SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No2, April, 2010  


変電所実証試験の 事前検証、 30 m 超電導ケーブル試験を取材

_ SUPERCOM 事務局 _


 SUPERCOM 事務局スタッフは大阪府南部、熊取町にて現在行われている超電導ケーブル試験を桜満開の 4 月 6 日に取材した。ちょうどその前日の 4 月 5 日朝に NHK ニュースで報道されたことからご存知の方も多いと思われるが、これは NEDO の高温超電導ケーブル実証プロジェクトの事前検証試験として行われているものである。全長 30 m と短いケーブル試験であるが、管路部分、曲がり部分、超電導−超電導接続 ( ジョイント ) 、超電導−常伝導接続 ( 端末部 ) 、液体窒素循環冷却システムなど、実証試験における重要な技術のほとんどが含まれている。高温超電導ケーブル実証プロジェクトは 2007 年から始まったもので、東京電力、住友電工、前川製作所が共同で取り組んでいる。開発する超電導ケーブルは来年秋から 1 年間、横浜市鶴見区の東京電力旭変電所において実系統に接続される予定になっており、米国の Albany プロジェクトに遅れること 5 年で、超電導ケーブルにより送電された電力が日本でも社会に配られるという時代を迎える。
 このプロジェクトで実証試験用に開発されるケーブルは 300 m 弱の長さで、定格容量は 200 MVA (66 kVrms 、 1.75 kArms) が予定されている。これに加えて 150% (2.6 kArms) の過負荷対応のほか、 3 kArms までの容量増にも適応することを検証する実験も本プロジェクトで行うとのことである。これまで、米国を中心に多くの超電導送電ケーブルの実証プロジェクトが展開されてきたが、今回のプロジェクトは世界最高のエネルギー密度で送電できるコンパクトなケーブルが特徴で、最終目標とされている容量 (3 kArms) の場合およそ 20 GVA/m 2 となる。これは Albany プロジェクトの 6 倍以上、米国最大の LIPA プロジェクトの 2 倍以上に相当する。線材自体の臨界電流密度が Albany プロジェクト当時と比べて高くなっていることに加え、コンパクトな 3 心一括型ケーブル構造を採用していることが高エネルギー密度での送電を可能にしている。
  30 m 検証ケーブルに用いられているものと同じ 3 心一括型ケーブルの写真を図 1 に示す。用いられている超電導線材は住友電工社製の Bi(Pb)2223 線材 (DI-BSCCO) であり、 4 層から成る導体層の 1,2 層目およびシールド層には I c が高い Type HT 線材が、通電によって高い磁場が生じる導体層の 3,4 層目には低交流損失特性を有する Type ACT 線材が使われている。出荷試験 ( サンプル試験 ) での 77 K における Ic 測定の結果、ケーブルコア 1 相分の I c は導体層で約 6.1 kA 、シールド層で約 7.1 kA で、ともに素線性能から予想した値と一致したとのことである。この 30 m 検証ケーブルに対しては主に 66 kV 、 定格電流 2 kArms での運転試験が行われるが、ケーブルコア自体の I c は十分に高いことがわかる。また、交流損失は 2 kArms 通電時に 1 W /m/ 相 以下を目標としていたが、実測値は 0.83 W /m/ 相であり、これもクリアしている。このほか、交流耐電圧試験、雷インパルス試験、直流耐電圧試験についてもスペックを十分に満足する結果が得られている。なお、この試験で用いられているケーブルの 3 相コアのうち 2 相が試験用で 1 相は I c がやや低い線材を用いたダミーコアとしているが、これは費用節約のためであり、検証試験の結果や経験を実証試験線路に生かすうえでの支障は全くないとのことであった。

 

図 1 30 m 超電導ケーブル試験に用いられている 3 心一括型ケーブル。
内側に導体層 (4 層 ) と外側にシールド層が設けられているのがわかる。

 

図 2 30 m 超電導ケーブル試験線路の配置図と全景および各部分の写真。

 図 2 には、 30 m ケーブル検証試験線路のレイアウトおよび各部分の写真を示した。 90° 曲がりを有するレイアウトで、曲がり部は管路で構成されている。さらに超電導−超電導ジョイント、端末 A には超電導−常伝導ジョイント、電流リードおよびブッシングが設けられている。液体窒素は毎分 40 リットル程度の流量でポンプにより循環されており、 1 kW の冷凍機 2 台によってその温度が制御され、取材した際には全区間で 74 ~75 K に保たれていた。ちなみに旭変電所での実証試験では 6 台の冷凍機が使われる予定になっている。室温から運転温度まで約 2 日間で冷却できたとのことで、材料の熱収縮によって生じた張力 2.5 t が 3 心ケーブルコアに印加されているが特性の劣化は無い。また、超電導―超電導接続の部分は、ケーブルコアが向き合った配置となっており、導体層、シールド層ごとにそれぞれ超電導線材によって各コア同士が低抵抗で接続されている。コア接続部の長さは約 1 m 、ジョイントケースは 4 m 程度である。もちろん、この超電導―超電導接続には Albany プロジェクトでの経験が生かされている。
  この 30 m ケーブルの検証試験は昨年の 7 月より始められ、定格確認試験、ヒートサイクル試験、限界性能確認試験の順に行われており、本誌が発行される 4 月末までに全ての試験を完了するそうである。また、来年度早々には実証試験用のケーブルや周辺機器、冷却システムが旭変電所内に設置され、初期冷却後の種々の確認試験を経て実系統に接続される予定になっている。この実証試験の成功によって、日本の超電導技術を世界に、超電導応用の効果を社会に強くアピールできることを期待しながら、弊誌も続報をお届けする予定である。
  最後に、本取材にご協力いただきました住友電工の湯村洋康様、増田孝人様に感謝申し上げます。 (SUPERCOM 事務局取材班 )