SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No4, August, 2010


革新的ビスマス系高温超電導線 「 DI-BSCCOR 」の 実用化進展    _ 住友電気工業_


  住友電気工業株式会社では加圧焼成法を用いたビスマス系高温超電導超電導線「 DI-BSCCOR 」の製造、販売を行っているが、工業製品としての長尺製品の開発が進展すると共に、各種応用製品への採用が進んでいる。
  図 1 に標準的な線材製品のラインナップを示す。 Type H が高電流密度型の最も標準的な線材である。 Type AC は平行磁場下の交流損失の低減に有効であり、来年度から東京電力管内の旭変電所で日本発の系統連係試験が行われる超電導ケーブルにも一部採用される予定である。 Type G は、金属系の冷凍機冷却マグネットでは必須の低熱侵入の電流リード用に有効であり、核融合分野での採用の検討も進んでいる。高強度化が必要な場合は、これらの bare テープにステンレステープや銅合金テープをラミネートしている。線材長さもこれまでは、 1 km 程度までであったが、最長で 2 km の線材も得られるようになった。長尺線材のデータ例としては、 I c = 176 A(77 K 、自己磁場、以下 I c 、 J c は同じ測定条件 ) × 2,084 m = 368 kAm 、が I c × L の最高値であり、 I c = 200 A で 1 km を越え、 1,194 m 長の線材などが得られるようになった。
  また研究レベルの短尺線としては、複数の手法で 230 A を越える I c や、 J c としてこれまでで最高の 708 A/mm 2 も得られている。線材のミクロな性能分布評価からも、線材中央の J c は 900 A/mm 2 に達していることが判明し、 Type H 線材で 250 A ~300 A がいよいよ視野に入るとともに、ラインナップにある標準製品では低コスト化の進展も期待される。

 

         図 1  線材仕様 (Bare テープ ) と I c の長手方向分布の例

高温超電導応用製品開発の分野では、 D I-BSCCOR の長尺均一性、製造能力等が広く認められるようになり、世界各国の応用製品開発への採用が進んでいる。
  ロシアでは、 DI-BSCCOR が採用された超電導電力ケーブルの実証試験が昨年 12 月にロシア・モスクワ市で行われ、ヨーロッパでは最大となる長さ 200 m 、定格電圧 20 kV 、容量 50 MVA の送電に成功し、ケーブルを開発した VNIIKP 社は DI-BSCCOR を高く評価している。現在 VNIIKP 社ではこの 200 m ケーブルに対して広範な追加試験が行われており、 2011 年に予定されている電力実系統試験の敷設に向けて準備が順調に進められている。敷設候補地としては、モスクワ電力管内のディナモ変電所が検討されているところである。
  DI-BSCCOR については、 I c や n 値の温度 - 磁場依存性などの基本的な特性だけでなく、ヤング率などの機械特性、比熱や熱伝導度などの熱特性等広範なデータが集められデータベース化が進んでいる。これらのデータは、電磁界解析及び解析ソフトのリーディングサプライヤ− Cobham Technical Service 社に提供され、 Cobham 社の 3 次元電磁界解析プログラム「 Opera-3D 」の一つである「 Quench 」において、 DI-BSCCOR を採用した場合の設計シミュレーションを正確かつ容易に行うことができるようになった。これによって世界の超電導応用製品技術者の設計シミュレーションの簡易化に貢献するとともに、 DI-BSCCOR を用いた新たなアプリケーションの創出が期待される。 ( ビス子 )