SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No3, June, 2010


<会議報告>

International Conference on Superconductivity and Magnetism 2010


 2010 年 4 月 25〜30 日の日程で、トルコ・アンタルヤにおいて International Conference on Superconductivity and Magnetism 2010 (ICSM-2010) が開催された。この会議はアンカラ大学の Prof. Ali GENCER らが中心となってトルコで開催しているもので、今回は 2008 年に引き続き 2 回目の開催となる。また、会議に先立って、 20-25 日には spring school も併催された。 直前にアイスランドの火山噴火のため空の便が混乱した影響で欠席者がやや目立ったものの、会議全体では 52 カ国から約 650 名の参加者があるなど盛況であった。また開催地がトルコということで、トルコ本国のみならず北アフリカや中東など、米国・欧州・日本へ学会参加が多くない国々からの参加者も目を引いた。開催地・ アンタルヤが地中海沿岸の有数のリゾート地ということもあり、会場となるホテルの前にビーチが広がる絶好の環境で、クルージングツアー などエクスカージョンも充実していた。会議の内容としては超伝導と磁性が二本柱となっており、具体的なセッションとしては、超伝導は鉄系超伝導を始めとして強相関電子系・超伝導理論・ MgB 2 や線材、磁性についてはスピントロニクスや強磁性体・分子 / ナノ磁性など様々な領域をカバーするものであった。これらそれぞれのトピックについて、月曜から金曜まで 7 つものパラレルセッションに分かれて活発な議論が行われた。具体的な講演内容について、鉄系超伝導体及び MgB 2 のセッションを中心に報告する。
  鉄系超伝導体は 3 日間に渡るセッションが開催されこの会議でも最も多くの時間が割かれており、会議の中心的なテーマとなっていた。まず米 University of Wisconsin の Chubukov より最近の鉄系超伝導体全体についての現状が報告された。米 Ames Lab. の Tanatar らによって、 Co ドープ BaFe 2 As 2 の異方性についての発表がなされた。常伝導状態・超伝導状態それぞれの異方性について、輸送特性・熱伝導率測定などからの議論がなされた。京都大の石田らは、 LaFeAs(O,F) 及び BaFe 2 (As,P) 2 の NMR 測定について報告し、これら 2 種類の物質における反強磁性秩序と超伝導状態が大きく違う点について考察した。なお、 BaFe 2 (As,P) 2 については良質な単結晶が得られることから、この他にも京大芝内らによる磁場侵入長及び熱伝導率測定、 Ecole Polytechnique の Konczykowski による重イオン照射によるピニング特性の評価など様々な発表がなされた。フロリダ州立大の Gurevich らは主に 1111 系の物質について、不純物や超伝導電子対対称性の H c 2 に与える影響、 a 線照射効果や粒界の影響などについて報告があった。このほか、独 IFW のグループや伊 CNR/INFM の Ferdeghini らによる薄膜作製、独 Max Plank Institute の Lin やスイス ETH の Karpinski らによる単結晶作製、中国科学院の Ma や独 Leibniz Institute の Grinenko らによる臨界電流特性に関する発表など、幅広い分野の講演が行われた。
  一方 MgB 2 セッションでは最初の招待講演で熊倉氏 (NIMS) より「 Development of high performance MgB 2 tapes and wires 」というタイトルで、最近の NIMS のパウダーインチューブ法線材、拡散法線材の開発と、臨界電流特性、微細組織に関する報告があった。内部拡散法による MgB 2 コアの高密度化や、 in-situ 法線材へのホットプレス処理により J c の向上が得られたと報告した。続いて米オハイオ州立大の Collings 氏により「 Formation, flux pinning, connectivity, and the evolution of structural and superconducting properties with heat treatment time in in-situ-C-doped MgB 2 」という題で、同大が米ハイパーテック社と進めている in-situ 法 MgB 2 線材の高特性化に関する研究開発の現状が報告された。また Dou 氏 ( 豪ウーロンゴン大 ) から不純物ドープ効果について、 Flukiger 氏 ( スイス ジュネーブ大 ) から CHPD (cold high pressure densified) 法による高密度化と J c 改善について報告があったほか、独ドレスデンのグループからメカニカルミルを用いた高特性化に関する報告が複数なされた。ポスターセッションではトルコのグループからの発表が目立った。( 東京大学 荻野 拓、山本明保 )