SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No3, June, 2010


2G 線材のピンニングに対する超伝導層厚膜化の効果を検証    _九州工業大学_


 したがって、そうしたサイズ効果を理解するためには磁束バンドルの大きさがどのように決まるかを知っておく必要がある。例えば、磁束の長さ方向のバンドルサイズを考える。磁束のある部位が熱擾乱を受けて動くとき、少し離れた両端ではピン止めされているため、そこを残して動くことになる。磁束バンドルサイズ、すなわち、熱擾乱を受けて動ける磁束の長さは磁束線の曲げの弾性定数 C 44 = B 2 / m 0 とピンニングの強さを与える Labusch パラメーター a L で決まり、通常、以下の近似式 で与えられる。

L = ( C 44 / a L ) 1/2 ≒ ( Ba f /2 pm 0 J c0 ) 1/2

 ここで a f は磁束格子間隔、 J c0 は磁束クリープがない場合の仮想的臨界電流密度である。垂直磁界下の薄膜ではその厚さ d L を超える場合、薄膜内で磁束は曲がることができて 3 次元ピンニング状態となり、 J c0 は厚さ d に依存しない。逆に d L 以下であれば、磁束は曲がることなく、 2 次元ピンニング状態となる。ランダムピンの場合、 2 次元ピンニング状態では同じピンではあっても、薄い方がピン力の打ち消しあいの度合いが小さいため、 J c0 の値は大きくなる。通常、 J c0 は温度や磁界の増加とともに急速に減少するため、磁束バンドルサイズ L は高温・高磁界で増加する。したがって、低温・低磁界では 3 次元ピンニングではあっても、高温・高磁界では 2 次元となることが多く、とくに不可逆磁界近傍では 2 次元状態となることに注意を要する。以上の磁束バンドルサイズとそれに関与するピンニングの次元性については、文献 1) を参照されたい。
  ここで、 2G 線材についての具体例を見てみよう。以下のデータは九工大の松下照男教授のグループによって NEDO の委託事業「イットリウム系超電導電力機器技術開発」の一環の研究で得られたものである。図 1 は CVD 法で作製した YGdBCO コート線材の 20 K と 60 K における臨界電流密度の磁界依存性 2) ( 垂直磁界下 ) であるが、低温や低磁界では同様な臨界電流密度ではあっても、高温・高磁界では薄い試料ほど急速に劣化している。こうした臨界電流密度の磁界依存性は大体磁束クリープ・フロー・モデルで説明できる。一般に J c0 の大きさは統計分布することが知られているが ( この分布によって n 値を定量的に説明できる ) 、その最頻値を用いて評価される磁束バンドルサイズの 60 K における磁界依存性を図 2 に示す。 L が磁界とともに大きくなるので、薄い試料ではすぐに L が超伝導層の厚さに達し、 2 次元ピンニングとなって特性が劣化することが知れよう。すなわち、ややJ c0 が低い試料 #2 では 1.5 T 近傍で 2 次元に 、試料 #4 では 6 T 近傍で 2 次元になるが、最も厚い試料 #6 では 2 次元になるのはかなり高磁界である。図 3 は同じコート線材の 77.3 K における不可逆磁界と超伝導層厚の関係で、厚い方が高磁界で有利であることが明白である。なお、この測定には直流磁化法を用いており、電界領域が低いことから通常の 4 端子法測定よりも低い値になっている。
  SMES への応用が期待される 20 K のような低温では、薄い試料でも高磁界まで厚い試料と同様に高い臨界電流密度を保つ。しかし、高磁界での磁束クリープによる電流緩和率は、薄い試料で大きいことが確認される。こうした点は臨界電流密度の値からだけでは知りえない。
  松下教授によれば、「超伝導層の厚さは磁束ピンニングの強さと同様に高磁界での臨界電流密度特性を決定する重要な因子であり、とくに高磁界特性を改善するためには超伝導層を厚くすることが重要で、臨界電流容量の増大とマッチするので好都合である。」とのことである。 (Flux pinning)

図 1. CVD 法 YGdBCO コート線材の 20, 60 K での臨界電流密度の c 軸方向磁界依存性 2)

 

図 2. 60 K における長さ方向の磁束バンドルサイズの磁界依存性

図 3. CVD 法による YGdBCO コート線材の 77.3 K における不可逆磁界 3) ( c 軸方向 )

参考文献

1) 松下照男,超伝導体における磁束ピンニング [6] ―高温超伝導体のピンニング特性―, 低温工学  44 巻 5 号 (2009) p.201.

2) 高橋祐治ほか, 2010 年度春季低温工学・超電導学会講演概要集 p.75.

3) 高橋祐治ほか, 2009 年度秋季低温工学・超電導学会講演概要集 p.90.