SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No5, Octber, 2010


レーザーを使った高感度な磁気光学顕微鏡を開発       _ 阪大レーザー研_


 磁気光学顕微鏡は超伝導体中の磁束分布の観察などに用いられているが、阪大レーザー研ではレーザーを光源とした高感度なレーザービーム走査型の磁気光学 (MO) 顕微鏡の開発を行ったという。詳細は Rev. Sci. Instrum 81 (2010) 13701 に既に報告されているが、特徴として、レーザーを光源として用いることが挙げられ、例えば超伝導デバイスなどの内部のある特定の場所で磁気信号を連続的に検出することが可能であるという。また光の検出を図 1 に示すように差動型の検出器を使って行うことが可能で、これにより磁気検出感度が数マイクロテスラまで向上したという。さらに高感度な測定が必要な際には、磁場変調や光変調を行うことでロックインアンプを使った信号検出も可能であるという。 この特徴の一つである連続的な信号検出技術を利用することにより、磁束量子デバイスなどの光出力インターフェイスにも応用できる可能性があるという。実際、この技術を使って高温超伝導体で作った SQUID デバイス中に発生する単一磁束量子の信号検出にも成功しているという。その結果の一部を図 2 に示しているが、詳細は Appl. Phys. Lett . 95 (2009) 192503 にて発表済みとのことである。ただし、現在のところ電気信号増幅用に用いている差動増幅器の帯域は 30 MHz であり、今後さらに広帯域化も試みるという。
  また、 差動型検出器にしているため信号出力はファラデー回転角、すなわち磁場に直接比例するという。このため従来のクロスニコル方式の磁気光学顕微鏡では不可能だった磁束の向きや大きさを直接反映したデータの取得が可能になったという。図 3 の高温超伝導体ストリップラインに電流を流した際に発生する周辺の磁場分布像が示すように、回転対称の磁場分布が観測されている。また、この差動型検出器構成のため、上述したように磁気的感度がかなり改善され、データの積算や平均化などの処理なしに良質なイメージングを行うことが可能で、図 2 に示す 500 × 500 ピクセルのイメージであれば 1 秒程度で観察可能であるという。 最後に磁場変調や光変調等を行うことにより、ロックインアンプを使ったより高感度なイメージングおよび信号検出が可能であるという。これは従来の CCD を使った 2 次元画像取得法では不可能であり、このシステムではレーザーを光源として個々のピクセルデータを順次読み込むためこのロックイン検出が可能であるという。その一例として、ジョセフソン接合を有する高温超伝導ストリップラインに周波数 40 kHz 、振幅 3 mA の変調電流を流したときに発生する磁場を観察した結果を図 4 に示しているが、従来の直流電流の印加では 100 mA 近くの電流を流さないと観察できなかった磁場分布像が、このように僅かな電流値でも明瞭に観測されている様子がわかる。
  今回構築したシステムについて阪大レーザー研の村上氏によれば、「高速信号検出については数 GHz 程度の帯域なら電気信号としての検出も比較的簡単に行えるだろう。ただし、数 10 GHz 以上になると電気的に増幅するのが困難なため、光信号自体を大きくする工夫が必要である。たとえば磁束量子デバイスなどでは、デバイスの構造やサイズを工夫して単一磁束量子が発生する磁場強度自体を大きくすることなどが必要である。また、イメージングの際の速度に関しては、平均化などの処理は一切行わずに数マイクロテスラの感度を達成することは可能なため、今後光スキャナを共振タイプのものに変更するなどすれば、ビデオフレームレート程度での高速イメージングも可能になるであろう。」とのこと、今後の装置の改善に期待したい。 ( モゾ吉 )

 

図 1 レーザービーム走査型磁気光学顕微鏡システム

 

図 2 YBCO ストリップラインに電流を印加した際に発生する磁場分布。 (a) 電流 1 A 、 (b) 電流 3 A 印加時。 (c) 各挿入ラインに沿った磁場分布。

 

図 3 (a)YBCO- ジョセフソン・ボルテックスフロー型トランジスタ。 (b) コントロール電流をパルス的に流した時の SQUID ループ内の磁気光学シグナル。

 

図 4 周波数 40 kHz 、振幅 3 mA の交流変調電流を印加した際に観測された周辺磁場分布。

 

 

【参考文献】

•  H. Murakami, K. Ueno, I. Kawayama, M. Tonouchi, “Development of a prototype laser magneto-optical imaging system” Supercond. Sci. Technol . 19 (2006) 941.

•  H. Murakami, R. Kitamura, I. Kawayama, M. Tonouchi, “Magneto-optical detection of single flux quantum signals in superconducting quantum interference device” Appl. Phys. Lett . 95 (2009) 192503

•  H. Murakami, M. Tonouchi, “ High-sensitive Scanning Laser Magneto-Optical Imaging System” Rev. Sci. Instrum . 81 (2010) 13701.