SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No5, Octber, 2010


世界初の Y 系線材を用いた超電導変圧器の開発           _九州電力_


  九州電力 ( 株 ) は、「世界初の Y 系超電導線材を用いた電力用超電導変圧器技術の開発」と題するプレスリリース記事をホームページに公開した [1] 。記事によると、世界で初めて Y 系超電導線材を適用した超電導変圧器を開発して短絡性能を実証するとともに、 Y 系超電導変圧器の新たな機能である限流機能 ( ※ 1) についても世界で初めて実証したと言う。
  この超電導変圧器技術を完成させた九州電力総合研究所電力貯蔵技術グループの林秀美グループ長は、「 変圧器は超電導線材を適用すると小型で高効率になる。特に、 Y 系超電導線材は I c が大きく、細線化による損失低減や将来の低コスト化も可能なことから Y 系超電導変圧器の早期実用化が期待されている。配電用変圧器 (66/6.9 kV - 20 MVA) では、 Y 系超電導変圧器は既存油入変圧器より重量は約 1/2 、体積は約 2/3 、損失は約 1/6 になると考えられる。今回の成果で、 Y 系超電導変圧器の実用化に向けて大きく前進できたとともに、事故電流を抑制でき、かつ瞬時電圧低下抑制にも有効な限流機能付超電導変圧器 ( ※ 1) の実用化の可能性が高まった。 」と話す。
  第 1 の成果は短絡性能の実証で、 Y 系超電導変圧器 (400 kVA) にて電力系統の事故時等に発生する短絡電流と、その大電流に伴う強大な電磁力に耐えうる短絡性能を実証したことである。この短絡対策技術で 20 MVA 実用変圧器の技術が検証できるように工夫したのは、最小容量 400 kVA ( 実用器の約 1/50) とし、線材当たりの短絡電流と電磁力を実用器と同等の 389 A にするとともに、 Y 系線材は銀と銅による独自構成の安定化層を適用、線材 (3 層 ) の二次巻線は電流均一化のために転位をしたことにある。それらに基づき、実用変圧器の電圧 ( 一次 / 二次 ) は 66 kV/6.9 kV 、電流は 175 A/1674 A 、線材は 3 本 /24 本の構成に対し、本変圧器仕様は電圧を 6.9 kV/2.3 kV 、電流を 58 A/174 A 、線材を 1 本 /3 本にしたという ( 図 1 左、中 ) 。 また、短絡対策技術の実証として、この変圧器をサブクール液体窒素温度に冷却し、電圧 6.9 kV を 0.2 秒間印加する短絡試験をした。その結果、短絡電流 1040 A( 定格電流 174 A の約 6 倍 ) で良好な性能 ( 図 1 右 ) であり、試験前後の巻線インピーダン ス の測定結果は同等で巻線が健全なことも確認できたとのことである。

 

 

図 1 Y 系超電導変圧器 (400 kVA) 、 ( 左 ) 巻線の外観 ( f 565 mm 、高さ 810 mm) 、 ( 中 ) 変圧器の外観 ( 内部は液体窒素冷却 )( f 738 mm 、高さ 2300 mm) 、 ( 右 ) 短絡試験の結果

 

 第 2 の成果は、 Y 系超電導限流機能付変圧器 (10 kVA) の巻線にて限流機能を実証したことである。この変圧器は通常は変圧器として運用するが、事故時には事故電流で変圧器の超電導巻線が瞬時に常電導へ転移することにより、事故電流と瞬時電圧低下を抑制する限流動作が可能なことを実証したことだという。この限流技術の特長は、通常の変圧器としての機能と事故時は短絡強度に耐えること、事故電流を変圧器超電導巻線の常電導転移で抑制するメカニズムを理論的に解明した巻線条件を適用したことにある。それらに基づく変圧器の仕様として電圧 ( 一次 / 二次 ) は 400 V/400 V 、電流は 25 A/25 A 、巻線は 線材 6 層 ×50 ターンにしたという ( 図 2 左、中 ) 。「実証試験にて変圧器としての通常運転特性の確認し、短絡試験で短絡電流を 1/30(1200 A→43 A) に抑制と瞬時電圧低下も抑制する限流動作特性 ( 図 2 右 ) も確認でき、電力系統の短絡対策や変圧器の革新的なあり方に繋がる画期的な成果が得られ感慨深いとのことである。

 

図 2 Y 系小型限流機能付超電導変圧器 (10 kVA)

変圧器の回路構成


変圧器の構成 (試験回路含む )

限流機能付き変圧器の外観 ( f 200 mm, 高さ 250 mm)

 

限流機能の試験結果 ( 限流効果 + 瞬低対策効果 )

 

 今後の展開について林グループ長は、「従来から変圧器は最も成熟した機器の一つであり超電導の適用による効果は難しいと言われてきたが、今回の成果により Y 系超電導変圧器の実現性や新機能による可能性が高まってきた。また、プロジェクトでの中間目標も達成できた。今後は、現在進行中の本プロジェクトを着実に進め、 2 MVA 超電導変圧器システムの開発と実証を経て、 20 M VA 級配電用超電導変圧器の早期実用化を目指す。」と語る。
  本研究は 新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) から受託して進める「イットリウム系超電導電力機器技術開発」プロジェクトのうち「 Y 系超電導変圧器の技術開発」において、九州大学、 ( 財 ) 国際超電導産業技術研究センター (ISTEC) 、 ( 株 ) フジクラ及び昭和電線ケーブルシステム ( 株 ) と共同で実施されたものである。 ( みらいくんのラボ )

 ( ※ 1) 「限流機能付超電導変圧器」とは、超電導変圧器の超電導巻線を変圧器と限流器として利用する変圧器。各機器を個別に併設するより兼用することで小型となり効率や冷却性などで有利となる。また、電力系統の短絡容量の抑制対策にも大きな効果 ( 機器の電気的、機械的、熱的ストレスの対策が軽減できれば経済性でも有利 ) がある。

【参考文献】 [1]  九州電力ホームペー ジ : http://www.kyuden.co.jp/press_h100819-1.html