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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No4, August, 2010

＜会議報告＞

《 磁場を用いた物質挙動制御技術に関する調査研究会 (22 年度第 1 回 ) 》

　2010 年 8 月 2 日、平成 22 年度低温工学協会「磁場を用いた物質挙動制御技術に関する調査研究会」第一回調査研究会が大阪大学吹田キャンパスにて開催された。講演講師として渡會仁氏 ( 大阪大学・教授 ) 、前之園信也氏 ( 北陸先端科学技術大・准教授 ) および中川貴氏 ( 大阪大学・准教授 ) を招き各氏の最近の研究成果について話題提供があった。以下に講演概要について報告する。

　最初に、渡會仁氏より、「磁場を利用する新しいマイクロ分析法の開発」について話題提供があった。まず、磁気的性質に起因して物質に作用する磁気力や、静電力、電磁力など微小作用力を組み合わせたミクロレベルの分離・分析手法の開発について紹介された。磁場や電場を印加した環境で、微粒子の挙動を顕微的に観測することで、化学的な結合力の評価や、伝導度、誘電率、屈折率、磁化率、質量などの各種物性を計測することができる。講演では、赤血球やラウリル酸の磁化率決定や、磁化率計測を利用した 2 相系の界面に存在する物質量の定量、磁気的性質が既知の物質の質量分析などについてその詳細が示された。また、物質分離の方法として、流れの中で磁気力により同一物質の粒子がトラップされる力が体積に依存することを利用して分級を行なう方法や、平板と凸面の間にできたスペースが場所によってサイズが異なることを利用して、蒸発や電気泳動により粒子をそれぞれの径に対応する位置でトラップすることで物質の種類によらず分級する手法などが紹介された。この他にも、一端を容器壁面等に固定した特定の分子に粒子を結合させ、粒子にローレンツ力を作用させることを通して分子に力を与え、シス－トランスのコンフォメーションを制御したり、結合力を計測したりする応用例についても述べられた。数多くの分離・分析手法が紹介されたが、微小作用力の組み合わせと利用の方法次第では、まだまだ多くの応用が期待されるという。
　次に「磁性ナノ粒子のバイオ医療分野での活用」について、前之園信也氏より話題提供があった。これまで、磁気医療技術は酸化鉄微粒子を用いて研究開発が進められてきた。より優れた磁気特性（特により高い飽和磁化）を有する磁性ナノ粒子を利用することで、磁気医療に大幅な進展をもたらす可能性がある。特に、近年、粒径 10 nm 以下の単分散な合金系磁性ナノ粒子を容易に化学合成することができるようになってきており、それらの合金系磁性ナノ粒子の結晶構造は面心立方 (f cc ) 構造で超常磁性体であるため、医療分野での活用には大きな期待がかけられている。このため、新たな、高い飽和磁化を有する磁性ナノ粒子の開発を行っている。
　まず、 FePt ナノ粒子の合成と親水化についての話題があった。生体への応用を考える場合、粒子表面が親水性である必要がある。表面修飾を行うことにより、疎水性の粒子表面を親水化することに成功した。有機溶媒と水が二層になっている溶媒中で、表面が疎水性を示している粒子は有機溶媒中に分散しているが、表面を親水化した場合は水中に分散するようになった。
また、 FePt ナノ粒子の飽和磁化は表面配位子の影響によってバルク結晶の値よりも大幅に低下することが認められている。 FePt ナノ粒子の表面修飾を工夫 ( 1- オクタンチオール又は 1- ドデカンチオールでキャップする ) することにより飽和磁化の低下が抑制された超常磁性 FePt ナノ粒子を開発することに成功している。
　これら磁性ナノ粒子の具体的応用として MRI 造影剤、細胞内での超伝導磁気分離、磁気温熱療法への可能性について言及した。さらに、磁性ナノ粒子を医療応用するにあたっては安全性の評価が必須であり、合金系磁性ナノ粒子の生体安全性については全く未知である。このため FePt ナノ粒子について遺伝毒性の評価を Ames 試験にて行い、その結果について報告した。 2-aminoethanethiol ( AET ) でおおわれる FePt ナノ粒子の遺伝子毒性は、見出せなかった。しかしながら、 in vitro の染色体異常テストでは擬陽性であった。このため、磁性ナノ粒子の毒性についてはまだまだ不明な点が多く、さらに詳細なテストが必要であるとの結論であった。
　最後に、大阪大学　中川貴氏より「交流磁場による局所加熱～磁気ハイパーサーミアの実現に向けて～」と題し、がん部位だけを高周波磁場で加熱することで死滅させる「磁気ハイパーサーミア」療法資する磁性物質を中心とした発熱体開発や磁場発生用コイル開発に関する話題提供が行われた。まず、導入として磁気ハイパーサーミアの原理、これに用いる高周波磁場と磁性体の発熱原理について説明がなされた。上述の前之園氏の講演でも言及があったが、ハイパーサーミア療法は加温によるがん細胞の死滅を利用した治療法であるが、正常細胞も同時に加温されると正常組織の死滅も伴う、といった弊害が存在する。一方で、がん部位は未発達の血管が多く熱が蓄積しやすいため、がん部位だけに発熱体を埋め込むことができれば周りの正常細胞を死滅させることなくがん部位だけを死滅させられる画期的な治療法となるという。また、この発熱現象を数十 Oe ・数十～数百 kHz の実現可能な高周波磁場領域で実現し、且つ発熱の温度を制御することが磁気ハイパーサーミア実用化に科された技術的課題となっている。
　話題は高周波磁場に応答する発熱体の開発に移った。中川氏は、この開発に向けて大まかに 4 つの材料に着目した。すなわち、①超常磁性ナノ粒子にしたマグネタイト、②金属的性質を有する強磁性物質である鉄、③生体親和性を有する金属であるチタン、④自己温度制御系発熱体としてのマンガン酸化物、である。高周波磁場による発熱は導電性物質における渦電流損失と強磁性物質におけるヒステリシス損失もしくは Neel 緩和による損失で起こる。①～③のいずれにおいても高周波磁場の印加によって実際に発熱が起こることを確認している。一方、課題および解決策として①ではナノ粒子の粒径が発熱特性に影響を与え、 15 nm 程度の粒径に制御する必要があること、②では生体親和性の悪い鉄を Au メッキすることで利用できる可能性があること、③では、良好な発熱特性を得るには 30 Oe ・ 700 kHz 以上の高周波磁場が必要となること、ことを指摘した。④では、キュリー点を 42°C 程度にもつ物質を選択すると、キュリー点よりも高温になると強磁性に由来する損失が消失し発熱しない発熱体となる。銅で一部固溶したペロブスカイト系マンガン酸化物はこの温度領域にキュリー点をもつことを見出し、実際の発熱特性も目論見どおりとなったとのことである。
　当調査研究会は今年度より発足し、磁気科学全般の動向調査を行い磁気科学の進展および必要な磁場発生技術情報を低温工学協会にフィードバックすることを主たる目的としている。第一回研究会では、分析技術および医療技術への磁場利用およびその支える材料科学が着実に進化を遂げていることを強く印象付ける研究会となった。( 大阪大学　西嶋茂宏、物材機構　廣田憲之、高知工大　堀井滋 )