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SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No6, December, 2009

＜会議報告＞

《2009年度秋季低温工学・超電導学会（11/18～20　岡山大学）》

以下には、MgB2関連、A15関連、Bi系線材の報告を掲載した。個々のセッション報告は低温工学・超電導学会が次のWebで公開している。http://www.csj.or.jp/conference/2009a/session_report_table.html

[MgB2関連]

　本学会でのMgB2関連の発表は20件(口頭発表15件、ポスター発表5件)であった。高Jc化については、前回と同様に、内部拡散法、外部拡散法、ホットプレスがキーワードとの印象を受けたが、東京大の望月氏やNIMSの松本氏から新たに配向化によるJcの向上が報告された。望月氏らは自作の MgB2 粉末を10 Tの磁場下での電気泳動堆積法によりc軸配向させ、ホットプレスによって高密度・高度c軸配向したバルク体の作製に成功したことを報告した。同様な connectivity の無配向試料に比べて低磁場でのJcが格段に向上しており、ex-situ線材で劇的な特性改善が実現できる可能性を示唆したことで注目された。松本氏らはホットプレスにより Jcが向上することを報告した。ホットプレスを行うことによりアスペクト比が変化し、かつ不可逆磁場も向上しており、c 軸配向しているのではないかという議論が行われた。また、NIMS の Kim 氏らはB粉末の純度により MgB2 のJc-B特性は大きく異なるものの、低磁場領域では変らないので、低品質のB粉末でも使用環境によっては適用できることを示した。
　応用については、九州大の柁川氏、神戸大の世良氏らから液体水素液面計としての適用可能性が報告された。柁川氏らからは、通常液面計にはヒーターを用いるが、今回開発した MgB2 線材の液体水素液面計ではヒーターを必要としないため、安価に作製できる可能性があることが示された。また、九州大の尾坂氏らから固定子巻線の交流損失を有限要素法によって解析した結果が報告された。今後の研究に期待したい。
また、 MgB2小コイルについての発表が九州大から2件行われた。浦竹氏らは、コイル励磁特性を数値シミュレーションするために、TaバリアMgB2短尺線のE-J特性を実験により求め、その磁場・温度依存性を再現する実験式を構築した。さらに、田中氏らからは、Ta バリア MgB2 線材を用いて試作したコイルの熱安定性について報告があった。14 K及び20 Kの伝導冷却下ではいずれも Ic の 1.4 倍の電流を通電しても熱暴走に至らなかった。また、有限要素法による数値シミュレーションで評価したところ、実験結果と同様の結果が得られたと述べた。熱暴走時のコイル両端電圧、温度変化は比較的緩やかであり、コイル保護は十分に可能とのことであった。
　最後に、富山大の水谷氏らは、MgB2/Al 複合材料に In を添加したビレットを作製し、それを押出加工した線材の試作結果を報告した。線材全　体に占める MgB2 の割合は 50 % である。今回、In を添加することにより、無添加の場合に比べてJc 特性が 1 桁向上することを報告した。電流パスの確保が難しいという課題は残るが、新規な線材作製手法として興味深い。
　学会終了後にMgB2の材料特性向上に関する調査研究会が開催された。参加者は約50名。先日開催されたEUCAS2009の報告や、停滞気味である国内の実用に向けた線材・コイル開発を加速すべく、活発な議論が行われたことを付記しておく。　　(日立/九州大　田中和英)

[A15 関連 ]

　Nb 3 Sn は歪み効果、中性子照射効果、 Sn 基合金、ブロンズ合金について合計 7 件、 Nb 3 Al は低温拡散法と急冷法について合計 4 件、 V-Ti 合金をはじめとした拡散法合金線材については 3 件の発表があった。 Nb 3 Sn 線材の高 J c 化を主目的とした研究は米国では一段落しており、現実に Nb 3 Sn を使用するという観点に立ち返ると、 J c がある程度のレベルに達していることを前提に安定性や歪み依存性の評価が重要になるのは道理であり、実際、そのように研究内容がシフトしている。高 J c 化の研究そのものがあまり活発でなかった我が国では、以前より、強磁場・大型応用で重要な歪み効果について、中性子回折等を利用して 3 次元歪み状態をきっちり押さえて理解しようと努めている。西島 ( 東北大 ) らは線材軸方向と横方向に直接歪みゲージを貼り付け、両方向の歪みを測定することにより 3 次元歪みを測定評価した。また、淡路 ( 東北大 ) らは高強度 Nb 3 Sn 線材の長手方向から横手方向までの歪みの角度依存性を中性子回折により測定し、 X 線を利用して測定された文献データと同様の結果であることを確認した。延原 ( 岡山大 ) らは FEM により 3 次元歪み解析を行った。三好 ( 古河電工 ) は撚り線の歪み解析を行い、 Nb 3 Sn 撚り線の巻線時の歪みは撚り線内部で素線が相互にスライドするモデルで説明できることを示した。太刀川ら ( 東海大 ) は Ta と B を添加した Sn 基合金を用いた場合の特性比較を報告した。谷口 ( 大阪合金 ) らは Nb 3 Sn の原材料となる高 Sn 濃度ブロンズの組織と力学特性を調査し、焼鈍後に連続して断線するまで伸線加工を施して ( 許容 ) 積算加工率を求め、 600°C の焼鈍により優れた冷間加工性が得られることを報告した。 Nb と複合した場合の加工性並びにその超伝導特性の報告が待たれる。
　急冷法 Nb 3 Al は 1 km 級の Cu 安定化長尺線材が製造できるようになり大型応用への展開が現実味を帯びてきた。菊池 (NIMS) らはやはり大型応用を目指して開発されたものの現在開発が中断している拡散法 Nb 3 Al との比較を実施した。加速器応用を念頭に 2 K での J c を比較し、 4.2 K, 12 T では急冷法線材が拡散法線材より 2 倍高いが 1.9 K ではその優位差が 1.5 倍程度に減少することを明らかにした。伴野 (NIMS) らは 2 回急冷した Nb 3 Al の T c 測定で 2 相分離する組織に対応して onset T c がそれぞれ 19.3 K と 17 K 以下の 2 段遷移が現れることを明らかにするとともにその生成機構の解明を試みた。 1 回急冷での部分溶融に類似した組織ながら高い T c が現れることは興味深い。飯嶋 (NIMS) らは、電極間隔を固定せずに急冷処理のパラメータとして加えて急冷条件の最適化を行った。竹内 (NIMS) らは、フィラメントバリアを Cu/Ta とする新しい Cu 内部安定化線材を提案したが、 Cu とフィラメントが反応してしまい思惑通りの結果が得られなかった。 Ta を厚くすることによる捲土重来を期待したい。溶解鋳造を経ずに要素金属間の拡散反応で合金超伝導線を製造する方法により、湯本 ( 足利工大 ) 、白石 ( 足利工大 ) 、斎藤 ( 足利工大 ) らがそれぞれ V-Ti 合金、 Nb-Zr 合金、 Nb-Ti 合金を作製しその超伝導特性を報告した。要素金属の拡散対はいずれもクラッドチップ押し出し法と呼ばれる方法で作製されている。合金化のための拡散熱処理後に伸線加工と析出処理を繰り返すと J c が改善する。 Nb-Ti 合金では 9 T, 4.2 K で 3000 A/mm 2 程度の J c を示した。　 ( 物質・材料研究機構　竹内孝夫 )

【 Bi 系線材】

　Bi 系線材に関して口頭 12 件、ポスター 6 件の報告があった。線材作製プロセスならびに線材特性、評価技術、ケーブル・コイル等への線材応用の順に要旨を報告する。
　住友電工の菊地らより、 DI-BSCCO の開発状況に関する報告があった。 Type H において I c × L =368 kAm と世界最高値を更新したほか、短尺線材ではプロセス改善によって I c =236 A 、 J c =660 A/mm 2 へと性能向上を果たし、磁場中の I c 特性にも改善が見られている。東大渡辺らより仕込み組成を定比にした Bi2223 単芯線材ならびに多芯線材の高 T c 化に関する研究報告があった。定比組成では、ポストアニール処理によって従来よりも高い T c を実現できると同時に、同じ熱処理中に生成する不純物相が粒間特性を低下させることを問題に挙げ、高温・低酸素分圧下での熱処理によって不純物相の生成が抑制できるとの実験結果を示した。 NIMS の松本らは、 Bi の仕込み量を系統的に変えた Bi2212 丸線材の特性に関して報告した。 Bi 組成 2.05~2.25 の中では 2.05 のものが最も高い I c を示しており、 I c の有意差を生む要因の 1 つとして徐冷後に残存している不純物相の粒径を挙げた。豊橋技科大の稲田らは、母材に高抵抗 Ag/Au 合金を用いた 19 芯線 ( 結合周波数 f c =160 Hz) における磁化損失の振る舞いを調査した。磁界振幅 >5 mT では結合損失の寄与が大きく、商用周波数域における磁化損失測定値は完全結合時の値からさほど低減していないとし、結合損失低減のためには f c =400 Hz への改善が必要である、との見解を述べた。九大の野上らは住友電工製 55 芯ツイスト線を用いて垂直磁界下交流損失特性を評価した。ヒステリシス損失は ① ツイストピッチ依存性すること、 ② 中心到達磁界よりも十分大きな領域において線材断面における等価的臨界電流密度と比例関係にあること、の 2 点を示し、これらの現象は in-situ Nb 3 Sn 多芯線で観測されるツイスト効果によって説明できるとした。
　九大の本田らは、走査型ホール素子磁気顕微鏡を用いた電流分布の可視化に成功し、 I c =200 A 級を有する Bi2223 線材の中央部では 800 A/cm のシート電流密度が実現できていることを明らかにした。豊橋技科大の馬場らは、ホール素子磁気顕微鏡で線材表面上の二次元残留磁化分布を測定することによって、酸化物バリアを導入した多芯線材の低 I c の要因を調査した結果を示した。同、中村らより線材のツイスト角と J c との関連について、幾何学的見地に基づいた解析を行った結果に関して報告があった。早大の青木らは中性子照射前後の超電導特性の評価結果を報告し、 1G 線、 2G 線ともに照射後の I c 、 n 値の低下は観測されておらず、耐放射性が示された。
　鉄道総研の富田より、直流き電システムの応用を想定したデモシステムの試験結果に関する報告があった。 71~77 K で I c 測定を実施、 I c と n 値ともに問題なく、減圧も順調に実施できていた。今後は「 1500 V 、 5 kA 」のシステム設計、導入方式を検討するとのことである。中部大学の浜辺より、 20 m 級直流送電装置の試験結果についての報告があった。 2009 年 7 月に第 4 クールが終了し、これまでに I c 低下もなく J c - T 特性も良好な結果を得ている。次のケーブル設計に向けて、ケーブル構成時の線材特性の検証試験も行われ、線材 1 本の単独通電時、全線通電時、両脇 2 本だけ通電しない場合等の素線の I c を測定した結果、漏れ磁場や擬似的な大ギャップの影響が 5% 程度存在することを明らかにした。東北大ではデータセンターへの DC-HTS ケーブル導入を検討しており、今回、大友らは、 50 V 、 20 kA/ フロアを想定して、 325 sq-CV ケーブル 124 条と 1MW-HTS1 条とで経済性を比較した結果を示した。 HTS の場合、端末侵入熱を如何に減らすかが重要であるとの見解を述べた。車載応用が検討されている HTS 誘導 / 同期モータ (ISM) の開発について、京大、イムラ材研のグループから 3 件の報告があった。 1 件目では回転数および負荷トルクの異なる多数の運転状態を想定した効率マップが紹介され、 HTS-ISM が車載用のモータとして十分な特性を有することが示された。続けて、 HTS-ISM の負荷特性の評価結果について報告があり、実機を用いた負荷試験の結果と解析モデルに基づく負荷特性との比較検討がなされた。 3 件目では、固定子巻線が鉄心スロット内に収められている環境下におけるテープ材ならびにレーストラックコイルの通電特性に関する報告があった。空芯 → 鉄心 → 空芯の順に I c 、 n 値を測定して特性低下の影響を調査した結果、線材の配置方法 (Horizontal 配置、 Vertical 配置 ) によって垂直磁場成分の寄与が変わり、 I c の低下を伴うケースが存在する、とした。　　 ( 住友電工　菊地昌志 )

＜会議報告＞

《2009年度秋季低温工学・超電導学会（11/18～20 岡山大学）》

《2009年度秋季低温工学・超電導学会（11/18～20　岡山大学）》