伝導の試料や FeAs 層における磁気転移の報告はない。仕込み組成が酸素不足のため酸素欠損が生じている可能性もあるが、現時点では超伝導の起源は不明である。ペロブスカイト系の鉄ニクタイドは (Fe 2 As 2 )(Sr 4 Sc 2 O 6 ) など超伝導化が報告されていないもの、 (Fe 2 As 2 )(Sr 4 (Mg,Ti) 2 O 6 ) のようにキャリアドープで超伝導が発現するものなど物質により超伝導発現の有無や条件がまちまちで、この系が鉄系超伝導体の中でどのような位置づけになるのか気になるところである。いずれにせよ、ペロブスカイト系鉄ニクタイドの基底状態については更なる研究が必要であろう。また上述のように、今回の新物質の構造的な特徴の一つはブロック層が非常に厚いことである。鉄系超伝導体研究の初期に Fe 面間距離と T c に正の相関が示されたこともあり、今回の物質の T c にも期待したいところであるが、図 2 に示すように T c は Fe 面間距離に大きく依存することはないようである。なお、新物質相互の T c の違いは a 軸長で整理できるとのことで、 a 軸長の短い (Al,Ti)-22426 から a 軸長が伸びるにつれて T c が上昇し、 (Mg,Ti) 系で極大を取ったのち (Sc,Ti)-22438 の 33 K まで徐々に低下していく。現時点ではキャリア量が制御されていないため今後若干変動する可能性もあるが、基本的には他の鉄系超伝導体で Pnictogen height などで整理した場合に T c の極大が見えるのと同様と考えられる。なお、 (Sc,Ti) 及び (Mg,Ti) 系は積層枚数が多いほど形式価数が上がり、相対的にイオン半径の小さい Ti 4+ の比が増すために a 軸が縮むのに対し、 (Al,Ti) 系では Ti 4+ より Al 3+ が小さいために、ペロブスカイトブロックの積層枚数が増すと a 軸長が増大する点に注意が必要である。またこれらの物質の超伝導層間距離とピンニング特性からは、絶縁層が厚く層間距離が長くなるほど不可逆磁場が低下する傾向が見られている。この系は銅酸化物の Bi 系と同様にテラヘルツ発振源となりうるとの計算結果もあり、ブロック層の厚さが T c 以外の超伝導特性に与える影響にも興味が持たれる。
  今回の新物質群を発見した東大グループによれば、「鉄系超伝導体は酸素やフッ素を含む多元系で複雑な構造、あるいは共有結合的でイオン結晶の考え方が導入できない系などに物質探索の余地が残っており、今回発見した以外の構造や元素の組み合わせもまだまだ存在すると考えられる。また今回発見した構造は超伝導層間距離が非常に大きく、元素置換することで超伝導に限らず自然超格子としての作用が期待できる。」とのことで、今後の展開にも注目したい。なお、これらの詳細は文献 [1~4] などに詳述されているので興味がある方はそちらも参照されたい。 ( 萩の月 )

  [1] H. Ogino et al ., APL 97 (2010) 072506. [2] H. Ogino et al ., APEX 3 (2010) 063103. [3] Y. Shimizu et al ., arXiv:1006.3769. [4] H. Ogino et al ., SuST 23 (2010) 115005.