SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No6, December, 2010


 

新しい鉄系超伝導体 Ca-Fe-Pt-As 系                  _岡山大学_

 


 日本物理学会 2010 年秋季大会 ( 大阪府立大学、 2010 年 9 月 23~26 日 ) と第 23 回超伝導国際会議 ISS 2010( つくばエポカル、 2010 年 11 月 1~2 日 ) において、岡山大学と TRIP-JST のグループが臨界温度 38 K の新しい鉄系超伝導体を報告した。 Ca-Fe-Pt-As の4元素からなる化合物で、化学組成分析から組成式 Ca(Fe 1- x Pt x ) 2- d As 2 が決められている。結晶構造の詳細は明らかにされていないが、 122 型と呼ばれる CaFe 2 As 2 の結晶構造とは異なるという。
  岡山大学の垣谷氏の講演によると、 122 型の CaFe 2 As 2 における Pt の固溶限界は 8% で、 Pt をドープした 122 は超伝導を示さない。固溶限界を超えて Pt ドープを試みたところ、鉄が欠損した新しい相 Ca(Fe 1- x Pt x ) 2- d As 2 が得られたという。最高の臨界温度 38 K は x =0.3, d = 0.4 の組成で得られている。また欠損量が増えると臨界温度は低下する。
  鉄系の超伝導は母物質への化学ドープで発現する。全てのサイトへドープ可能で、ドーパントの選択が適切であれば超伝導が発現する。しかし、超伝導の主役元素である Fe を置換すると臨界温度は低くなってしまう。例えば SmFeAsO 1- x F x の臨界温度 55 K に対して Fe サイトを置換した SmFe 1- x Co x AsO の臨界温度は 15 K である。また 122 型でも、 Ba 1- x K x Fe 2 As 2 の 38 K に対して Ba(Fe 1- x Co x ) 2 As 2 は 24 K である。岡山大学グループの発見は、鉄サイトを置換した系にも関わらず 38 K もの高い臨界温度を実現したもので、鉄系超伝導体の物質開発において新しいルートを示すものと言える。グループを率いる野原氏は「高い臨界温度を理解する鍵は結晶構造にあると思う。現在、放射光 X 線回折による精密構造解析進めている。」とコメントしている。 ( 井蛙 )

 

  図 1 Ca(Fe 1- x Pt x ) 2- d As 2 における電気抵抗率の温度依存性。