SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.19, No1, Feb, 2010


<コラム>2010年新春巻頭言                                                   (株)フジクラ 齊藤 隆


 

 酸化物超電導体が発見されて 23 年を迎えました。発見された当初は次々と新しい物質が発見され、臨界温度は毎週のように塗り替えられ、常温超電導も数年後には発見されると思われた。また、単結晶基板上に作られた薄膜は NbTi や Nb 3 Sn に匹敵する J c が液体窒素温度で実現するのを見て、それほど時間を経ることなく高温超電導機器にも手が着くようになると考えた人も少なくなかった。結晶を配向させなければ高い J c が得られないことから簡単には超電導線にはならなかった。 PIT 法が適用できた Bi 系線材にあっても特性を高めるためには相当な努力を必要とし、また Y 系線材にあってはその特異な結晶粒界の性質から、さらなる高度な結晶配向プロセスを必要とした。このために Y 系線材で 100 m 長のものが実現したのは材料の発見から 17 年を要した。ここ数年ようやく Y 系超電導線も量産化の入り口にたち、種々の応用に向けた開発が始まっているが、世の中にその有用性を示すところまで至っていない。超電導技術は CO 2 削減に対して有効な技術といわれているが定量的に評価できるところまで達していない。液体窒素冷却の応用はケーブルや変圧器での実証機器が試作されているが、液体窒素温度から4 K に至る中間温度での応用機器はほとんどなされていない。今後さらなる超電導線材の作製プロセスの高度化は行われると考えられるが、発見当初に云われた高温超電導材料は冷却構造が簡素化されるため低コストで機器が構成できるといったことを実際に機器を作って示す必要がある。
  地球温暖化対策が世界レベルで議論され低炭素社会実現の有力な技術として超電導技術があることは多くの人が述べておられます。実現には多くの困難も予想されるがこれまでなされてきた努力を持続的に続けていくことで可能となると確信しております。