SUPERCONDUCTIVITY COMMUNICATIONS, Vol.18, No5, October, 2009

 


〈会議報告〉
2009 European Conference on Applied Superconductivity
(9/13 ~ 17 @ Dresden Tech. Univ., Dresden, Germany)


【RE123バルク】
 RE123バルク体に関するセッションでは、口頭発表11件、ポスター発表 23件の合わせて34件の報告があり、このうち日本のグループからの発表件数は全体の約3割であった。分野別では基礎特性に関する発表が大半を占めた。
 臨界電流特性および捕捉磁場特性に関しては、従来の微細粒子添加手法によるこれらの向上を検討した報告が半数だった。まず招待講演でCambridge大のCardwellによりRE2411(RE2BaMCuOy; M = Metal)添加に関する結果に加え、BaO2添加によるRE/Ba置換量の制御、Mg添加Nd123バルクを種結晶とする手法などに関した一連の結果がまとめられた。また同グループのShi, Hoerhager らからはY2411添加によるシングルドメイン成長の阻害を改善する手法の検討結果やGd123に対するGd2411(M=Bi)添加結果などが報告された。また海洋大の和泉らのグループからは、Fe-Cu-Nb-Si-Cr-B合金をGd123に添加した結果が報告された。IFWの飯田らは、ボールミルによるRE211粒子の微細化を行い、Jc改善を検討した。一方、幾つかのグループから微量ドープ法を用いた研究結果が報告がされ、バルク体に関してはスロバキアのグループからの報告があった。スロバキア科学アカデミーのDiko, Antalらからは、高温高圧酸素アニールによって試料全体の酸素量均一性を保ちながら酸素アニールを行うことでc軸方向のクラックを抑制でき、臨界電流特性が向上したことが報告された。この方法により作製されたY123バルク体ではLi, Alの微量ドープによりJcが2~3倍向上し、2~3 Tの磁場下で5~6万A/cm2程度に達することが報告された。また、チェコ科学アカデミーのJirsaらは、(Nd,Eu,Gd)123バルクのBc2を比熱測定により調べたところ、Y123より低い可能性があることを報告した。機械的特性に関しては、弘前大の村上らによる破断面組織からの考察のほか、銀を用いたバルク体の溶接技術に関して、バルセロナ大のRoaらからナノインデンテーション法による機械的強度の評価結果が報告された。溶接面前後における結晶方位のずれを最小限にすることで、溶接部においてバルク本体と遜色ない機械的特性が得られていることが示された。
 応用に関連した報告で、新潟大の岡らは、フィルター交換が不要で連続運転できる磁気分離システムを開発したと報告した。この新システムでは、従来提案されてきた強磁性フィルターの代わりに汚水チャネルに配置した強磁性ビーズと着磁したバルク体により磁気分離を行う。分離後はチャネルをバルク体から離し、圧縮空気を流してフロックを回収する。このようなチャネルを二本用意し、それらへの汚水の流入をスイッチすることで、分離と回収を同時に行うことが可能である。岩手大の藤代らは、直線上に設置した5つのバルク体により、フィルター交換の不要な磁気分離システムの稼動実験の結果を報告した。   (東京大学 石井悠衣)

【MgB2関連】
本学会でのMgB2関連の発表は55件(口頭発表21件、ポスター発表34件)であった。
まず、口頭発表について紹介する。Wollongong大のAlexeyらはCドープの新たな手法として"Liquid mixing (Sugar)"を採用して、Jcの改善を報告した。今回は新たなドーパントして、olycarbosilane(PCS), malic acidを用いており、各B粒子にアモルファスのC-layerがコーティングされ、一様にCがドープできることが示された。これにより高磁場のJcが改善され、特にPCSを用いた試料はSiCをドープした試料よりも高いJc(~105 A/cm2 @5 K, 5 T)を示したことが報告された。Nat. Ac. Sci. of UkraineのTetianaらは、高圧(~2 GPa)高温 (700~1000°C)の条件の下、ドーパント(Ti, Ta, Zr, SiC)、仕込組成(Mg:B = 1:2, 1:4, 1:6, 1:7, 1:8, 1:10, 1:12, 1:20)を変化させ、B-richな粒の量、分布とその特性を評価し、仕込組成がMgB12に近い試料が最も高いJcを示したことを報告した。IFW-DresdenのMarkoらは、Mechanical alloyingの条件と最終的に得られるB2多結晶体の特性の関係を調べ、ボールミルのエネルギーが増加するにつれて、粒径が小さくなり変形抵抗も増加し、Jcがすることを示した。中国科学アカデミーのGaoらは、Cドープによる不純物散乱の増大とナノサイズの不純物添加によるピンニング力の増大を同時に実現させるため、ドーパントとしてorganic rare-earth salt(Y(C8H15O2)3, La-benzoate)を用いることにより、JcがLa-benzoate 10 wt%ドープによって4.2×104 A/cm2 (4.2 K, 10 T)に改善したことを報告した。CNR-INFM LamiaのAndreaらはAr気流中900°Cで作製したMgB2粉末をNiシースに充填、加工した単芯線をMonelシースに詰めて加工することにより19, 91, 361芯のex-situ法MgB2多芯線材を作製した。ボールミルによって粒径を小さくした線材のほうがJcは高く、91芯線においてフィラメント径と粒径の比が最も良かったと報告した。
 続いて、ポスター発表について紹介する。島根大のKuboらは、サファイア基板上にまず100 nmの厚さのMgB2層を堆積させ、その上にナノサイズの粒子(Bi2O3 : ~5 nm, Cu : ~2 nm, Ti : ~5 nm)を島状に成長させ、さらにMgB2を100 nm堆積する作業を繰り返し、3層(MgB2 +(MgB2+ナノサイズ粒子)×2)の薄膜を作製したところ、Bi2O3, Cuを導入した薄膜においてJcが顕著に改善したことを報告した。Andong大のAhnらは、Fe, Cuのシースの線材について、Cu, Y2O3を添加してAr気流中、850°C、1時間焼成した場合、Cuシース線材の方がMgOの量が少なく、低磁場のJcが高くなることを示した。また、Cu添加(10%)によりMgB2粒が微細化するとともに組織も緻密になり、低磁場のJcが改善するとのことであった。東大のMochizukiらは電気泳動堆積法(EPD法)と磁場配向法、ホットプレスによる加圧焼成とを組み合わせることにより、ex-situ法c軸配向高密度MgB2バルクの作製に成功し、高密度化による電流パスの増加と、c軸配向の効果によって、低磁場でのJcが劇的に改善することを示した。   (東京大学 望月利彦)

【鉄ニクタイド超伝導体】
 EUCAS2009では9月15, 16日に鉄ニクタイド系のセッションが行われた。口頭発表は6件、ポスター発表は11件、その他薄膜や単結晶のセッションにおいても数件の発表がされた。開催日時がM2Sと近かったこともあってか、発表件数が少ないように感じられた。全体として、本系の応用を意識した特性評価に関する発表が多かった。
[基調講演]  鉄ニクタイド系超伝導体の発見者である東工大の細野が発見のいきさつから現在までに発見されている物質、最近同グループが発見した水誘起超伝導SrFe2As2について報告した。またジェノバ大のPuttiは鉄ニクタイド系超伝導体の応用に向けた現在までの進展を報告した。
 [口頭発表]  ドレスデン工科大のKlaussは現在までに発見されている鉄系の物質に触れた上で、特に1111系の構造と磁性・超伝導の関係を概説した。ジェノヴァ大のTropeanoは化学圧力の効果を調べるため、YドープLaFeAsO0.85F0.15について構造とTcの関係を調べた。LaFeAs(O,F)への圧力効果と同様に、小さいイオンであるYの導入により格子体積は単調に減少しTcは上昇、TSDWは低下する傾向が見られた。
[ポスター]  ケンブリッジ大のKursumovicはホットプレスを用いたNdFeAs(O,F)のpowder-in-tube線材を作製した。常圧下焼成とホットプレスを併用した手法では顕著な抵抗率の低下が見られた。またPLD法を用いたGdFeAs(O,F)の薄膜の作製も行い、イオン半径の小さいGdイオンを用いても薄膜が合成できることを示した。福岡工科大のNiはSmFeAs(O,F)の臨界電流を測定した。測定の結果、粒内臨界電流密度が109 A / m2程度であるのに対し粒間臨界電流密度が105 A / m2程度であることから、粒間の弱結合の存在が示唆された。IFW DresdenのK?hlerはWDXを用いた組成分析によりLaFeAs(O,F)とSmFeAs(O,F)におけるFの置換量を精確に求め、LaFeAs(O,F)では仕込組成とおおむね一致していたが、SmFeAs(O,F)ではその半分程度であり、従来、仕込組成をもとに表していた相図の変更が必要となる可能性が指摘された。上海大のCaiはAs欠損SrFe1.8Co0.2As2- において反強磁性が抑制される現象について調べた。なお、鉄ヒ化物超伝導体ではこれがAsの原子位置に大きく影響されることがわかっている。As欠損によりAs原子位置を変化させたところ、Asを1.85から1.8に欠損させることで122 Kに存在した磁化率の異常が消え、反強磁性の抑制が確認された。   (東京大学 松村友多佳)