SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No4, August, 2010


日本初の実系統ケーブル試験の実施予定地、東京電力旭変電所を取材  _SUPERCOM事務局_


 スーパーコム事務局は、本年4月号に掲載した熊取試験場(住友電工)における30 mケーブルを用いた事前検証試験の取材に続いて、NEDO高温超電導ケーブル実証プロジェクトの本舞台となる東京電力旭変電所の取材を炎天の8月11日に敢行した。このプロジェクトは東京電力−住友電工−前川製作所が共同で進めているもので、平成23年11月に実系統に接続、その後1年間運転することが予定されている。
  旭変電所は横浜市鶴見区北西部の内陸にあり、最寄り駅の東急東横線の綱島駅からバスで15分くらい、さらに徒歩3~4分で着く。ここでは154 kVで受電した電気を主に66 kVに変圧する作業が行われている。電力会社の送配電設備は一般に公開されない性質のものであるが、同じクラスの変電所は神奈川県内だけでも非常に多く存在することである。ちなみに東京都心部では変電所らしきものをあまり見かけないが、地下に多数あるらしい。数多くある東京電力の変電所のなかで、ケーブル容量面、適当な空きスペースといった観点から総合的に旭変電所を試験場所に選定したとのことである。
  旭変電所全体の敷地を図 1 に太い実線で示したが、東西 300 m 弱、南北約 100 m のほぼ長方形であり、東側に稼働中の変電設備、西側には鉄塔等がある。その間の点線で囲った部分が今回の実証試験用地で、 A で示した正門とは別に B の場所に側壁を壊して本試験専用の資材搬入口が設けられている。図 2 はこの試験用地内の配置予定図である。図 2 の左下、端末基礎の場所で太い線で表した超電導ケーブルに接続し、ジョイント部、埋設部を含む約 250 m の経路を経て再び端末基礎に戻ってくる配置で、図 2 の右端の折り返し部分は敷地の都合上、半径約 5 m の急カーブである。超電導ケーブルは 66 kV, 200 MVA 級、三心一括型、 150 mm f の管路に収容できるもので、住友電工社が自社のビスマス系線材を用いて製作する。液体窒素は冷却システム建屋に置かれた冷凍機 (1 kW, 6 台 ) で冷却され、端末基礎部に送り込まれケーブル内を通って戻ってくる。液体窒素の温度管理は計測室で行われる。このほか、左端の現場事務所は、工事終了後に見学会などの際の会議室に用いられるとのことである。図 3 には試験用地内の写真を示したが、ちょうどこれらの施設の基礎工事が始まったところであった。
  この長期にわたる実証試験においての検証項目は、実系統への接続技術、システム構成の検討、負荷変動への冷却システムの追随性、運転監視方法、保守方法の検証などである。超電導ケーブルの容量が予想される通電量に対して十分に大きいことと、ビスマス系線材の温度上昇に対する臨界電流の低下率が小さいことから、超電導ケーブルの長期通電には問題は無いと思われ、むしろ未経験の大容量導体の冷却システムがどのような性能を示すかが注目される。そこで次号では本プロジェクトで冷却システムを担当する前川製作所の取材記事を掲載する予定である。
  日本で初めて高温超電導ケーブルを通じた電気が電力網をめぐり始める予定は 23 年 11 月、奇しくもその翌月には東京スカイツリーが竣工する予定である。後者は既に大衆の観光名所になっているが、前者も超電導・低温工学関係者、電力事業関係者にとどまらない大衆に未来の夢を抱かせるプロジェクトとして順調に進捗することを祈りたい。
  最後に、本取材にご協力いただきました東京電力 技術開発研究所 超電導技術グループの本庄昇一様、三村智男様、市川裕士様、特に詳細な説明や様々な質問に答えていただきました三村様に感謝申し上げます。 (SUPERCOM 事務局取材班 )

    

  試験用地内の様子。 ケーブルが写真奥に延び、折り返して戻って来る予定地、

 

         手前、計測室、奥、冷却システム建屋の建設現場、

 

 

 

              現場事務所予定地