SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No3, June, 2010


200 m 超伝導直流ケーブル試験を実施!   _中部大学 超伝導センター (CASER) _


中部大学では平成 17 年度から 5 年計画で文部科学省の支援を受けて 20 m 級ケーブル実験装置を建設すると同時に断熱 2 重管の熱侵入量を測定するためのテストベンチを製作し、複数のアイデアを試し、基本的な性能を確認してきた。幸いに高温超伝導テープ線材を利用した直流超伝導送電システムとしては世界初の実験装置となり、今までに 5 回の冷却試験を行い、装置として健全に機能し、当初の目標をほぼ達成することができた。また、断熱 2 重管の構造を複数試し、熱侵入量が 0.5~0.6 W/m 程度まで下げることができた。この熱侵入量は、米国 EPRI が 2016 年までに達成すべき値としているレベルであり、超電導送電システムの低損失性を強くアピールすることができた。
  これら研究成果を踏まえて、 2008 年度からナノオプト・エナジー社からの支援を受けて 200 m 級ケーブル実験装置の建設を進め、 2009 年 12 月に装置を完成し、 2010 年 1 月から 3 月にかけて冷却及び通電試験を行ってきた。本稿は速報として装置の建設過程及び第 1 回目の通電までの結果について概説し、今後の予定について記す。

< 200 m ケーブル実験装置の完成と特徴>
  実験装置設計は 2008 年 7 月から開始し、各種機器の発注を行った。実験棟は 2009 年 3 月に工事を開始し、 2009 年 7 月に竣工した。そして、 8 月から実験装置の据付・組立を実験棟内で開始し、 12 月末に実験装置は完成した。図 1 は完成後の実験棟内のレイアウトを示した。端末 A と端末 B の間で送電を行う。冷凍機はアイシン精機のスターリング冷凍機 (1 kW@77 K) を 1 台利用している。また、循環ポンプもアイシン精機製である。図 2 は実験棟外の超電導ケーブルを納めた断熱 2 重管である。この配管のレイアウト及び写真を図 3 に示した。この実験装置の大きな特徴は、

1•  断熱 2 重管の外菅が鉄管であり、内管も含めてストレート管の利用

2•  熱収縮を吸収するために、ダイナミックベローズを用い、端末クライオスタットを可動化

3•  端末部での熱侵入を低減するためにペルチェ電流リードの利用

4•  HTS テープ線材に流す電流を均一にするために、電流リード部をテープ線材毎に分けたこと

などである。このため、断熱 2 重管を製作してから、超電導ケーブルを管内に引き込むことになり、従来の布設工法とは異なる。交流損が無いことと断熱 2 重管の低い熱侵入のため、液体窒素の循環量を 10 リットル / 分程度の値を目安にした。今回の実験では、 5 リットル / 分から 15 リットル/分まで安定に循環することができた。これは、直管を利用しているために、圧力損の低いことと熱負荷が低いことによると考えている。
  真空排気及び冷却実験はそれぞれ 1 週間で完了した。その後、冷凍循環系の試験を 1 ヶ月ほど行い、 10 リッター / 分程度で安定に循環した。そして、 1.2 kA までの通電試験を行い、 3 月 8 日から昇温を行った。そして、現在まで順調に推移した。

 

図 1  実験室内レイアウト

<今後の研究方向>

2010 年度には、テストベンチなどの実験も含めて各種実験を予定している。今後の技術課題としては、

1•  長距離の超伝導配管の真空排気と高真空達成方法及び維持

2•  低熱侵入と低い循環動力システムの実現

3•  低熱侵入端末の実用化と新しいアイデアの試験

4•  HTS 線材の特性を生かした大電流導体の開発

である。これらについて、現在複数のアイデアがあり、順次試していく予定である。更に、現在スマートグリッドが広く議論されていて、近い将来電力網が大きく変わる可能性が高くなっている。特に、直流利用が再生可能エネルギー源と組み合わせて議論されている。これは、化石燃料資源の枯渇や地球温暖化問題と絡めて議論をされることが多く重要であるが、これは電力技術の固有課題としても議論を進めるべきであると考えている。つまり、太陽電池や風力発電の出力が直流に向いていることや電力の最終需要が直流であることなどである。このような技術的なトレンドの中で、直流超伝導送電システムを導入できないかを検討している。そして、この中で直流超伝導送電システムの技術仕様が決まって行くであろうと考えている。 ( 福山太郎 )

 

図 2  断熱 2 重管 ( 実験棟外部 )

 

 

 

図3 超伝導配管のレイアウト及び写真

 

 

参考文献

1•  H. Hamabe et al , IEEE Trans. Applied Supercond. 17(2) (2007) 1722-1725. 及び Y. Nasu et al , Proc. ICEC/ICMC , Seoul , Korea (2008) 489-494.

2•  S. Yamaguchi et al, J. Physics, Conference Series 97 (2008) 012290.

3•  Y. Ivanov et al, Trans. Cryogenic Eng. , Conf . vol. 55, (2010).