SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No1, Feb, 2010


「金属系超電導の歩みから高温超電導」               _古河電工_


 

 古河電工において超電導の研究開発を開始してから 40 年強になる。金属系超電導線材やマグネットの研究開発からスタートし、現在は金属系超電導線材の製造・販売および高温超電導関係の研究開発を行なっている。金属系超電導ではその市場は限られているが、高温超電導が実用化されると市場は飛躍的に拡大されると見られており、両方の分野に取り組んでいる当社の歩みを振り返ってみた。

1 歩み
  1967 年に東京中央研究所で研究開発を開始した。当時は NbTi 系の超電導線材の研究とその評価方法およびマグネットの研究開発も実施しており、少量ではあるが、製造販売を開始したのは研究開発を開始して 1~3 年後である。しかし当時は NbTi の製造方法は銅管に挿入して細くし ( 単芯線 ) 、またこの単芯線を銅管に多数挿入して伸線などで多芯線材を造る所謂管引き法を用いたため、条長、生産性、量産性の問題を抱えていた。この問題を解決するためには大型ビレット押出法を用いることが考えられ、金属加工の中心である日光事業所に製造拠点を移したのが 1973 年である。また A15 型化合物超電導線材についても、当時はテープ状の線材しかできなかった。この形状ではマグネットにしたときの線材安定性など実用面で問題があり、多芯線材の開発を進めたところ、ブロンズ法により世界で初めて開発に成功し、日刊工業新聞社の 10 大発明にも選出された。
  以降超電導線材の研究開発・製造は日光事業所で進められた。 1990 年頃までは線材 ( 素線 ) の特性向上、長尺化、品質向上の開発も進めながら、平行して導体化の開発も行った。初期の頃の導体開発の推進力となったのは超電導で実現可能である加速器など高エネルギー分野と核融合分野であったため、線材の大容量化が必要で、撚線技術、半田付複合化技術、 Al との複合化技術などの開発を進めた。応用先、機器により素線の構成、導体容量、寸法、形状が異なったため、線材仕様に合わせた開発を進めながら、製造を行なったのが実情である。例として興味深いのは、素線性能は大粒子加速器計画が登場する都度不連続的に向上した。 NbTi の J c (5 T, 4.2 K) は 30 年くらいの間の TEVATRON 、 SSC 、 LHC などのビッグプロジェクトのたびに (1200) → 1800 → 2400 → 2700 (A/mm 2 ) とジャンプしたように、プロジェクト応用が線材の開発を牽引した感がある。 Nb 3 Sn も同様であった。
  プロジェクトとしては、国内 TRISTAN 、 Super-GM 、 SMES 、 LHD 、 SRC 計画等、海外では MFTF-B 、 RHIC 、 SSC 、 LHC 等のプロジェクトに参加した。中でも LHC 計画では数年にわたり線材 ( 撚線 ) を供給し、 CERN から認められ、 Golden-Hadron 賞を頂いた。
  一方、民生用として 1980 年代から MRI 、 NMR の登場は超電導線材市場に大きな影響を与えた。リピート製品として、量産体制、品質保証なども重要となってきたと共に線材の単長増の要求もあり、加工技術向上と品質管理で、現在では直径 1 mm f で 10 km 以上の線材製造技術が可能となっている。
  当社は超電導マグネットについても取組み、当初理化学用の小マグネットが中心であったが、その後は小型、中型、高磁界マグネットの開発も進めた。大型マグネットとして TRISTAN 計画で使用された粒子検出器用薄型ソレノイド「 TOPAZ 」の開発も行った。
  1986 年の高温超電導体発見と共に、当社も高温超電導関連の研究開発を開始した。プロジェクトを中心とした研究開発中心であるが、線材開発と共に超電導ケーブルの開発も進めている。交流基盤プロジェクト (NEDO) では当時 (2005 年 ) では世界最長 500 m のケーブル実証試験を成功させている。

2 金属系超電導と高温超電導
  高温超電導 ( 線材 ) の今後の展開を見る上で、金属系超電導の歩みを振り返ることは、役に立つかも知れない。金属系超電導線材の発展は約 30 年で次のような段階を経てきた。

   1•  理化学研究用の中、小型マグネットで使える素線 ( 数百 A)

   2•  プロジェクト中心の大型マグネットの応用とそれに要求される線材の導体化。この導体は機器 ( マグネット ) の要求にしたがって様々な構成となる。また特性面も要求に従って向上していった。 ( 数 kA~ 数十 kA)

   3•  民生汎用超電導機器の登場で、より低コストな量産線材と長尺化、安定した品質が望まれた。 ( n 値重視、単長数 km)

   4•  より高磁界マグネット (NMR, 核融合など ) で Nb 3 Sn など高磁界用線材の進歩

 線材の構成 ( 導体化 ) 、特性、長さ、品質の安定性などは機器からの要求と共に進歩してきた。高温超電導線材の場合は現在まだ素線開発段階と考えられが、これは最も基本で重要である。今後の発展を考えた場合、ケーブル、変圧器、限流器など金属系では不可能であった応用が可能になるなど、金属系超電導の場合とは異なる発展段階を進むことも十分考えられる。いずれにしても高温超電導の実用化の鍵は線材で、そのポイントは金属系と同じで、価格、長さ、量産性にあると考える。また導体化についても既成概念にとらわれない発想、検討が必要ではないかと思われる。機器と共に線材が進歩し、金属系の 1 桁 ~2 桁大きな応用が広がることを望んで止まない。 ( イタル )