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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No2, April, 2010 　

＜会議報告＞

平成 21 年度低温工学協会「磁気遠隔力の発生と利用に関する調査研究会」

　第 3 回調査研究会が平成 22 年 2 月 23 日、東京大学弥生キャンパスにて開催された。講師として寺田典樹氏 ( 物質材料研究機構・研究員 ) 、山内悠輔氏 ( 物質材料研究機構・独立研究者 ) および岩井一彦氏 ( 名古屋大学・准教授 ) を招き各氏の磁場配向に関する最近の研究成果について講演いただいた。以下に講演の概要について記す。
　寺田氏は「中性子回折による磁場配向過程解析と X 線回折による磁場誘起多段階格子変形の観測」と題して、特に中性子回折測定を利用したスラリー中のセラミックス粒子の磁場配向挙動や配向体の焼結効果の解明に焦点を絞り講演を行った。
　まず、中性子および高輝度放射光 X 線の特徴やこれらを発生する研究施設の紹介がなされた。本講演の主題の一つである中性子回折実験は X 線にはない中性子特有の高い透過性を利用している。これにより静磁場下で設置されたスラリー ( コロイド溶液 ) 中のアルミナ粒子全体の磁場配向挙動が中性子回折実験から in-situ で得られるという。実験は茨城県東海村にある原研の中性子発生施設 JRR3 で行われ、ビームラインの一つに 10 テスラまでの磁場を印加できる試料設置部を備えた中性子回折装置があり、これを利用している。また、アルミナ懸濁液 ( 平均粒径： 170 nm) は水を分散媒とするが、 H 2 O 分子の水素による中性子の吸収が大きいため分散媒として重水を用いるなどの実験上の配慮がなされている。様々な磁場下で中性子回折実験を行った結果、磁場強度とともに c 軸配向度が高まる。さらに新たな実験事実として、①アルミナの場合 10 テスラでは配向度が不十分であること、②ボルツマン分布を考慮した配向分布の式からスラリー中でのアルミナ粒子の完全配向には 20 テスラ程度の磁場が必要となること、が明らかとなった。
　話題はアルミナ磁場配向体の配向度の焼結効果に移った。寺田氏は焼結温度を変数とした様々な配向体についても中性子回折実験を行っている。結論としては、①焼結後の配向度はスラリー中で得られていた配向度よりも高いこと、焼結温度の上昇とともに焼結による配向度の上昇度合いが飛躍的に高まること、が得られた。これまで、 NIMS の研究グループはアルミナ磁場配向体の配向度決定因子としての焼結温度の重要性を実験的に指摘してきたが、その理由についてはよくわかっていなかった。寺田氏の一連の研究から上記の問題をほぼ定量的に解明できた、とのことである。
　山内氏は「メソ細孔を強磁場で操る：メソポーラスシリカ薄膜中のメソ細孔の磁場配向」と題して静磁場を利用したメソポーラス物質の組織制御に関する研究について紹介した。メソポーラス物質は、細孔径がミクロ孔 ( 2 nm 以下 ) とマクロ孔 ( 50 nm 以上 ) の中間の細孔を有する物質であり、均一な細孔およびメソチャネルの規則配列などの特徴を有する。特に nm サイズの孔を有するメソポーラス材料はナノテクノロジーの代表的な材料の一つとしても認知されつつある。山内氏はナノメータースケールの規則的な細孔配列・高比表面積を有するメソポーラスシリカ薄膜におけるメソチャネルのマクロスコピックな配向制御に静磁場配向法を用いて取り組んでいる。特に、基板面に平行に成長してしまうメソチャネルを垂直配向させることはテラビットクラスの記録メディアへの展開をはじめ、分離膜・高感度センサーなど種々の応用に繋がる可能性を秘めているという。メソポーラスシリカ薄膜はシリカ源である TEOS ( テトラエトキシシラン ) を含む前駆溶液を基板にキャスト・乾燥させたのち焼成を行うことで得られるが、磁場印加は乾燥の過程で行っている。
　本講演では、 2 種類の異なる界面活性剤 ( 非イオン性界面活性剤トリブロックコポリマー P123 ( EO 20 -PO 70 -EO 20 ) と陽イオン性界面活性剤 CTAB ( セチルトリメチルアンモニウムブロミド )) を用いて、界面活性剤がメソチャネルの磁場配向組織に与える影響についての取り組みについての話題が提供された。基板面に対して平行磁場下で作製した薄膜の場合、界面活性剤の種類によらずメソチャネルは磁場印加方向に平行に向く。しかし、 in-plane XRD による面内ロッキングカーブによれば、界面活性剤として CTAB を用いたときよりも P123 を用いた方が小さい半値幅を実現し高い配向度を示した。この理由については、界面活性剤のサイズで定性的に理解できるとのことである。すなわち、 P123 は CTAB と比較し大きな界面活性剤であり、反磁性物質である界面活性剤の配向エネルギーはロッドの体積に依存し P123 のそれは CTAB に比べて大きくなることで理解できる。さらに、話題は基板面に対するメソチャネルの垂直配向に及んだ。結論としては、垂直磁場配向は原理的に可能であることを示したものの前駆溶液の基板界面と溶液表面での磁場配向が不完全となっているとのことである。液滴の表面・界面エネルギーが磁場配向エネルギーと競合している可能性を指摘した。
　岩井氏は「磁場印加された磁気異方性粒子の配向挙動」と題し、磁場配向のうち特に回転磁場を用いた結晶配向挙動について理論および実験の両面から検証している。回転磁場は結晶内の最も磁化しにくい軸 ( 磁化困難軸 ) を配向させる技術であり、磁場回転面に対して垂直方向にこの軸が向くことを利用する。本講演では、まず磁化困難軸配向状態の時間変化が磁場条件に対してどのような応答を示すのか理論的に明らかにした。その結果、磁化困難軸の配向過程には 2 通り存在し、すなわち結晶が回転磁場の回転速度と同期しながら配向するモード ( 同期モード ) と同期せずに配向するモード ( 非同期モード ) なる配向過程である。これらのモードは同一の配向物質および分散媒条件下では印加磁場および回転速度によって決められる。特筆すべきは、これら 2 つのモードの間に配向時間の磁場依存性についての決定的な違いが存在することである。非同期モードでは磁化困難軸の配向に要する時間を低下させるには印加磁場を増加させる必要がある。しかし、同期モードでは印加磁場の増加とともに配向時間が低下する。一般に、磁場配向に関わる磁気科学関係の研究者は非同期モードでの配向が磁化困難軸配向のための磁場条件と考えているが、本講演ではこの固定概念が適用できない配向条件が存在することを示した。実験的にも 2 つのモードの存在が示された。
　当調査研究会第 3 回研究会は磁場配向にフォーカスした講演会となった。言うまでもなく磁場配向は磁気科学の中核をなす基幹技術であるが、本研究会で話題提供された磁場配向の技術的・解析的進展は数年前の静磁場配向技術と比べると劇的である。特に印象的だったのは、「磁場配向」をキーワードにしながらも各研究者のバックグラウンドが大きく異なっていることである。それぞれの研究者の切り口はさらに多様化しており、磁気科学研究の進捗を詳細に把握するためにはこのような研究会の重要性がますます増していることを感じさせた。 ( 高知工科大　堀井滋 )