SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No3, June, 2010


<会議報告>

《 2010 春季低温工学・超電導学会 (2010/5/12-14) 報告》


Y PLD 線材】

 住友電工の阿比留らは新規に導入した 300 W の高出力レーザ発振器による PLD プロセスについて紹介した。導入したのは産業用 KrF エキシマレーザで、動作確認をしたところ 300 W のフルパワーでも 10 時間以上安定して発振可能であったという。同社が開発している 30 mm 幅の低磁性クラッド基板上に GdBCO 超電導層を成膜したところ、従来の 200 W レーザの場合と比べて成膜レートが 1.75 倍向上し、 I c も 1.5 倍程度向上していた。さらに、 1-pass 速度を従来の 12 m / h に対し倍の 24 m / h としたところ、 8 層成膜で膜厚は 2.8 m m となり、中央部 10 mm 幅部分では 400 A / cm の I c が得られていた。また、同グループの新海らはこのように作製した 30 mm 幅線材をケーブル用として 2 mm 幅にスリット加工して特性を評価し、 I c = 40 ~ 50 A で均一な長手方向の特性を実証していた。今後は成膜条件の最適化により、幅方向の特性分布の低減と更なる高速化を図っていく方針とのこと。
  フジクラの五十嵐らは線材の高 I c 化と製造歩留りの向上について報告した。一般的に Y 系線材では、超電導層の膜厚を増大させると結晶の乱れなどにより表層部の J c 特性が低下するため全体の I c としては飽和する傾向にあるが、同グループでは成膜温度などを厳密に制御することで厚膜での高 I c 化に成功しており、 GdBCO 膜厚 4.8 m m の 10 m 長試作線材において約 800 A / cm という非常に高い特性を実現していた。また、基板の洗浄を強化してコンタミの混入を抑制することで製造歩留りも向上しており、最近では 300 m 長で I c ~500 A / cm 級の均一な長尺線材を PLD の製造速度 26.6 m / h で作製できるようになってきているという。ユーザー側の要求する様々なスペックに答えていく構えだ。
  ISTEC の筑本らは、ターゲットと基板間の距離を短くして成膜する in-plume PLD 法の開発進捗について報告した。マルチターンのターン数を 5 から 6 にすることで収率が向上し、 I c ~200 A / cm 級の線材を製造速度 80 m / h で得られるようになってきているという。また、 in-plume PLD 法で作製した線材は磁場印加角度に応じて特徴的なふるまいを示しており、 TEM 観察の結果から積層欠陥に起因している可能性を示した。その他、 Gd の 123 系は Y に比べて低温 (150°C あたりから ) で酸素応答があるため、アニールやはんだ付けなどの作業で高温にする場合は注意が必要と警鐘していた。
  名古屋大の一野らはコンビナトリアル Nd:YAG-PLD 法という新しい手法での実験を試みていた。コンビナトリアルとは組合せという意味で、主に製薬の分野で一度に多くの種類の化合物を微量合成してまとめて評価する手法として活用されている。この手法を PLD 法に応用し、一枚の基板上に BaSnO 3 (BSO) や Ca の添加量を 0~ 数 wt% まで連続的に変化させた YBCO 膜の作製に成功し、最適添加量を評価していた。その結果、 BSO に関しては添加量増加に伴い c 軸長が系統的に増加し、不可逆磁場曲線の傾きから 4.5 wt% 添加あたりが最適であることを示していた。一方、 Ca に関しては 1.5% 添加あたりで J c 改善が見られ、以前からよく言われている粒界特性の改善に起因するのではないかと提唱していた。( フジクラ 五十嵐 光則 )

 

Y MOD 線材

 産総研の山崎らは、市販されている共蒸着法 YBCO 薄膜 (THEVA 社製 ) 、 MOCVD 法テープ (SuperPower 社製 ) 及びフッ素フリー MOD 法により成膜された YBCO 薄膜、各々の J c 磁界角度依存性を調査し、磁束ピン止めの種類について議論を行なった。ピン止めの種類は微細ナノ析出物と積層欠陥周辺部の転移に大別され、フッ素フリー MOD 薄膜では転位による線状ピンが働いていると報告した。
  昭和電線の小泉らは、 TFA-MOD 法 YBCO 線材の開発状況について報告した。 2008 年 11 月から量産試作を行なっており、総長 5.8 km の線材を提供し、その歩留りは約 70 % であったと報告した。また、量産化に加え、線材の低コスト化に向け、低コスト基板 (MgO/IBAD 基板 ) を用いた、線材開発状況についても報告し、 20 m 級線材において、従来の基板 (GZO/IBAD 基板 ) とほぼ同等の特性が得られたと報告した。
  ISTEC-SRL の吉積らは、 YGdBCO 溶液中に Zr 塩を添加した原料溶液を用い、 BaZrO 3 ナノ粒子を分散させた試料を作製し、その添加効果について報告した。原料溶液中の Zr 塩濃度の増加に伴い磁場中特性が向上し、 Zr 塩 3 wt% 添加の試料において、 77 K 、 3 T 中で、 I c(min) = 14.1 A ( 超電導層厚 0.9 m m 、幅 10 mm) が得られたと報告した。更なる特性改善を図るため、 Zr 塩添加量の最適化に加え、 YGdBCO 及び BaZrO 3 各々共通に含まれる Ba についても組成の最適化が必要であるとした。
  九工大の鯉田らは、 BaZrO 3 ナノ粒子を分散させた YGdBCO 線材の J c 磁界角度依存性を調査し、 BaZrO 3 が J c に及ぼす影響について報告した。 BaZrO 3 のピンニングが磁場中の J c 向上に寄与し、特に c 軸方向から磁場を印加した場合において、ピン力が最大となるとのことであった。また、膜厚の増加に伴い、 BaZrO 3 の導入効果が大きくなるとした。その理由の 1 つとして、ピンの次元性が 3 次元的であると考察した。
  住友電工の大木らは、低磁性クラッドタイプ配向基板の開発状況について報告した。開発を行なった配向基板は SUS を基材とし、 Cu 箔とクラッド後、配向した Cu 層上に メッキ法により Ni をエピタキシャル成長させたものである。表面粗度については、粒内の Ra は 10 nm 以下であったものの、粒間の粗度については改善が必要であるとのことであった。また、配向性については、 Ni 層、 Cu 層共に 2 軸配向を確認し、 Ni 層は D f ~4.5° であった。しかしながら、金属基板上の中間層の D f が低下していることから、粒間の粗度の改善と共に今後の課題とした。
  本セッションは、 MOD 法 Y 系線材に絞られたものであったが、長尺化や磁場特性改善、低コスト化へのアプローチ等、実用化に向けた研究成果の報告が大半を占めていた。今後さらに、実用化に近づく研究成果に期待する。( 昭和電線ケーブルシステム  小泉 勉 )

 

A15 型線材】

A15 型線材に関する発表では、 Nb 3 Sn および Nb 3 Al のセッションでそれぞれ 5 件ずつ、計 10 件の発表があった。 Nb 3 Sn のセッションでは 5 件のうち 3 件はひずみ特性に関わる内容で、依然としてひずみ特性への関心が高いことが感じられた。また Nb 3 Al のセッションでは、材料反応特性や合金添加などの基礎学問的内容と、新しい安定化方法や熱的安定性、加速器応用に関する実用化研究に関するものとがあり、実用化へ向けて少しずつではあるが前進の兆しを見せている。以下、発表ごとに簡単に報告する。
  まず東北大の高橋氏より中性子回折を用いた Nb 3 Sn バンドル試料のひずみ特性の話があった。 J-PARC の回折装置「匠」を用いた実験に関する発表で、今回事前曲げ処理による残留ひずみの緩和、特に横方向の場合はより圧縮側に、長手方向には引張り側にまで変化しているというこれまでと異なる興味深い結果などが報告された。
  茨城大の小黒氏からは、同じく「匠」を用いて、ブロンズ法 Nb 3 Sn 線材以外の線材として、今回内部スズ法線材の残留ひずみ特性が報告された。中性子回折パターンの中に Cu-Sn 合金の大きなピークが確認され、線材中に Sn が残存していること、また Nb はほとんど残っていないことが示された。また残留ひずみに関してはブロンズ法線材と大きな違いはないことが報告された。
  NIFS の高畑氏からは、「 React & Jacket 法」と呼ばれる、アルミニウム合金を Nb 3 Sn 生成熱処理後にジャケッティングする新しい導体化について報告があった。ステンレスコンジットとの同時熱処理による 0.7% 近い残留ひずみを軽減することが最大の目的である。ジャケッティングによる特性の劣化は確認されなかった。質疑の中で線材間の密着性を確保するのに使われるインジウムのコスト性などの議論があった。
  大阪合金の谷口氏からは 18.5 wt% の高 Sn ブロンズの熱間鍛錬についての報告があった。 Ti の添加により、粗大な d 相の代わりに微細な CuSnTi 相を析出させることがポイントであり、熱間鍛錬によって引張試験の絞り値を大幅に改善できたことが報告された。
  東海大の安藤氏からは Sn 基合金 (Sn-Ta 、 Sn-B 、 Sn-Nb) シートを用いた Nb 3 Sn 線材の組織と特性について報告があった。 Sn-Nb 系で最も高い B c2 が得られたと報告された。また化合物相内で結晶粒は等方的であり径方向にも粒径が揃っているなどの議論があった。
  また Nb 3 Al に関しては、まず NIMS の伴野氏から Nb-Al 系における第二急熱急冷処理と組成の影響について報告された。平衡状態図上では、本来存在しない 25 at%Al の BCC 相の凍結については、 BCC 相から A15 相に相変態する際に生じる変態熱の考え方から、急熱急冷時に内部エネルギーの増大に伴って、 A15 相から化学量論組成の BCC 相へと逆変態するというアイディアが報告された。
  NIMS の竹内氏からは、 Nb 3 Al 相の特性改善のため、 BCC 相をより安定させて高温で Nb 3 Al 相への相変態を誘導する“ BCC 安定化元素”添加のイントロダクション的報告があった。
  NIMS の伴野氏からもう一件、過飽和固溶体再スタック法 ( リスタック法 ) と呼ばれる、引き抜き加工のみで安定化銅を付与する線材化手法について、これまでの長尺化の試みと今後の展望について報告があった。銅管の洗浄方法の改善と組込み本数の低減により無断線で 40 m の線材製作に成功した。今のところ総長は短いが、無断線加工できた点は今後の長尺化にとって大きい。
  原子力機構の小泉氏からは、 Nb 3 Al CIC 導体の強制冷却運転での安定性試験の結果が報告された。ひずみに対する臨界電流の劣化が非常に小さいという Nb 3 Al 線材のメリットが指摘され、実証炉への応用を目指している。今回の結果では、外部安定化 Nb 3 Al 線材の安定性優度は、通常の CIC 導体と同程度の値となり、外部安定化銅が安定化材として十分機能していることがわかった。これにより実証炉への適用性に目途を立てた。
  最後に NIMS の菊池氏から、加速器応用を目指した Nb 3 Al 線材の開発状況が報告された。報告の中で、伸線材の歩留まり向上や特性の均一性において、マトリクス材料の伸び特性や線径の均一性などの問題点が指摘された。 ( 物質・材料研究機構 伴野 信哉 )

 

【システム応用】

 システムに関係する発表としては、セッション数の多い方からあげると、「磁気分離」と「送電ケーブル」のセッションがそれぞれ3つずつ。「静止器」、「超電導応用」、「加速器」、「核融合」、「 HTS コイル」のセッションがそれぞれ2つずつ。その他に単独で「 ITER 」、「 JT-60 」、「回転機/変圧器」、「磁気誘導」、「 NMR/MgB 2 コイル」や特別セッションとして「 S −イノベ」が開催された。
  「静止器」に関しては、 SMES ( 超電導エネルギー貯蔵装置) と変圧器に関する発表が 3 件ずつあった。この中で、鹿児島大の牧原らは瞬低 SMES 用伝導冷却型パルスコイルに MgB 2 線材を用いたコイルの設計を行い、 NbTi 線材を用いた場合と同程度の伝導冷却型パルスコイルの実現が可能なことを報告した。
  「磁気分離」に関しては、合計 14 件と多くの発表があった。その中で超電導機器に関する言及があるのは 3 件のみで、これ以外は主に磁場中での磁気分離処理技術そのものを主題とした発表であった。
  「送電ケーブル」に関しても合計 13 件と発表件数は多かったが、内訳は Y 系線材を用いた交流送電ケーブルの研究に関する報告が 7 件、中部大学グループの Bi 線材を用いた直流送電ケーブルの研究に関する発表が 4 件であった。
  「超電導応用」のセッションでは、東北大の佐々木らが、超電導バルク体と永久磁石レールを用いた超電導免震装置に渦電流ダンパーを追加した場合の振動伝達特性と減衰特性について報告した。今後、ダンピングと免震の両立を目指した検討を行うそうである。また、産総研の海保らは、超電導コイルで発生する電磁力を利用した人工震源開発の一環としてイットリウム系線材を用いたパンケーキ型コイルの安定性に関する検討を紹介した。この他に、神戸大の武田らは、クリーンな海洋エネルギーに注目して進めている海流 MHD( 電磁流体力学 ) 発電に関する報告を行った。これは海水の運動エネルギーを電気エネルギーに変換するものであるが、今回は流体損失の計算モデルを構築するための実験を行い、実験結果と計算値との違いについて考察した。
  「 ITER ( 国際熱核融合実験炉 ) 」のセッションでは、全報告が日本 ( 原子力機構 ) が調達を担当するトロイダル磁場コイルに関するものであり、超電導導体の調達から品質管理、コイルの試作、構造物の溶接技術の検証まで幅広い内容が報告された。関連して「 JT-60 ( 臨界プラズマ試験装置 = JAERI Tokamak-60) 」のセッションでは、 ITER 計画と並行して日欧で共同実施している JT-60SA(Super Advanced) 計画について報告があり、原子力機構及び NIFS から、平衡磁場コイル用超電導導体の評価および冷凍系の設計等について紹介された。
  「回転機/変圧器」のセッションでは、京大の中村らが、液体水素ポンプ用モータとして開発している MgB 2 線材を回転子巻線とした超電導かご型誘導機の基礎的負荷特性について報告した。また、同じく京大の中村は上記とは別の研究グループにおいて進められている、「次世代車載用高温超電導誘導同期機」開発について報告した。トヨタ自動車の第二世代ハイブリッド車に搭載されている永久磁石モータと同じ体格の高温超電導誘導同期機についてトルク密度の数値解析を行い、トルク密度が解析対象の永久磁石モータに比べて飛躍的に向上すると同時に、永久磁石モータで必要であったギヤが不要となってダイレクトドライブの実現可能性があることを示した。鉄道総研の清野らは、超電導フライホイール蓄電装置用に、超電導コイルと超電導バルク体を組み合わせた超電導磁気軸受を製作したこと、またこの軸受を用いて 20 kN のスラスト荷重負荷を支持しながら最高回転数 3600 rpm までの回転試験 ( 蓄積エネルギー 3.3 kWh に相当 ) を実施したことなどを報告した。
  「 HTS コイル」のセッションで 9 件中 6 件がイットリウム系あるいは希土類系線材によるコイルの報告であった。鉄道総研の長嶋らは、イットリウム系線材のレーストラック型コイルと機械式スイッチを内蔵した「モバイルマグネット」の紹介を行った。コイル温度 20 K から 50 K までの熱容量を有効利用することによって 1 テスラ近くの磁場を数時間、電源及び冷凍機無しに発生できるシステムで、高温超電導磁石の特性を活かした新しい応用の可能性を示した。 東芝の宮崎らはイットリウム系コイルの熱暴走試験を行い、解析と実験結果が定量的に一致することから、熱暴走電流を予測できるようになったことを報告した。同じく東芝の宮崎らは 4 T の外部磁場中でイットリウム系含浸コイルの通電試験を行い、このコイルが線材単体の引っ張り強度に相当するフープ力に耐えられることを示した。さらに同じ東芝グループの岩井らは、 4 つのイットリウム系線材のパンケーキコイルを使って積層コイルを製作し、冷凍機による伝導冷却下での通電特性を確認したところ、 20 K において 30 以上の n 値を示し、中心磁場で 1.5 T 、最大経験磁場で 2.2 T の発生に成功したことを報告し、イットリウム系コイルの実用可能性を示した。また、京大の中村らは深宇宙探査用の高効率推進機候補である磁気プラズマセイル用マグネットの設計のために実施した、イットリウム系コイル電流輸送特性の基礎検討について報告した。聴講当時はかなり先の話のような印象を受けていたものの、昨今話題のソーラー電力セイル実証機「 IKAROS 」の話を聞いていると、意外と地上での応用より早く、巨大な超電導コイルが宇宙を飛行する日が来るのではないかと思えてきた。
  最後に特別セッション 「 S −イノベ」について紹介する。 JST( 科学技術推進機構 ) の新制度「産学イノベーション加速事業 戦略的イノベーション創出推進 ( 略称: S −イノベ ) として採択された、「超伝導システムによる先進エネルギー・エレクトロニクス産業の創出」の PO( プログラムオフィサー ) の JST/ 住友電工の佐藤より、研究開発テーマの概要についての紹介があった後に、これに属する 5 つの研究課題の PM( プロジェクトマネージャー ) などから研究内容についての紹介があった。日立の神鳥は「高温超伝導 SQUID を用いた先端バイオ・非破壊センシング技術の開発」、東京海洋大の和泉は「大出力超伝導回転機器に向けたキーハードの開発」、京大の雨宮は「高温超伝導を用いた高機能・高効率・小型加速器システムへの挑戦」、日本電子の末松は「高温超伝導材料を利用した次世代 NMR 技術の開発」、鉄道総研の富田は「次世代鉄道システムを創る超伝導技術イノベーション」について紹介した。今後の進展が楽しみである。( 鉄道総研 長嶋 賢 )

 

MgB 2

 MgB 2 (1) のセッションでは 6 件の発表があり、基礎物性が 1 件、高 J c 化及び高 I c 線材化が 4 件、交流損失が 1 件であった。 まず基礎物性に関しては東大の山本らが、 c 軸配向 (Flat) 及び c 軸が 19° 傾いた (Tilt)2 つのエピタキシャル MgB 2 薄膜を用いて、マルチバンドが輸送特性へ与える影響について調べた。磁気光学法を用いた磁束密度分布や磁化法で評価した J c を用いて、 p バンドの影響が支配的となる Tilt 薄膜の臨界電流密度 J c T の温度依存性が酸化物超伝導体と異なることを明らかし、この薄膜の J c T は 磁束ピンニング以外の要因によって決定している可能性を示した。マルチバンドの影響に関しての研究報告は少なく、その意味からも興味深い内容が報告されており、今後の進展に期待したい。
  高 J c 化に関しては日本大学の中山らが、ビタミン C を添加させた MgB 2 について、 SEM や XRD を用いた組織観察及び磁化法から評価した J c 特性を報告した。組織観察から添加量を 1~5 wt% へ増加させると、 MgB 2 の粒径が減少することを示した。また XRD パターン解析から、添加は a 軸を縮め c 軸を伸展させ、この影響を J c 及び上部臨界磁界 B c2 が顕著に受けると指摘した。但し今回の発表では添加効果に関する詳細なメカニズムには触れなかった。
  高 J c 線材化に関しては九大の嶋田らが、 STM 、 TEM 及び STEM 等を用いて内部拡散法により作製した MgB 2 線材の組織観察を行った。特にフィラメント中央部では未反応 B やボイドは殆どなく、微細な粒径の結晶が多く確認でき、高 J c は結晶の高密度化による電流パス密度の向上によるものであると考察した。一方で、フィラメントの外周部では未反応領域やボイド等が多いことから、今後の特性改善には外周部の未反応領域やボイド、クラックの制御が重要であることを指摘した。
  戸叶らも同様の内部拡散法を用いて、線材の多芯化に伴う組織や超電導特性へ与える影響について報告を行った。特に高臨界電流 I c 化のためには MgB 2 反応層を増やし、 Mg の拡散距離や B 層の厚さを考慮する必要があると指摘した。さらに単芯線材に比べて 7 、 19 芯の方が I c は高く、さらにこの手法では Mg の融点である 650°C より若干低い温度で熱処理を行うことで、高 I c が得られることを示した。
  また、東海大学の金澤らはステンレス鋼管 (SUS304) シースを用いた細径線材の加工性や超伝導特性への影響について調べた。 横断面 の観察から、直径 0.20 、 0.14 、 0.10 mm f と 細線化に伴いシース / コア比が 2.70 から 3.14 へ増加することを示した。また、 J c は 3 つの試料で約 3900 A/mm 2 とほぼ同程度の値となったが、前回発表のステンレス鋼/純鉄二重シースに比べて 1/2~1/3 程度低い値であると報告した。
  交流損失に関しては九大の尾坂らが、超電導誘導/同期モータの固定子巻線への利用を想定した MgB 2 線材に交流通電した場合の交流損失の数値解析を行い、実験結果との詳細な比較を行った。解析結果と実験結果とは定量的にもよく一致し、さらにシース部の渦電流損失解析も行い、この評価の妥当性を示した。
  なお、 MgB 2 (2) に不参加のため、このセッションの 2 件の報告は割愛させて頂きました。 ( 九工大 木内 勝 )

 

RE 系バルク】                        

 RE123 系バルク体に関して、口頭 6 件、ポスター発表 4 件の報告があった。バルク作製プロセス、特性評価、バルク応用の順に概要を報告する。
  東大の赤坂らは、 Y および重希土類系の RE123 バルクの超伝導特性を改善させるため、空気中で溶融凝固を行ったバルク試料に対し、還元雰囲気下のポストアニールを追加した。その結果、還元ポストアニール試料では、 J c や捕捉磁場特性に改善があり、この効果は RE イオンの Ba サイトへの置換量の減少に由来すると報告した。
  岩手大の菊池らは、 Dy123 バルクのピン止め特性の向上を目指し、ピン止め中心の導入として、 La, Pr, Gd イオンを RE サイトに微量置換したバルクの作製を行った。 La, Pr, Gd イオンを 1% 置換したバルク試料の捕捉磁場は、いずれも無置換試料と比べ、低い結果となったため、置換物質や置換量に検討が必要であると報じた。また、同発表者はバルク体の J c 分布を非破壊で測定することのできる、ホールセンサと永久磁石をもちいた Magnetoscan 法の装置の立ち上げも報告していた。
  弘前大の村上らは、前駆体の溶融を酸素雰囲気下で行った、内部に気孔のない緻密質のバルクの 77K における機械的特性を、ヤング率と曲げ試験から評価し、緻密質化による改善効果を報告した。
  岩手大の古田らは、厚さ方向にスライスしたバルク体の捕捉磁場分布の測定を行った。スライスしたバルク板を積み重ね、バルクの厚さが増加するに従い、磁場が侵入しにくくなることを確認し、シミュレーション通りの結果を得たことを報告しており、また、バルクを重ねることで、より均一なピン止め力を想定したバルク体とみなせると報じた。また同グループの藤代らは、パルス着磁による捕捉磁場向上の方向性をシミュレーションから示した。パルス着磁において、温度のピーク時間を磁場のピーク時間に近づけることは、バルク体の熱伝導率が小さいため非現実的であるが、磁場のピークを温度のピークに近付けることで、 flux creep が抑制され捕捉磁場向上につながると指摘した。
  山口大の原田らは、バルク体を用いた磁気浮上の演示実験用の装置を作製した。ネオジム磁石を同心円状に取り入れた磁石円盤と、市販のバルク体 44 個を用いることで、 50 kg 程度の重量物を 2 時間連続で浮上できることを確認し、実際に小学生を対象とした科学実験に用いたことを報告した。
  東大の関野らは、捕捉磁界の均一化を目指し、バルク体に同心円状のスリット加工を施した。スリット加工により、磁束密度の変動が 3 分の 1 に抑制され、捕捉磁界分布の軸対称性が向上したことを報告した。
  成蹊大の二ノ宮らは、超伝導バルク体間に磁性体 ( 鉄円柱 ) を安定浮上させることを目指し、今回は浮上させた磁性体にバルク体を近付けたり離したときの磁場分布を調べ、ビデオで紹介した。実験から、磁場空間の変化によりバルク体表面に流れる遮蔽電流を応用することで、バルクの片側にくっついてしまい浮上しない浮上体も、安定浮上することが可能になると報告した。( 東京大学 赤坂友幸 )