SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No3, June, 2010


全超電導誘導同期機の回転試験に成功!

−車載用高温超電導駆動システムの研究開発にはずみ!

_京都大学、イムラ材料開発研究所、応用科学研究所、新潟大学_


 京都大学、 ( 株 ) イムラ材料開発研究所、 ( 財 ) 応用科学研究所、および新潟大学の産学グループは、 NEDO からの委託のもと、「省エネルギー革新技術開発事業」の一環として、アイシン精機 ( 株 ) とともに車載用高温超電導電気駆動システムを研究開発している [1] 。本委託事業では、 (1) 高温超電導誘導同期回転機の開発、 (2) 最適ドライブ技術開発、 (3) 小型高効率冷凍機の開発、 (4) 車載用冷却構造・方式の研究開発を 4 本柱とし、車載用の冷凍機一体型高温超電導誘導同期駆動システムの研究開発を実施している。今回、上記開発課題 (1) について、固定子交流巻線ならびに回転子巻線の両者を超電導化した全高温超電導誘導同期機モデルを開発し、回転試験に成功した。
  本プロジェクトで開発している駆動用モータは、かご型巻線を有する高温超電導誘導同期機 (High Temperature Superconductor Induction-Synchronous Machine: HTS-ISM) であり、その駆動原理や特長については文献 [2] を参照頂きたい。固定子巻線を高温超電導化するメリットは、同巻線の銅損減少に伴う効率改善と、特に低速回転時におけるトルク特性改善である。即ち、冷凍機も含めた数十 kW 級システムの総合効率を検討する際には、 1% でも回転機効率を改善することが重要な技術開発課題であり、固定子巻線超電導化は必須である。また、特にガソリンエンジン車において 1 速や 2 速に対応する低速度時は、所謂定トルクモード ( 速度によらず一定トルク ) で駆動制御するが、この時必要な牽引力を既存の永久磁石モータ単独で実現することは困難であり、通常はトランスミッションギアが使用される。従って、もし駆動モータのシャフト軸で十分な牽引力を実現できれば、上記ギア省略に伴う車体の軽量化や省スペース化を図ることが可能となり、さらに同ギアの大きな損失を無くすことができる。
  これまで本グループは、回転子巻線のみ高温超電導化した HTS-ISM について大きな高トルク密度化が達成可能であることを実験的に明確化している [3] 。しかしながら、全超電導回転機に関しては、世界で唯一 IHI が誘導子型と呼ばれる船舶用回転機で成功したのみであり、汎用機のレトロフィットタイプとして成功した例は無かったことから、慎重な検討を重ねていた。その結果、今回はイットリウム系の高温超電導テープ材をレーストラック型のダブルパンケーキ構造でコイル化し ( 図 1) 、 3 相 4 極の集中巻構成 ( スター結線 ) として巻線を実施した。さらに、試作した固定子にビスマス系高温超電導かご型巻線を有する回転子を組み合わせ、全高温超電導 HTS-ISM を完成した ( 図 2) 。試作した回転機を液体窒素浸漬状態とし、市販の PWM インバータで ( 電圧 / 周波数 = 一定 ) 制御で駆動したところ、周波数 10 Hz(300 rpm) における定常同期回転に成功した。回転試験は、予想に反してあっけなく成功したとのことであった。なお、本試験ではシステムの機械共振により高い周波数の回転試験は行っていないが、システム改良後に実施し、また実負荷試験にもトライすべく準備している。さらに現在は、より大容量機の設計を行っており、今年中に開発ならびに回転試験を実施する予定とのことである。
  本プロジェクトのリーダーである京都大学・中村武恒准教授によると、「本プロジェクトでは、冷凍機一体型のシステムを実現する必要から、損失を少しでも低減するために、全高温超電導回転機を開発する必要がある。本モデル機の回転成功によって、十 kW を超えるプロトタイプ機の開発にはずみがついた。今後は、高温超電導コイルや鉄心材料の特性、あるいは冷却系を含めたシステム全体の構造を総合的な観点から検討し、 HTS-ISM の車載システムとしての成立性を実証したい。」とコメントしている。また、高温超電導線材や鉄心材料の特性評価を担当しており、本研究開発に継続的に関わっている応用科学研究所・長村光造特別研究員 ( 同研究所理事、京都大学名誉教授 ) は、「超電導特性を利用して極めて高いトルク密度の同期回転ができることが本回転機の最大の特徴であり、ダイレクトドライブが可能な本格的な車載用超電導回転機の実用化に向けての大きな前進と考えられる。」とコメントしている。
  この研究は、省エネルギー革新技術開発事業「冷凍機一体型高温超電導誘導同期駆動システムの研究開発」の一環として、 ( 独 ) 新エネルギー・産業技術総合開発機構 ( NEDO) の委託のもとで実施されたものである。 ( 京大 TN)

 

 図 1  固定子巻線用イットリウム系高温超電導コイルの外観写真

 

図 2  開発した全高温超電導誘導同期機の外観写真

 

参考文献

[1] 中村武恒 , “特集:超電導産業機器技術の展開「電気自動車用超電導モータ技術開発の進展」” , 超電導 Web21, 2010 年 3 月号 (2010) pp. 5-7.

[2] 「誘導か同期か?−高温超電導かご型誘導モータの特異な回転特性_京都大学_」 , 超伝導コミュニケーションズ (SUPERCOM), vol. 15, no. 1 (2006) pp. 2-3.

[3] 「かご形誘導機+超電導技術で同期トルクが1桁超え!―高温超電導誘導/同期機の能力をダイレクトに証明_京都大学、イムラ材料開発研究所、新潟大学、応用科学研究所_」 , 超伝導コミュニケーションズ (SUPERCOM), vol. 18, no. 2 (2009) pp. 1, 7-8.